法律コラム

2015.03.18

相続や成年後見の問題点と信託制度について

皆様、いよいよ春本番ですが、如何お過ごしでしょうか。
 東日本大震災からはや4年経過致しましたが、未だに余震が続き、東北の方々の心労を察すると胸が痛みます。早く本当の春が来ることをお祈り致します。

さて、今回は、相続や成年後見に限定せず、各々に亘る問題点や、最近話題になっている制度等にも言及しながらQ&Aを進めて参りたいと思います。

Q1.この度、私の事務所に、Aさんより、父が亡くなったので、亡父名義の自宅不動産を長男であるAさんの名義にする相続登記の依頼を受けました。
亡父の遺言はなく、相続人として、長男であるAさん以外に、認知症の母とAさんの妹で長女のBさんがおり、相続財産は自宅不動産と預貯金だそうです。
この様なケースでは、如何なる処理をすべきでしょうか。

相続や成年後見の問題点と信託制度について

A1:相続が発生した場合には、遺言書等がある場合等を除いて、民法の定めに従った相続分で相続する場合と、それと異なった相続分で相続する場合の2種類があります。
今回のケースで、前者の法定相続分に従いますと、自宅不動産を、母2分の1、長男A4分の1、長女B4分の1で相続登記をすることになります。
この方法による場合には、民法の規定に従ったまでであり、母が認知症であっても遺産分割という判断を母自身が単独でする訳ではありませんので、AかBが単独で、又はABが共に司法書士に委任して、相続登記をすることができます。
しかし、後者の様に、法定相続分に従わず、Q1の様にAの単独名義にする場合には、どの様な手続を踏む必要があるのでしょうか。設問とは異なり、母が認知症でなければ、相続人3名が合意の上でAの名義にすることには何等問題はありません。従って、不動産に関してはA、預貯金に関しては母とB、等自由に定めることが可能であり、又3名の意見が合意に至らない場合には、家庭裁判所での調停により解決することも可能です。
但し、設問の様に、母が認知症の場合には、母には自分の自由な意思で遺産分割協議をすることは望めませんから、次の方法によらなければなりません。

相続や成年後見の問題点と信託制度について

まず、母の為に、母の住所地を管轄する家庭裁判所に成年後見人の選任申立をすることです。その申立の際、A、Bがそれぞれ候補者になり、最終的にA又はBが成年後見人になることも可能ですし、第三者を成年後見人の候補者に立てることも可能です。しかし、A又はBが家庭裁判所で成年後見人に選任された場合に、A又はBは、認知症の母と一緒に遺産分割することが許されるでしょうか。
仮に、Aが母の成年後見人に選任された場合に、亡父の遺産を母の成年後見人A及びAとBとで分割協議し得るかどうか、ということです。つまり、Aは、母の成年後見人たる地位とAの独自の相続人としての地位を兼務することができるか、ということです。

Aは、母の成年後見人になり得ることは問題ありませんし、実際に成年後見人に選任されるケースで一番多いのが子供なのです。しかし、認知症の母と成年後見人Aとの間には、亡父の遺産を分けるという場合に於いては、お互いの利益が相反することになりますから、Aは母の成年後見人たる地位を行使することはできない、とするのが、民法の考え方なのです。

つまり、Aは、母の財産管理や身上監護という成年後見人としての通常事務を行うことはできますが、お互いの利益が対立する様な場合、即ちAが自分の利益を優先して成年被後見人(成年後見人を付けられる者という意味です)たる母の利益を害する恐れが形式的にある場合には、母の成年後見人としての職務を遂行することができないのです。

この様な事情がある場合には、成年後見監督人が選任され、その者が母の代理人となり、A、Bと遺産分割協議をすることになります。

次に、前述の様に成年後見監督人が選任された場合に、A、B及びその成年後見監督人の三者で、Aを亡父の自宅の単独相続人とする遺産分割協議を簡単にすることは可能なのでしょうか。

