法律コラム

2022.06.21

所有者不明土地について④

政府の新型コロナウイルスに対する基本対処方針が改訂され、新たな対応の模索が始まりつつありますが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。
さて、今回は、前回に引き続き、最近問題となっている「所有者不明土地の問題」を解決するための対策として行われる、民法の規定の見直しについて、お話ししたいと思います。

所有者不明土地について

Q1.所有者不明土地問題の解決の対策として、民法の規定の見直しがされたのは、どの様な点ですか。

A1.大まかに申しますと、次の通りです。
(1)所有者不明の隣地の使用に関する規定の改正
(2)ライフラインの導管(電気引込線・ガス管・水道管)の設置権の新設
(3)所有者不明の土地・建物の管理制度の創設
(4)不明共有者がいる場合の対応規定の創設
(5)遺産分割が長期未了状態である場合に対する対応規定の創設
なお、これらの民法の改正については、先日、令和5年4月1日に施行されることが決まりました。

Q2.所有者不明の隣地の使用に関する規定は、どの様な改正があったのですか。

A2.民法では、建物の外壁を修理する工事や、隣地との境界標の確認や、隣地に生えている木の枝が自分の土地の上に伸びてきている場合の枝の除去といった目的で、一時的に立ち入って隣地を使用したい場合には、原則として、隣地の所有者の承諾が必要とされています。
ところが、改正前の民法には、相続登記が長い間なされずに放置されているために登記簿を調べても誰が所有者なのか分からない場合については、規定がありませんでした。
そのため、これまでは、誰が隣地の所有者か分からない場合には、自分で所有者を調査して訴訟を起こし、「土地の使用を承諾せよ。」という判決を得るしかありませんでした。しかし、そのためには、膨大な時間と労力と費用がかかってしまいます。
そこで、改正民法では、
① 土地の境界付近における建物等の修繕等
② 境界標に関する調査や測量
③ 隣地から伸びてきた木の枝の除去
について、現地確認や市町村役場への聞き取り等をしても隣地所有者が判明しない場合に、必要な範囲内で隣地に立ち入り、使用することが認められました。

また、調査の結果、隣地所有者が判明した場合にも、隣地所有者が立ち入りを不当に拒否する可能性があります。
そこで、上記の立ち入り・使用が必要な場合には、使用目的、日時、場所及び方法を隣地所有者に事前に通知すれば、隣地所有者の承諾なしに隣地を使用できることになりました。

Q3.ライフラインの導管の設置権が新設されたとのことですが、どの様な規定ですか。

A3.土地の位置関係により、どうしても隣地を通らないと電気引込線・ガス管・水道管といったライフラインに不可欠な導管を引き込むことができない、ということが多くあります。
しかし、改正前の民法には、この様な導管の引き込みのために他人の土地を使用する場合の規定がありませんでした。
そのため、これまでは、導管の設置権については法解釈に委ねられていました。
また、相続登記がなされない等の理由で隣地の所有者が不明の場合には導管の引き込みが困難となる、という問題もありました。
そこで、改正民法では、他人の土地を使用しなければ電気・ガス・水道水の供給を受けられない場合には、必要な範囲内で他人の土地を使用して、導管を設置することができることになりました。

Q4.新しく設けられた所有者不明の土地・建物の管理制度は、どの様な制度ですか。

A4.例えば、所有する土地を売却する場合には、その土地の面積・形状及び隣地との境界を確定するため、隣地所有者の立会いのもとで境界確認を行う必要があります。
しかし、隣地所有者が不明の場合には、この境界確認を行うことができません。
この場合、改正前の民法においては、不在者財産管理人や相続財産管理人の制度に基づいて、不在者財産管理人や相続財産管理人が選任されて境界確認に立ち会う様になっていました。
ところが、これらの財産管理制度は、不在者や不明相続人の財産全般を管理する制度ですので、手続に多くの時間や費用を要し、迅速な処理には不向きでした。
そこで、改正民法では、所有者不明土地・建物という特定の財産の管理のみに特化した新たな財産管理制度として、所有者不明土地・建物の管理制度が設けられることになりました。
この制度では、利害関係人の申立てによって、裁判所が管理命令を発令して管理人を選任し、選任された管理人は、所有者不明土地・建物について専属的な管理処分権を有することとされています。これにより、これまでの不在者財産管理人制度等より所有者不明土地・建物の管理が効率的にできる様になりました。

また、所有者が判明していても、その所有者が土地・建物を適切に管理せずに放置することによって、他人の権利・利益が侵害される危険がある場合もあり得ます。
そこで、改正民法では、その様な場合においても、同様に管理人を選任することができる、管理不全土地・建物の管理制度も設けられることになりました。

A1.で挙げました、(4)不明共有者がいる場合の対応規定の創設と、(5)遺産分割が長期未了状態である場合に対する対応規定の創設につきましては、次回にお話ししたいと思います。
それでは、皆様、くれぐれもご自愛下さい。

司法書士
渡辺 拓郎
渡辺拓郎事務所 代表
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