法律コラム

2019.10.21

自筆証書遺言について(2)④

皆様、今年は梅雨明けと同時に一気に猛暑となり、体調を崩された方も居られたのではないかと存じますが、如何お過ごしでしょうか。
さて、前回のコラムでは、今年の1月13日から施行された自筆証書遺言に関する条文の改正点と、これと関連する新しい制度について、お話しさせて頂きました。
そこで、今回のコラムでは、前回から引き続いて、今年の7月1日より施行されている箇所についてお話しさせて頂きたいのですが、多数ございますので、今回と次回の2回に分けて、Q&A形式でお話しさせて頂きます。

1.配偶者保護のための施策

(事 例)

私の夫は、生前に私共夫婦が長年暮らしてきた家を私に贈与してくれました。その後、今年の7月末に夫は亡くなりました。
ところが、生前に贈与を受けた場合には、遺産分割の時に贈与を受けた分を持ち戻して相続分を計算することになっていると聞きましたが、法律の改正があったという話も聞きました。
ちなみに、私は夫と結婚して40年になり、相続人は私と長女と長男の3人です。

Q1.事例中にある「持ち戻し」というのは、どういう制度ですか。

A1. 相続人の中に、被相続人から生前に遺贈や贈与による特別の利益(これを「特別受益」といいます)を受けていた者がある場合には、遺産分割の際に、この特別受益の価額を相続財産に組み入れて(これを「みなし相続財産」といいます)相続分を計算し、特別受益を受けていた相続人の実際の取得分は、この相続分から特別受益の価額を差し引いた残りになるとされています。
これを「特別受益の持ち戻し」と言います。

Q2.私の場合にも「持ち戻し」が適用されるのですか。
また、この点について改正があったのですか。

A2. 確かに、これまでは、原則として全ての特別受益について適用されていました。
ところが、これでは、あなたのご主人が、長年夫婦生活を送ってきたあなたに少しでも多く財産を残したいと考えて、自宅の不動産(土地・建物)を生前にあなたに贈与した場合にも、「特別受益の持ち戻し」が適用されることになり、実際のあなたの取得分が、結果的に特別受益がなかった場合と大差ないものになってしまい、ご主人の意思が実際の遺産分割に反映されなくなってしまう、という事態が起こり得ます。

そこで、この点について改正がなされ、
① 婚姻期間が20年以上の夫婦間で、
② 居住用不動産の遺贈・贈与がなされたときには、
「特別受益の持ち戻し」の免除の意思表示があったものと推定して、上記の様な計算方法を採らないこととされました。
これにより、あなたの場合においても、相続分の計算にあたって特別受益の持ち戻しは適用されなくなりますから、あなたは、より多くの財産を取得できることになり、亡くなられたご主人のご意思が実際の遺産分割に反映される結果となります。

Q3.この法改正は、夫婦間の贈与であれば、どの様な場合にも適用されるのですか。

A3. そうではありません。
この法改正は、夫婦間の遺贈・贈与であればどの様な場合にも適用されるのではなく、「婚姻期間が20年以上の夫婦間」で「居住用不動産の遺贈・贈与」がなされた場合に、「特別受益の持ち戻し」の免除の意思表示があったものと推定されることとなっています。
従って、
① 婚姻期間が20年未満の場合
② 20年以上同居生活をしているが法律上の婚姻をしていない「内縁」の場合
③ 居住用不動産ではない財産の遺贈・贈与がなされた場合
には適用されませんので、ご注意下さい。

2.遺留分制度の見直し

(事 例)

私の父は、生前会社を経営していました。
父の会社は、父名義の土地に建っている父名義の建物に入っています。
父の相続人は、長男である私と、私の妹(長女)の2人です。
また、父の相続財産は、この土地と建物だけです。
そして、父は、事業を手伝っていた私に、会社のある土地と建物を相続させるという遺言を作成していました。

Q1.このような場合に、妹は遺留分減殺請求をすることができると聞いたことがありますが、「遺留分減殺請求」とは、どの様な請求ですか。

A1. 以前にもこのコラムで申し上げましたが、遺留分とは、一定の範囲内の相続人が相続に際して取得することが法律で保障されている最低限の割合のことで、遺贈等があったとしても、この割合の相当分については奪われない、というものです。
この遺留分が侵害された相続人は、遺贈等を受けた人に対して、侵害された限度で遺贈等がなされた財産の返還を請求する「遺留分減殺請求権」を行使することができます。
これが遺留分減殺請求です。

Q2.妹が遺留分減殺請求をすると、私の場合の様に、相続財産が不動産の場合には、私と妹の共有になってしまう、と聞いたことがありますが、この点について法改正があったとも最近聞きました。
では、私の場合、法改正によって、父名義だった不動産は妹との共有になることはなくなるのでしょうか。

A2. 確かに、これまでは遺留分減殺請求権が行使された場合には、遺贈等がなされた財産の「現物」での返還が原則とされていました。
ですから、あなたが聞かれた様に、遺贈等がなされた財産は遺留分減殺請求をした相続人と遺贈等を受けた人との共有となるのが「原則」ということになっていました。
そのため、改正前は、遺贈等がなされた財産が不動産の場合には、遺留分減殺請求がなされると、遺留分の侵害割合に応じて、遺留分減殺請求を登記原因とする所有権一部移転等の登記を申請することになっていました。
従って、あなたの場合も、妹さんが遺留分減殺請求をされると、お父様の相続人はあなたと妹さんの2人ですから、妹さんの遺留分は4分の1となりますので、相続財産である不動産につき、妹さんに持分4分の1が移転するという登記がなされていたことになります。
ところが、この様な登記がなされると、権利関係が複雑になってしまいます。
特に、あなたの場合は、相続される財産は会社の用に供されている訳ですから、権利関係が複雑になります。その結果として、会社の事業承継が円滑に進まなくなる恐れもあると言えます。

そこで、この点について改正がなされ、遺留分減殺請求によって生じる権利は遺留分の侵害相当額の金銭債権に変わりました。また、改正前は、「現物」での返還が「原則」とされていましたが、改正後は、金銭債権のみとなり、例外はありません。
さらに、改正に伴い、請求権の名称も「遺留分侵害額の請求権」に変わりました。
これにより、従来の「現物」での返還はされないこととなりました。
その結果、遺留分減殺請求がなされた財産は、遺留分減殺請求をした相続人と遺贈等を受けた人との共有となることはなくなりました。
さらに、この改正は、遺贈等をしたい遺言者の意思を尊重できるという結果にもつながるものとなりました。

従って、あなたの場合も、妹さんから遺留分減殺請求がなされたとしても、相続された不動産があなたと妹さんの共有となることはなく、上記の様な登記がなされることもありません。
あなたは、妹さんから請求された遺留分侵害額を妹さんに支払うことになります。

次回も、引き続き、2019年7月1日から施行されている改正点について、お話しさせて頂きますので、お楽しみに。

司法書士
渡辺 拓郎
渡辺拓郎事務所 代表
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