欧先生の診察室

会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。

2019.06.10

ぐっすり眠れていないんです……

  •  健康診断をきっかけに、高血圧と高脂血症を治療中のRさん(60歳男性)。治療を始めてからは頭痛が減り、体も疲れにくくなったと喜んでいました。血圧は、冬場はときどき高くなることもありましたが、暖かくなってからは安定しています。今日はいつものとおり、お薬がなくなる頃合いでクリニックにいらっしゃいました。顔色がすぐれない様子にわけを聞いてみると、暗い顔で話し始めてくれました。

    「最近、あまり眠れていないんです」
     朝目覚めた時に、ぐっすり眠ったと思えることは、とても幸せなことです。私たちが、あまり眠れていないと感じるのは、どういう時でしょうか?忙しくて、物理的に睡眠時間を確保できない。以前に比べてあまり眠れていないように思う。寝起きに疲れが残っている。これらは誰しも大なり小なり、感じているものです。休日にはゆっくりめに起きるなど、睡眠を自分で調節できているうちは問題ありません。しかし、時間はあるのに、いざ寝ようとしてもなかなか寝付けない。途中で何度も起きてしまう。朝早くに目が覚めてしまう。こういった調子で思うように眠ることができないと、疲れをリセットできずに持ち越し続けることになります。

  • 良質な睡眠が得られない理由

    「疲れやすくって、いろんなことがおっくうになっていて……」
     良質な睡眠は、心(脳)と体の休息に欠かせないものです。思うように眠れない日々が続くと、どうなってしまうのでしょうか?
    脳が疲れて処理能力が落ちるために、集中力が落ちて、普段できていたことが思いどおりにはかどらなくなります。疲れが蓄積してくると、まるでうつ病になったかのように物事がおっくうになったり、物忘れが増えて認知症になったのではないかと心配になったりすることもあるでしょう。気持ちも不安定になって、イライラしたり、逆にふさぎ込んでしまったり、感情のコントロールがつかず、悪循環に陥りがちです。不眠の結果ではなくて原因として、本当の認知症やうつ病が隠れていることもあるので、気になる場合にはかかりつけの内科や、神経内科や精神科などで相談してみましょう。

  • 3つの理由

    「なんで眠れないのか、心当たりがなくて。先日定年を迎えて、自由な時間は増えました」
     よく食べ、よく学び、よく遊び、よく眠ることが仕事ともいえる成長期には、誰しも無意識に眠れていたものですが、年齢を重ねると、どうしてうまく眠れなくなるのでしょうか?その原因は、①心身ともに成熟したことに伴うもの②生活習慣に伴うもの、③なんらかの病気に伴うもの、の3つに大別されます。

    ①心身ともに成熟したことに伴う不眠:睡眠は、日中に経験したことを脳が整理しながら記憶して、学習するためにも必要な時間と考えられています。日々新しいことを経験し、学んでいっている成長期には、脳の特性としても深い良質な睡眠がとりやすいと考えられています。歳を重ねるにつれて睡眠は浅くなり、必要な睡眠時間が減ることが知られているので、以前のように長く眠れていなくても心配はいりません。健康に寿命を保つ睡眠時間の長さの目安としては、6~7時間がよいとされますが、良質な睡眠がとれていれば、4時間ほどまとまって眠れていればよいともいわれています。実際はきちんと眠れているのに、眠れていないと思い込んでいるだけの場合もあります。体がほどよく疲れていることも眠る手助けをしてくれます。多忙だった頃に比べて運動量が減り、日中ゆっくりと過ごせることが多くて、体に休息の必要性が減っていることも、不眠の原因と考えられています。

