2025.06.16
戸籍のふりがなの法制化について
今年の春は全国的に天候不順となり、ようやく暖かくなってきたかと思いきや、一気に真夏並みに気温が上がり、熱中症で救急搬送される方も増えているようです。読者の皆様は、お元気でお過ごしでしょうか。
さて、5月26日以降に皆様あてに戸籍のふりがなの通知が届くことになった、というニュースをご存知の方も居られると思います。
これは、昨年3月に施行された戸籍法の改正において、最も注目されているものです。
そこで、今回の本コラムは、この「戸籍のふりがなの法制化」について、お話ししたいと思います。
Q1.こどもの出生届には、名前のふりがなを記載することになっていますし、
住民票にも記載があった様に思いますが、戸籍には今まで無かったのですか。
A1.確かに、出生届には名前のふりがなを記載することになっています。
しかし、この出生届には、ふりがなを記載する欄がありますが、これまでは戸籍には反映されないものとなっていました。
また、住民票にふりがなを記載するか否かは、これまで各自治体の裁量に委ねられていましたので、全国の全ての自治体において、住民票にふりがなが記載されている訳ではありません。
それに、住民票のふりがなは、自治体において住民票を五十音順に整理するために便宜的に付されていたものであったため、本来の読み方と違うふりがなが記載されているという苦情が出るケースもあったのです。
我が国の戸籍は、家族の血縁関係を時系列に全て辿ることができるという点で、世界的に見ても非常に優れているものなのですが、約150年前に現在の戸籍の制度に通じる戸籍制度がスタートした当初から、ふりがなの表記は盛り込まれておらず、今回の法改正まで、ふりがなが無いままになっていたのです。
Q2.今まで戸籍にふりがなが記載されないままになっていたのに、
なぜ今回の法改正で戸籍にふりがなが設けられることになったのですか。
A2.次の様な理由が考えられます。
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(1)行政機関のデジタル化の基盤整備の促進
今までは、戸籍にふりがなが無かった上、複数の字体がある漢字(斉・斎・齋など)もありますので、行政機関において、データベース化の作業が複雑で、検索にも時間がかかり、また誤りも発生しやすくなっていました。
しかし、ふりがなを設けることにより、データベース上の検索等の処理がスムーズにできる様になり、誤りも防ぐことができると期待されます。 -
(2)本人確認資料としての利用
戸籍にふりがなが登録されることにより、正確に氏名を呼ぶことが可能となります。
例えば、「山崎」という苗字は「やまざき」とも「やまさき」とも読めますし、「良子」という名前は「りょうこ」とも「よしこ」とも読めます。
さらに、ひらがなの名前であっても、例えば、「なほこ」と書いても、そのまま「なほこ」と読む場合もあれば、「なおこ」と読む場合もあります。
これまでであれば、本人に確認しないままで誤った読み方をされてしまうことも多くありましたが、そうした事態を防ぐことが期待されるのです。
さらに、戸籍に記載されるふりがなを、住民票やマイナンバーカードにも登録して、ふりがなの登録されたマイナンバーカードを海外でも使用可能とすることも検討されています。 -
(3)各種規制の潜脱行為の防止
金融機関においては、振込伝票にふりがなをカタカナで記載することになっていますが、これは全国銀行データ通信システムにおいて、カタカナのふりがなが本人確認のための情報として利用されているためです。
ところが、複数のふりがなを使って別人を装って規制逃れをするケースがみられる様になりました。例えば、借金に関する全国信用情報に「ヤマザキ ナホコ」と登録されている場合に、「ヤマサキ ナオコ」という別の読み方を使って、本来開設できない筈の銀行口座を新規に開設して、振込を可能にする、というものです。
戸籍に設けられるふりがなにより、読み方が一本化されますので、この様な規制逃れを防ぐことができます。
Q3.戸籍にふりがなを記載してもらうための手続は、どの様なものですか。
A3.今年の5月26日以降、順次、本籍地の市区町村長から、皆様宛に戸籍に記載される予定のふりがなが記載された通知が、郵送で届くことになっています。
この通知を確認して、
(1)ふりがなに誤りがあった場合には、必ず、今年の5月26日から1年以内(令和8年5月26日まで)に、ふりがなの届け出をする必要があります。
(2)ふりがなに誤りが無かった場合は、届け出をする必要はありませんが、戸籍への早期の記載を希望される方は、届け出をすることができます。
そして、令和8年5月26日以降、届け出をした場合には届け出のあったふりがなが、届け出が無かった場合には市区町村長からの通知の通りのふりがなが、戸籍に記載されることになります。
なお、届け出に手数料はかかりません。また、届け出は、市区町村の窓口に直接出向くだけでなく、郵送や、マイナポータルによるオンラインでの届け出もできます。
Q4.戸籍にふりがなが記載された後に、ふりがなを変更してもらうことはできますか。
A4.A3.で述べました届け出をしなかった場合には、一度に限り、家庭裁判所の許可を経ずに、市区町村役場に届け出て、変更することができます。
しかし、届け出をした場合には、家庭裁判所の許可を得なければ、変更することはできませんので、ご注意下さい。
Q5.戸籍に記載されるふりがなに、何らかの基準はあるのですか。
A5.ふりがなは、「氏名として用いられる文字の読み方として一般に認められているもの」に限られるとされています。
これにより、
(1)漢字の持つ意味とは反対の意味になる読み方(「高」を「ヒクシ」と読む等)
(2)読み間違いと誤解される読み方(「太郎」を「ジロウ」と読む等)
(3)漢字の意味や読み方との関連性をおよそ又は全く認めることができない読み方 (「太郎」を「ジョージ」と読む等)
(4)漢字に対応するものに、明らかに異なる別の単語を付け加えて、漢字との関連性をおよそ又は全く認めることができない読み方(「健」を「ケンイチロウ」と読む等)
(5)差別的・卑わい・反社会的な読み方
といった、誤読を招いて社会を混乱させる様な読み方や、社会的に相当とは言えない読み方は、ふりがなとして認められないことになります。
また、これにより、現在流行している「キラキラネーム」にも、「その漢字でその様な読み方ができると一般的に考えられるか?」という読み方は認められなくなる可能性があり、という形である程度の制限がかかることになります。
なお、この様な「一般に認められている読み方」以外の読み方を現に使用しており、これを届け出る場合には、個人の意思を尊重して、その様な届け出をすることも認められています。但し、その場合には、パスポート等の、その「一般的でない読み方」が通用していることを証明する書面を提出しなければなりません。
Q6.今年の5月26日以降に生まれた人のふりがなは、どうなるのですか。
A6.出生届に記載するふりがなが、戸籍に登録されることになります。
但し、A5.で申し上げた「氏名として用いられる文字の読み方として一般に認められているもの」という基準に抵触する様なふりがなは認められないことになります。
それでは、皆様、次回もお楽しみに。くれぐれもご自愛下さい。
今年の夏も猛暑になるとの予報も出ております。くれぐれもご自愛下さい。