法律コラム

2013.03.06

遺言書について

皆様、お変わりございませんか。二十四節気の啓蟄も過ぎ、春本番といったところで、何となくウキウキしてくるのではないでしょうか。
さて、今回は、遺言書について、三つの項目につき考えて参りたいと思います。

遺言書について1

Q1.先日亡くなった父の遺品を整理しておりましたら、机の引き出しの中から、封印された遺言書が出てきました。これはどのように扱ったらいいのでしょうか?親族等を集めて開封してもよいのでしょうか?


A1:公正証書遺言以外、すなわち、自筆証書遺言及び秘密証書遺言が発見されたら、亡くなったお父さんの住所地を管轄する家庭裁判所にその遺言の検認(けんにん)を申し立てる必要があります。
また、今回のケースで発見された遺言は、封印されておりますので、家庭裁判所において相続人やその代理人等の立会いの下で開封しなければなりません。この「封印」とは、封をした上に押印されたものであり、単に封筒に遺言書を入れて糊付けしただけのものは、封印したとはいえません。この開封の手続きは、検認の過程で行われますので、検認手続きと別に開封の申し立てをする必要はありません。
この検認手続きがなぜ必要かといいますと、遺言書の形式やその現状を確定することによって、遺言書の偽造・変造を防止し、その保存を確実にする必要があるからです。また、お父さんが残した遺言書の存在を相続人等に知らせるという意味もあります。

検認とは、以上のような趣旨で行われますので、公証人役場にて、被相続人が作成した公正証書遺言については、隠匿や偽造・変造の心配がありませんので、この手続きが不要となるのです。
なお、検認手続きを受けずに遺言を執行したり、家庭裁判所以外で封印された遺言書を開封した者には、5万円以下の過料が科されますので、この点には注意しましょう。
また、検認申し立ての期限は特にありませんが、相続発生後、遺言書を発見次第、できるだけ早くやるべきでしょう。

以上が検認手続きと遺言書の開封手続きの概要ですが、これらはあくまで外形上の確認手続きであり、遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。したがって、検認手続きを経たからといって、その内容が有効なものとして認められない場合もありますし、また、逆に遺言書が検認手続きを経ないで執行された場合でも、その執行が無効となるものではありません。
しかし、不動産の登記実務では、検認のされていない自筆証書遺言を相続証明書類として添付された相続登記申請は、受け付けてもらえません。

遺言書について2

遺言書について3

Q2.私達夫婦は、現在、自宅の土地・建物を各2分の1の持分で共有しております。このたび、夫婦連名で互いに自分の財産を先に死亡した者が残った相手に取得できるような内容の自筆証書遺言を作成しようと思いますが、このような遺言書の作成は許されるのでしょうか?


A2:二人以上の者が、同一の証書で遺言をすることを共同遺言と言います。これには、以下のような、三つの態様が考えられます。

  1. 同一の証書において、それぞれが無関係に独立の遺言とする場合や、共有財産全部を他人に与えようとする場合
  2. 二人以上の者が、同一の証書で遺言をなし、相互に相手方の遺言を条件として遺言をするような場合
  3. 二人以上の者が、同一の証書で、互いに自己の財産を相手方に遺贈し合う様な場合

ご質問のケースは、上記の3に該当すると思われます。
しかし、このような共同遺言は、法律関係が複雑になりますし、また、2名以上で1通の証書を作成していますので、各自が単独で自由に撤回することができなくなり、各自の真意を確保することが困難になります。このような理由から、民法では共同遺言が禁止されています。

このように、同一の証書に二人以上の者の遺言が記載されていれば、それだけで共同遺言となり、全部が無効になりますが、二人以上の者が別々に作った遺言書が同一の封筒に入れられて封印された自筆証書遺言の場合や、作成名義の異なる2通以上の遺言書がそれぞれ別紙に記載されて綴り合わされているが、容易に切り離すことができるような場合には、共同遺言に当らないとされています。

Q3.私(丙)には、父(甲)と母(乙)と弟(丁)がおりますが、このたび父が死亡しました。そして、父(甲)の全財産を弟(丁)に遺贈する遺言書が出てきました。
(1)私(丙)や、母(乙)は、父(甲)の財産を全くもらうことはできないのでしょうか?

遺言書について4

(2)甲乙間に子供がおらず、甲の両親もすでに死亡しており、甲の姉(戊)がいるような場合、甲の全財産を乙に遺贈する旨の遺言書が出てきた場合に、甲の姉(戊)は、甲の遺言書に対して何らかの権利があるのですか。

遺言書について5

A3:被相続人甲は、原則として自分の財産を遺言によって自由に処分することができます。
しかし、全く自由、ということになると、たとえば遺言によって全財産を公益事業等に寄付して、相続人には全く渡らない、ということになると、遺族が生活に困る、といった場合もでてくるでしょうし、また、3人いる相続人のうち、一人だけに全財産を遺言で与えるという場合には、他の2人は全くもらえない、という不公平な結果になる場合も出てきます。
そこで、民法は、私有財産の自由処分と相続人の保護という、二つの要請を調和させるものとして、遺留分の制度を設けています。
この遺留分というのは、相続人が相続財産のうち、これだけは自分のために残しておいてもらえる、という部分のことです。
したがって、相続財産は、被相続人甲が自由に処分できる部分と、処分できない遺留分とに分かれているといえます。
そして、この遺留分の全体的な割合は、相続人の種類やその組み合わせにより、次のように定められています。

  1. 子供だけの場合・・・・・・・・・・・2分の1
  2. 子供と配偶者の場合・・・・・・・2分の1
  3. 配偶者だけの場合・・・・・・・・・2分の1
  4. 配偶者と父母の場合・・・・・・・2分の1
  5. 配偶者と兄弟姉妹の場合・・・2分の1(ただし、兄弟姉妹はゼロのため、配偶者が2分の1となる)
  6. 父母だけの場合・・・・・・・・・・・3分の1
  7. 兄弟姉妹だけの場合・・・・・・・0

次に、遺留分権を有する各自の個別的な遺留分は、上に書いた全体的な遺留分の割合に各相続人の法定相続分をかけた割合になります。

前置きが長くなりましたが、以上のことを前提にご質問にお答えします。
まず、(1)についてですが、このような場合には、甲の相続人は配偶者たる母(乙)とあなた(丙)、弟(丁)の3人で、全体的な遺留分は2分の1となります。そして、あなた(丙)の法定相続分は、4分の1ですから、
あなたの個別的遺留分は、1/2 × 1/4 = 1/8 となり、
お母さん(乙)の個別的遺留分は、1/2 × 1/2 = 1/4 となります。

遺言書について6

そして、この遺留分は、自動的に認められるわけではありませんから、遺言によって自分の遺留分が侵害されていることが分かったら、あなた(丙)やお母さん(乙)は、弟(丁)さんに自分の遺留分に相当する財産またはそれに相当する金銭を渡すよう請求しなければなりません。これを「遺留分減殺(げんさい)請求」といいます。これには、丁にその意思を表示するだけで有効ですが、相手方が応じない場合には、裁判所に調停を申し立てることになります。

次に、(2)ですが、甲の姉(戊)には、遺留分権はありませんから、戊は乙に請求することはできません。
したがって、配偶者である乙は、甲の遺言通り全部の財産を取得することができます。

司法書士
渡辺 拓郎
渡辺拓郎事務所 代表
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