欧先生の診察室

会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。

2023.09.05

前立腺肥大ってなあに?

  • 高血圧と糖尿病で通院中のBさん(60歳、男性)。人間ドックのオプション検査で受けた、PSA(前立腺特異抗原)値が上昇していたと相談に来ました。ここ数年、トイレが近くなっていたとのことです。前立腺肥大症などの可能性があるので、泌尿器科に紹介しましょうと話が始まりました。

  • Q.どういった症状がありますか?

    A. 尿が出にくくなり、トイレが近くなります

    前立腺は、膀胱の出口で尿道を取り囲んでいる、クルミ大の臓器です。前立腺が肥大すると卵やミカンほどの大きさにまでなり、尿道が周りから圧迫されてしまいます。
    これは水道に例えると、元栓が半分閉められている状態です。尿に勢いがなくなって排尿に時間がかかります。また、力んでも途中で出なくなり残尿感や頻尿といった症状を伴います。

  • Q.どういった人がなりやすいですか?

    A. メタボリック症候群や、家族歴のある人がリスクです

    肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症を合併したメタボリック症候群のある人では、インスリンの分泌量が増えています。インスリンは血糖を低下させるだけでなく、交感神経を刺激します。すると、前立腺周囲の筋肉が緊張して発達し、尿道を締め付けるので症状が悪化します。

  • Q.どれくらいの人がかかりますか?

    A. 40~50代の2%、60代で6%、70代で12%といわれています

    前立腺の肥大は30代から始まり、加齢に伴って悪化します。前立腺肥大症で病院を受診する人は、60代以降に急増し、令和2年の調査では、60代で6・3万人、70代で15・4万人に上りました(図)。
    一方で、有病率から計算すると、60代で45万人、70代で88万人の患者さんがいると見積もられるため、実際には約6分の1の患者さんしか受診していないのが現状です。

  • Q.放置するとまずいでしょうか?

    A. 前立腺がんの場合もあるため、一度泌尿器科で検査を受けましょう

    前立腺肥大症は、日常生活で困っていなければ必ずしも治療は必要ありません。症状や尿の勢い、残尿量などを評価して治療するかを決めます。病状が悪化すると、膀胱炎や尿路結石、腎機能障害を起こしたり、急に尿が出なくなってしまう場合もあります。
    症状やPSA 値だけでは前立腺がんと区別できません。泌尿器科では、肛門から直腸に指を入れて前立腺を触ることで性状を確かめたり、超音波検査などの画像検査も組み合わせて診断します。

  • Q.PSAについて教えてください

    A. 前立腺肥大以外にも、前立腺炎や前立腺がんでも上昇します

    PSA は前立腺でだけつくられるタンパクで、前立腺がんの早期発見に最も有用です。ただし、PSA の値だけでは原因を特定できません。尿道カテーテルの挿入や感染症で、前立腺に炎症が起きている場合にも高値となります。逆に、PSA が低値でも前立腺がんと診断される場合もあります。

  • Q.前立腺肥大があると、前立腺がんになりやすいですか?

    A. 両者は別の病気ですが、合併することもあります

    前立線肥大では、尿道と隣接している前立腺の内部が肥大するのに対して、前立腺がんは外周部が増大します。症状は似ていますが、前立腺肥大が前立腺がんに変わることはありません。ただし、両者が合併していることもあるので、泌尿器科で定期的に検査を受けることが大切です。

  • Q.治療について教えてください

    A. 飲み薬で治療し、重症な場合は手術します。肥満があれば、減量も有効です

    前立腺の周囲の筋肉の緊張を緩める薬や、前立腺を小さくする作用のある薬を用います。その他、症状を緩和するお薬を併用する場合もあります。効果が不十分な場合は、肥大した前立腺を手術で部分的に切除します。

  • Q.予防のために自分でできることはありますか?

    A. 野菜や豆類を十分にとって、メタボリック症候群の悪化を避けましょう

    高脂肪食を避けて野菜や豆類をふんだんにとりましょう。飲酒・喫煙の影響については評価が定まっていませんが、ともに前立腺がんのリスクとなるので、なるべく避けましょう。
    イソフラボンやリグナンといった植物由来の成分が、前立腺肥大症の悪化を防ぐかもしれないといわれています。サプリメントの効果は不確定なので、食品からとることをお勧めします。
    イソフラボンは、大豆製品に多く含まれており、前立腺がんのリスク低下の報告もあります。リグナンは、ごまや、穀類の外殻、ネギ類やブロッコリーなどのアブラナ科の野菜に多く含まれます。

  • Q.気をつけたほうがよい薬はありますか?

    A. 風邪薬や酔い止め、睡眠薬、脱毛症の薬などに注意が必要です

    市販薬では、風邪薬や鼻炎薬、咳止めや酔い止め、睡眠改善薬などの副作用で、尿が出にくくなってしまう場合があります。病院で処方される薬では、上記に加えて精神安定剤や睡眠薬も注意が必要です。
    プロペシア(フィナステリド)などの脱毛症治療薬を飲んでいる場合、PSA 値が本来よりも低値となります。測定値を2倍する必要があるので、必ず医師に伝えましょう。

  • 薄毛治療にプロペシアを服用中だと打ち明けて、紹介状に追記してもらったBさん。前立腺がんも心配なので、急いで泌尿器科を受診しますといって帰ってゆきました。

佐々木欧(ささき・おう)

医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。

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