    ②生活習慣に伴う不眠:文明社会では、明るい電灯に照らされて夜も活動できるようになった反面、生活が夜型になりやすく、体内時計(サーカディアンリズム)と社会生活での活動時間とにずれが生じやすくなります。時差ぼけの状態に陥り、寝起きにまだ眠いのに、夜はなかなか眠れない、昼夜逆転の生活になりがちです。また、退職や引っ越しといった、環境の変化をきっかけにストレスから抑うつ傾向が出現し、不眠症になる場合もあります。「燃え尽き症候群」とも呼ばれている「5月病」は、新年度のストレスや環境の変化を背景に、新しい環境になじめずに、やる気が出ない、疲れやすい、眠れない、といった症状が出ることを名づけたものです。新年度を迎えた学生や新社会人といった、若い世代に特有の病気という印象がありますが、経験を積み成熟した大人であっても、退職後などの環境の変化のタイミングでなる人も見られます。

    ③なんらかの病気に伴う不眠:うつ病を背景に不眠症が出ていて、寝付けないうえに途中で何度も目が覚めることもあります。認知症の初期症状として体内時計が狂いやすくなって、朝早くに目が覚める症状が見られることもあります。寝付けるけれども頻繁に目が覚めてしまう場合には、トイレで目が覚めている場合や、いびきがひどく呼吸も止まりがちになって目が覚めている場合(睡眠時無呼吸症)など、別の原因が隠れていることもあります。

  • タイプによって薬も違う

    「なにか、いいお薬はありますか?」
     代表的な睡眠剤は、大まかには3種類に分けられます。①寝付きを良くするお薬(導眠剤)、②途中で目覚めずに長く眠れるようにするお薬、③体内時計を調節して夜に眠れるようにするお薬、の3種類です。どれを使うかは、どのタイプの睡眠障害か、そしてその原因がなんであるのかを見極めるのが大切です。「睡眠薬って、癖になるって聞いたことがあって。副作用も心配で……」
     ①寝付きを良くするお薬は、効果が早くて効果の続く時間が短い反面、毎日使っていると効きが悪くなり、中止するとかえって眠れなくなってしまうこと(耐性や依存性といいます)があります。一週間の疲れをリセットするために週末にときどき飲むなど、毎日ではなく曜日を決めて飲むといった工夫をすることで、「癖になってやめられなくなる」ことを予防できます。②長く眠れるようにするお薬や、③体内時計を調節するお薬は、「癖になりにくい(依存性や耐性が起こりにくい)」のですが、翌日にも効果が残って、日中の眠気やふらつきといった副作用が出ることがあります。お薬の量を半分にするなど、量を減らすことで副作用を予防できます。

  • 日々のなかで

    「ぐっすり眠るために、薬以外で何かできることはありませんか?」
     日中に30分程度のウォーキングをするなどして、ほどほどに体を動かすように心がけて、食事は眠る3時間前までにすませましょう。体温を下げることが有効ですので、眠る1時間ほど前にぬるま湯のお風呂かシャワーを浴びるのもおすすめです。携帯電話やパソコン操作など、脳を目覚めさせてしまうことは、寝る前には行わないようにしましょう。寒さや暑さといった温度調節、枕の高さを変える、といった寝室の環境を改善することも有効です。昼夜逆転となっている場合などには、体内時計をリセットするために朝日を浴びましょう(体内時計については、前号でもとり上げたのでぜひ読んでみてください)。生活が夜型になっている場合には、早起きから始める早寝の習慣を目指すと効果的です。生活時間をずらすのは、最初がとてもつらいのですが、朝日を浴びて、日中頑張って起きているようにしていれば、数日もすると徐々に体が本来の体内時計をとり戻してゆくでしょう。
     退職という大きな環境の変化をきっかけに、不眠が出始めたRさん。環境の変化に心と体がついてゆくのに数カ月程度は時間がかかるものなので、気長に待つことも必要そうです。不眠の原因を理解することで、つき合い方も見えてきました。頓服の睡眠剤を受けとって、自分でできることから取り組んでみますと、少し表情にも明るさをとり戻して帰ってゆきました。

佐々木欧(ささき・おう)

医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。

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