法律コラム

2011.07.28

相続手続

読者の皆様、こんにちは。
「暮らしに役立つ法律コラム」開始からはや一年が経ちましたが、日常生活の法的トラブル及びその防止に当コラムはお役に立っておりますでしょうか。
今回は第1回目で触れた4つのテーマの内、4番目の「相続手続」について、前回までとは趣向を変え、一つの事例から相続手続にからむQ&Aを4項目取り上げてみたいと思います。

【事例】

私には、父・母及び弟がいますが、このたび父が亡くなりました。父は自宅不動産を所有していましたが、父の知人の甲が、乙銀行から借りた2,000万円の借金の連帯保証人になっていました。

Q1:私は、父の所有不動産を相続したいのですが、この場合、父が甲の連帯保証人になっていた債務はどうなるのでしょうか。

A1:相続というのは、亡くなった人の財産に属した一切の権利義務を引き継ぐことですから、あらゆる財産、権利のみならず借金等の債務も引き継ぐことになります。
従って、本事例においては、あなたが父親の自宅不動産を相続したいのであれば、父親の負担していた連帯保証債務もあわせて相続しなければなりません。
「連帯保証人の立場を相続するのは困る」というのであれば、ご自分のために相続が開始したことを知った時(通常、父親の亡くなった時)から3か月以内に家庭裁判所に申述する方法で相続を放棄することができます。この場合には相続放棄をしたあなたは連帯保証債務を負担しなくてもよいのですが、自宅不動産も相続することはできなくなります。なぜなら相続を放棄した相続人は、はじめから相続人ではなかったことになるからです。

Q2:私は、母と弟との3人で、父の負担していた連帯保証債務を相続により負担しようと思いますが、債権者である乙銀行に対して、いくらの債務を負担しなければならないのでしょうか。

A2:連帯保証人となっていた父親は、債務者である甲が借りた2,000万円の連帯保証債務を乙銀行に対して負担していました。しかし連帯保証人であった父親が死亡した場合には、相続人である母親、あなた、弟はそれぞれいくらの返済義務を乙銀行に対して負担するのかという問題です。
結論から先に言いますと、あなたは乙銀行に対し500万円の連帯保証債務を負担すればよいことになります。本事例の場合であれば、相続人はその法定相続分(母親が2分の1、あなたと弟がそれぞれ4分の1)に応じて分割された額の債務を相続して引き継ぎ、その額の範囲において連帯保証人の責任を負うと考えるわけです。

Q3:父の所有していた自宅不動産を、父の死亡後、丙に売却することになりましたが、相続登記を経ることなく父名義から直接丙の名義に売買に基づく所有権移転登記をすることはできますか。

A3:父親名義から直接丙の名義に所有権移転登記をすることはできません。この場合には、まず母親、あなた、弟の3人で相続による所有権移転登記(この場合、法定相続として母親、あなた、弟の3人の共有名義にしてもいいですし、3人で遺産分割協議をしてあなたの単独名義にすることもできます)をした上で、丙への売買を原因とする所有権移転登記をすることになります。なぜならば、ご質問の場合、丙との売買契約は父親が締結したものではなく、父親の死亡後に相続人と丙との間でなされたものだからです。
これとは異なり、父親が生前に丙と売買をした後、売買による所有権移転登記の手続をする前に亡くなったという場合には、相続人はその手続をする義務を相続により引き継いだわけですから、父親から直接丙に売買を原因とする所有権移転登記をすることができます。しかし、これは一般的にはあまり発生しない事例といってよいと思います。なぜなら、不動産の売買をしてから、登記をせずして放置するケースはあまり無いように思われるからです。

Q4:乙銀行から、甲の借金の返済請求を受けたので、連帯保証人としてやむなく自宅不動産を法定相続分により共有名義(母2分の1、私と弟それぞれ4分の1)にした後、売却して借金の返済に充てることになりました。仮に3,000万円で売却できたとすれば、その後、相続人3人の債務はどうなりますか?

A3:3,000万円の売却代金(実際には相続登記時に必要な登録免許税や売買の際の譲渡所得税の問題があり、3,000万円が丸々手元に残るわけではありませんが、ここでは税金のことには触れないでおきます)は、共有持分により、母親が1,500万円、あなたと弟がそれぞれ750万円を受け取ることになります。A2で触れたように債務の負担割合も法定相続分に従いますので、2,000万円の借金であれば、母親が1,000万円、あなたと弟がそれぞれ500万円ずつ返済すればよいことになります(残金は母親が500万円、あなたと弟がそれぞれ250万円)。
この2,000万円の借金は元々甲が借りたものですので、あなた方3人は立替返済した額に応じて甲に返済を請求することができます。これを「保証人の求償権の行使」といいます。
もし、自宅が500万円ほどでしか売れないというのであれば、とても借金の返済には追い付かないので、相続放棄をした方が良いかも知れません。従って、相続登記をする前に、あらかじめ父親の自宅不動産がいくら位で売れるのか調べる必要があります。

司法書士
渡辺 拓郎
渡辺拓郎事務所 代表
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