この問題を考える前に、成年後見制度は何の為に存在するのか、ということを考えなくてはなりません。
私もこのコラムを始めてから5年位経過しますが、成年後見制度のQ&Aでいつも繰り返し述べてきたことは、この制度は成年被後見人(本問の場合には認知症の母)の為のものである、ということです。

その観点から亡父の遺産を考えてみますと、預貯金の多寡により、結論が変わってくると思います。預貯金が十分にある場合には、亡父の自宅はA、預貯金は母とB、といった分割は十分に可能です。
しかし、自宅の財産的価値が預貯金の価額を大幅に上回っている場合には、自宅名義をAの単独とすることは困難であるか、又は何等かの代替措置を求められることがある、ということです。
具体的に言いますと、遺産分割に際し、亡父の全体財産の大体2分の1を母の為にプールする必要がある、ということです。母の法定相続分は2分の1ですから、それを預貯金で賄うことができるのであれば亡父の自宅をAの単独名義とすることはできますが、それが不可能な場合には、Aが母の為に預貯金で不足する部分をプールして、はじめて単独名義にすることができる、ということになります。すなわち、亡父の預貯金で母の相続分を賄えない場合には、Aは母の為にその不足分を金銭で補填する等の措置が求められる、ということです。

以上の結論は、ケースにより多少の取扱いの違いはあるでしょうが、家庭裁判所の基本的なスタンスであると思っていただければよいかと思います。

Q2.私(以下「甲」とします)には高齢の父(以下「乙」とします)がおり、父名義のワンルームマンション1棟があります。現在、父は高齢ではありますが、体も元気で、認知症の兆候などはありません。
しかし、これから年を重ねていきますと、成年後見人の選任等の手続が必要な場面も、当然考えられますが、今の内に公正証書で任意後見人を選任しておく方法もあると聞いております。
以上の方法以外で、マンションをスムーズに管理する方法はないのでしょうか。

相続や成年後見の問題点と信託制度について

A2:この質問でまず思い浮かぶのが、信託制度の利用です。
皆様は、信託銀行とか信託会社という言葉は、よくお聞きになったことがあると思います。それは商事信託と言われ、不特定多数の者から財産の信託を受け、これを運用することを業とするもので、古くからある制度です。
しかし、最近脚光を浴びている制度として、「民事信託」とか「家族信託」と呼ばれるものがあります。これは、信託の受託者(甲)が、特定の委託者(乙)を相手として、営利を目的とせず、反復継続性のない、原則1回のみ引き受けることのできる信託のことです。 図解しますと、下の図の様になります。

相続や成年後見の問題点と信託制度について

当事者としては、下記の三者です。
①委託者・・・財産を預ける人(乙)
②受託者・・・財産を預かり管理等をする人(甲)
③受益者・・・その財産から生ずる利益を受ける人(乙)

Q2の事例では、当初は、委託者と受益者が同一人物となりますが、受益者たる地位(受益権といいます)を後日乙から配偶者である丙に移転することも可能です。
信託契約により、ワンルームマンションの所有権は、長男たる甲、即ち受託者に移転しますので、その後の入居者との賃貸借契約や修繕等の契約、更には家賃の振り込みの銀行口座の入金等のマンション管理に必要な行為を、甲が自分の名義で行うことができるのです。しかし、受益者は乙ですから、甲は、収入から必要経費を控除した残りを、信託契約に従って乙に配当しなければなりませんし、信託契約の内容にもよりますが、ワンルームマンションを勝手に第三者に売却することも原則としてすることができません。
しかし、乙が認知症等で判断能力が衰えても、ワンルームマンションの所有者は長男の甲ですので、甲は引き続き管理に必要な行為を継続することができるのです。
又、受益者たる地位である受益権を、後日、乙から配偶者である丙や第三者に譲渡することも可能ですし、認知症等の恐れがある場合には、甲乙間の信託契約で、乙が死亡した場合には孫等に受益権が移転する旨を定める等の方法をとることも可能です。
この制度につきましては、受益権の譲渡の問題や、税務との関係等について、まだまだ触れなくてはならない点が多々ありますので、その点については、今後に譲りたいと思います。

司法書士
渡辺 拓郎
渡辺拓郎事務所 代表
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