法律コラム

2022.10.18

所有者不明土地について⑤

新型コロナウイルスの感染拡大は、ようやく第7波も収束しつつあるものの、後遺症の問題など、依然として今後に不安を感じます。皆様は、いかがお過ごしでしょうか。
さて、今回は、最近問題となっている「所有者不明土地の問題」を解決するための対策として行われる、民法の規定の見直しのなかで、前回お話しできなかった不明共有者がいる場合の対応規定の創設について、お話ししたいと思います。

Q1.今回の改正で、共有者の中に所在不明の者がいる場合の対応規定が創設されたとのことですが、改正法施行前の民法の規定では、所在不明の共有者がいる場合にどの様な問題があったのでしょうか。

A1.民法には、共有物の「変更」、「管理」、「処分」についての規定がありますが、このそれぞれについて、次の様な問題点が挙げられます。

  1. (1)共有物に変更を加えるには、共有者全員の同意が必要です。
    この「変更」とは、これまでの民法では明確に定義されておらず、共有物を物理的に変形させる行為と解釈されていました。共有物の建物を増改築する場合が、これに当たります。
    しかし、共有者の誰かが所在不明の場合には、共有者全員の同意を得ることはできませんので、共有物の変更行為ができなくなってしまいます。
  2. (2)共有物の管理については、これまでの民法では、各共有者の持分価格の過半数で決定することとされていました。
    共有物を賃貸する場合が、この「管理」行為の典型例とされています。
    しかし、例えば、共有者がA・B・C・Dの4名で、各自の持分価格は同額であるという場合に、C・Dの2名が所在不明であるとしますと、残りのA・Bのみでは持分価格の過半数に届きませんので、共有物の管理行為ができなくなります。
  3. (3)共有物の処分は、共有物を第三者に売却する場合が典型例ですが、各共有者が自分の持分について自由にできるとされており、自分の共有持分のみを売却することもできます。
    しかし、共有者の中に所在不明者がいる場合には、これまでは所在不明者の共有持分を他の共有者が処分できるという規定がありませんでした。つまり、買主はいつまでたっても共有物を単独で所有することができない、ということになります。
    そこで、その様な場合は、これまでは、不在者財産管理人の制度や、失踪宣告の制度を利用するしかありませんでした。
    しかし、不在者財産管理人の制度は、不在者の財産全般を管理するものであるため、事務処理や費用の負担が大きいものとなります。また、不在者財産管理人が不動産を売却するためには裁判所の許可が必要ですので、手続に多くの時間と労力がかかることになります。
    また、失踪宣告の制度は、所在不明者の生存が確認できる最後の時から7年経過したことによって死亡したものとみなすものですので、この7年が経過するまでは、この制度は利用できません。
    結局、これらの制度では、時間と労力がかかり過ぎることになるのです。

Q2.その様な問題点を踏まえて、どの様な改正がなされたのですか。

A2.A1で挙げました問題点ごとに、改正された点を述べたいと思います。

  1. (1)共有物の「変更」について。
    1. ①まず、A1で述べました通り、これまでは、共有物の「変更」について、明確な定義が規定されていませんでした。
      しかし、今回の改正によって、「変更」には「形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」を含まないこととなり、「変更」に該当する行為、つまり「形状又は効用の著しい変更を伴うもの」について共有者全員の同意が必要となる、と改正されました。
      従って、この「著しい変更」を伴わない場合には、下記(2)の共有物の「管理」として取り扱われることになります。
    2. ②次に、必要な調査を行っても所在が不明である共有者が居り、この共有者全員の同意が得られない場合には、所在不明の共有者以外の他の共有者の同意を得て、共有物に変更を加える裁判を行うことができることになりました。
      例えば、A・B・Cの3名が同じ持分割合で共有している建物があり、Aがこの建物を増改築したいが、Cが所在不明という場合は、Aは、Bの同意を得た上で裁判を行うことによって、共有建物を増改築できることになります。
  2. (2)共有物の「変更」について。
    1. ①まず、(1)で述べました通り、共有物の「変更」の定義付けに伴い、「形状又は効用の著しい変更を伴わない」変更については、「管理」として取り扱われることになりました。
    2. ②次に、共有物の「管理」については、所在不明の共有者、及び催告しても共有物の管理について賛否を明らかにしない共有者がいる場合に、所在不明の共有者及び賛否を明らかにしない共有者を除いた共有者の持分価格の過半数で決することができる旨の裁判ができることになりました。
      例えば、A・B・C・Dの4名が同じ持分割合で共有している土地があり、AとBはこの土地を賃貸することに賛成しているが、Cは反対しており、Dは所在不明という場合には、Dを除いたA・B・Cの3名のうち、持分価格の過半数であるAとBが賛成していますので、裁判を求めることにより、AとBはこの土地を賃貸できることになります。
  3. (3)共有物の「処分」について。
    A1で述べました問題点を解消するために、①所在不明共有者持分取得の制度、②所在不明共有者持分譲渡の制度が設けられました。

    まず、①の所在不明共有者持分取得の制度は、共有者が、裁判により、所在不明の共有者の持分を買い取ることができる、というものです。
    例えば、A・B・Cの3名が同じ持分割合で共有している土地があり、AがBとCの持分を取得して(これでAが単独で所有することになります)、Xに売却したいと考えているが、Cが所在不明の場合、Aは、この制度を利用して、Cの持分を買い取ることができます。
    但し、Aが買い取る持分の価格については、法務局に供託金として納付する必要があります。
    また、この制度で買い取ることができるのは所在不明共有者の持分のみですので、Aは、さらにBの持分を取得して、Xに売却できることになります。

    次に、②の所在不明共有者持分譲渡の制度は、共有者が、裁判により、所在が明らかな他の共有者の同意を得ることを条件として、所在不明共有者の持分を譲渡する権限を与えてもらう、というものです。
    例えば、A・B・Cの3名が同じ持分割合で共有している土地があり、AがBとCの持分を取得して(これでAが単独で所有することになります)、Xに売却したいと考えています。Cが所在不明の場合、Aは、Xに土地を譲渡するにあたり、Bの同意を得て、Cの持分をXに譲渡する権限を自分に与えてもらうという裁判をすることができ、さらにBの持分を取得して、Xに売却することができます。

所在者不明土地の問題の解決に向けての民法の改正のポイントである(5)遺産分割が長期未了状態である場合に対する対応規定の創設については、次回にお話ししたいと思います。
それでは、皆様、くれぐれもご自愛下さい。

司法書士
渡辺 拓郎
渡辺拓郎事務所 代表
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