法律コラム

2023.02.21

所有者不明土地について⑥

新型コロナウイルスの感染法上の位置づけを、5月の連休明けに「5類」に引き下げるという方針が発表されましたが、感染第8波が続いており、感染者数も高止まりとなっています。皆様は、いかがお過ごしでしょうか。
さて、今回は、最近問題となっている「所有者不明土地の問題」を解決するための対策として行われる、民法の規定の見直しのなかで、前回お話しできなかった遺産分割が長期未了状態である場合の対応規定の創設について、お話ししたいと思います。

Q1.今回の改正で、遺産分割がなされずに長期間放置されている場合の対応規定が創設されたとのことですが、改正法施行前の民法の規定では、どの様な問題があったのでしょうか。

A1.民法には、相続人間での遺産分割協議を、相続開始時(被相続人が亡くなった時)からいつまでに行わなければならないか、という期間制限の規定はありません。 しかし、遺産分割協議がなされないまま長期間放置されると、その間にさらに相続が発生し(数次相続といいます)、相続人が増加することになります。そうなってから遺産分割協議を行おうとしても、なかなか円滑に協議ができるものではありません。

また、遺産分割協議が長期間なされないまま放置された後に、改めて遺産分割協議を行ったところ、被相続人から財産の贈与を得ていた(特別受益)とか、相続財産を維持・増加させる様な特別の寄与をした(寄与分)、等といった主張がなされることがあります。
従来から民法には、特別受益や寄与分の算定方法についての規定がありました。ところが、遺産分割が長期間なされないまま放置された後の時点では、これらの主張の根拠となる事実は、相当以前のものとなります。関係する書類が残っていなければ、当事者の記憶に頼らざるを得ませんが、その当事者の記憶も曖昧になる恐れがあります。そのため、特別受益や寄与分があったという事実をどうやって証明するかという問題も生じます。
ですから、この様な主張が、そのタイミングによっては、遺産分割協議を一層まとまらなくさせることにつながってしまうのです。

そして、相続財産に不動産が含まれていれば、この様な事態が、遺産分割を非常に困難なものとし、ひいては所有者不明土地の問題を引き起こすことにつながってしまうのです。

Q2.その様な問題点を踏まえて、どの様な改正がなされたのですか。

A2.改正民法では、相続開始の時(被相続人が亡くなった時)から10年を経過した後になって遺産分割をすることになった場合には、前述の特別受益や寄与分に関する規定は適用されないこととなり、各相続人における個別の特別受益や寄与分を考慮することなく、法定相続分に基づく画一的な処理をすることと規定されました(改正民法第904条の3)。
この改正により、相続開始から長期間経過した後になされる遺産分割を円滑に終わらせることが促進され、所有者不明土地の問題の発生を防ぐことが期待されます。

但し、この規定には、次の例外が認められており、この例外に該当する場合には、相続開始から10年を経過していても、なお特別受益や寄与分の規定の適用が認められることになります。

  1. (1)相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割を請求した場合。
  2. (2)相続開始の時から10年を経過する期間が満了する前6か月以内の間に遺産分割の請求をすることができなかった、というやむを得ない事由が相続人にあった場合に、そのやむを得ない事由が無くなった時から6か月を経過する前に、その相続人が家庭裁判所に遺産の分割を請求した場合。

Q3.改正民法第904条の3の規定が施行されるのは令和5年4月1日とされていますが、これより前に相続が開始した場合には、この規定は適用されないのですか。

A3.改正民法第904条の3の規定には経過措置が設けられており、施行日である令和5年4月1日より前に相続が開始した場合にも、この規定が適用されることになっています。
そして、A2.で述べました例外規定についても同様に経過措置が設けられており、上記の例外規定(1)については、「相続開始の時から10年を経過する前」を、「相続開始の時から10年を経過する時または改正法施行時から5年を経過する時の、いずれか遅い時まで」と読み替えることとなり、5年の猶予期間が設けられた形となっています。
また、上記の例外規定(2)については、「相続開始の時から10年を経過する期間が満了する前6か月以内」を、「相続開始の時から10年を経過する期間(この10年の期間満了後に改正法施行時から5年の期間が満了する場合には、その期間)が満了する前6か月以内」と読み替えることとなり、こちらも5年の猶予期間が設けられた形となっています。

Q4.この改正によって、相続開始の時から10年を経過した後の遺産分割協議では、A2.で挙げられている例外規定を除いて、常に法定相続分に基づく画一的な処理がなされることになるのでしょうか。

A4.A2で述べました改正民法の規定は、相続人間の合意によって、相続開始の時から10年を経過していても、特別受益や寄与分の規定に基づいて個別的に相続分を決めることまで否定するものではないと考えられています。
従って、相続開始の時から10年を経過すると、常に法定相続分に基づく画一的な処理がなされるという訳ではありません。
また、今回の改正によっても、遺産分割協議をすべき期間の規定は設けられませんでしたので、これまで通り、遺産分割協議の期間の制限はありません。

但し、新たに改正民法の規定が設けられたことにより、遺産分割が長期未了の場合に、「法定相続分に基づく画一的な処理」という選択肢が相続人側に増えたことになります。その意味において、遺産分割が促進され、ひいては所有者不明土地の問題の解消につながると言えるでしょう。

これまで、所有者不明土地の問題について、6回にわたってお話ししてまいりましたが、次回からは、違ったテーマでお話ししたいと思います。
それでは、皆様、くれぐれもご自愛下さい。

司法書士
渡辺 拓郎
渡辺拓郎事務所 代表
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