年金コラム

2009.07.01

遺族年金について(1)

こんにちは社会保険労務士の土屋です。今回は、遺族年金のお話しです。 サラリーマンの夫を持つ専業主婦の保険厚子さん(40歳)と、夫と二人でパン屋を経営する年金国子さん(40歳)の例で説明します。

遺族年金が受給できるのは

生活を共にしてきた配偶者等が病気や不慮の事故などで死亡してしまった場合、残された家族の生活は困窮にさらされかねません。そうした家族の生活を支えるために遺族年金という制度があります。ただし、誰でも受けられるわけではありません。まずは、亡くなった方が保険料をきちんと納付していたかどうかです。保険料納付要件については、前回障害年金の項(3月4日掲載分)でも説明しましたが、下記のどちらかの条件(国民年金への加入)を満たしている必要があります。

  1. 死亡日の前日において、死亡月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料納付済期間と免除期間をあわせた期間が3分の2以上あること
  2. 平成28年3月末までは、死亡日の前日において、死亡日の前々月までの直近1年間保険料の滞納がないこと

死亡した方が上記どちらかの条件を満たしていたうえで、死亡した方の死亡時の職業や年金受給者であったか、受給資格期間を満たしていたかどうか、また、配偶者の方の年齢や子の有無、その子が成人であるかどうかによって、受給できるかどうか、そして受給できる年金が違ってきます。

保険厚子さんのケース

保険厚子さんの夫は、不幸にも会社の休日に自動車事故に遭い亡くなりました。

厚子さんには二人のお子さん(17歳、15歳)がいます。夫は大学卒業後現在の会社に入社し、20年勤務する厚生年金保険の被保険者です。したがって、保険料納付要件は十分満たしています。厚子さんの場合には、まず、厚生年金保険から遺族厚生年金が受給できます。

遺族厚生年金が受給できるのは、死亡した人と生計維持関係にあった配偶者、子、父母、孫、祖父母です。子・孫は18歳の年度末(障害者は20歳)未満、夫・父母・祖父母は55歳以上(支給は60歳から)でなければ受給できません。また、遺族の年収が高額(850万以上)だと受給できません。

上記の遺族がいて、下記の要件を満たしたときに遺族厚生年金が支給されます。

  1. 厚生年金保険の被保険者が在職中に死亡したとき
  2. 厚生年金保険の被保険者が退職後、被保険者期間中の傷病が原因で初診日から5年以内に死亡したとき
  3. 1級または2級の障害厚生年金を受けている人が死亡したとき
  4. 老齢厚生年金を受けている人や、受ける資格期間のある人が死亡したとき

厚子さんの場合は1.にあたります。年金額は夫の在職中の標準報酬(給料・賞与)と被保険者期間によって計算された厚生年金額の4分の3です。ただし、被保険者期間が300月に満たない方は300月として計算してくれる底上げの仕組みになっています。さらに、厚子さんには二人の成人前の子がいますので、国民年金から遺族基礎年金が受給できます。遺族基礎年金は子のある妻または子に支給される年金です。子とは18歳未満(18歳に達した日以後の最初の年度末まで、障害者は20歳未満)の未婚の子をいいます。

遺族基礎年金は定額(792,100円)です。18歳未満の子がいれば、加算額(2人目まで一人につき227,900円、3人目から一人につき75,900円)があります。遺族基礎年金は子がすべて18歳(障害者は20歳)の年度末を超えると、受給は終了します。その後、厚子さんの場合には、遺族厚生年金だけを受給することになりますが、夫の死亡当時に妻が40歳以上であれば、中高齢寡婦加算(594,200円)が65歳になるまで遺族厚生年金に加算されます。65歳になると妻は自分の老齢基礎年金を受給することができますので、中高齢寡婦加算は経過的寡婦加算(594,200円~19,900円)にかわります。支給額は誕生日によって違います。年齢が若い人ほど支給額は減少していき、昭和31年4月1日以降の人には経過的寡婦加算はありません。これは、昭和61年4月1日から基礎年金制度ができ、専業主婦の方は第3号被保険者となりました。以降、国民年金には強制加入となりましたが、それまでは専業主婦の方はあくまで国民年金への加入は任意でした。任意ですから、加入をしない方も当然のように多くいました。つまり、昭和31年4月1日以降生まれの方は、基礎年金制度ができたときには30歳以下です。したがって、基礎年金制度以降加入を続ければ、すくなくとも30年以上は加入することができ、自分の受給権を得ることができます。そうした人にまで、経過的寡婦加算といった優遇措置を取る必要がないというわけです。

年金国子さんのケース

年金国子さんの夫は5年前に脱サラをしてパン屋を夫婦で営んでいましたが、夫(42歳)は体を壊し亡くなりました。二人には子どもはいません。年金国子さんは遺族年金を受けることができるでしょうか?ちなみに、夫は障害年金を受けていません。

残念ながら国子さんは遺族年金を受給することができません。国子さんも夫も国民年金はきちんと納めていますが、二人には子どもがいませんので、子のいる妻または子に支給するという遺族基礎年金の条件に該当しません。また、死亡時には厚生年金の被保険者ではありませんし、死亡時の年齢が42歳ですから受給資格期間(20歳から加入して22年)を満たすこともできませんので、遺族厚生年金を受給する条件にも該当しません。また、脱サラ後5年を経過していますので、被保険者期間中の傷病が原因によるという2.の条件にもあてはまりません。

それでは国子さんはなにももらえないのかというとそうではありません。死亡一時金というものをもらうことができます。死亡一時金は、第1号被保険者として保険料を36月以上納付し、国民年金から年金を何も受け取らずに死亡した場合、生計を同じくしている家族に支給されます。一時金の額は36月から180月未満で120,000円から、最大で420月以上で320,000円の間で支給されます。

また、もし国子さんの夫が後3年長生きをしてくれていれば、夫の年金加入期間は25年になり、資格期間を満たすことができましたので、脱サラまでに掛けた厚生年金を遺族厚生年金として国子さんが受給できました。また、もし夫がもっと長生きをして、国民年金の期間が25年以上に達していれば、国子さんは、60歳から65歳の間に寡婦年金という年金を受給することができました。寡婦年金とは第1号被保険者として25年以上保険料を納付した夫が、年金を一銭も受け取らすに死亡した場合に、妻が受給することができる年金です。支給額は夫が納付した保険料から算出される年金額の4分の3の額になります。ただし、寡婦年金は死亡一時金を受け取った場合は受給することができません。どちらかを選択することになります。

30歳未満の妻は5年で受給終了

保険厚子さんは、夫が死亡した時に40歳でしたから、遺族厚生年金は婚姻や死亡等の条件に当てはまらなければ、受給権を失うことはありません。ただし、夫が死亡した時に妻の年齢が30歳未満だと、遺族厚生年金は5年受給して終了になります。この仕組みは平成19年3月以前に夫が死亡した場合には適用されません。また、中高齢寡婦加算も夫の死亡が平成19年3月以前であれば、夫の死亡時に妻が35歳以上であるか、遺族基礎年金終了時に妻が35歳であれば、加算されていました。
30歳未満や35歳未満の妻ならば、夫の死亡後、再婚することもまた自分で働き十分収入を得ることができるだろという考えからきた改正内容といえます。

遺族年金の問題点について

遺族年金はそもそも生活保障という視点で年金を支給していますので、成人前の子どものいる方や収入のない専業主婦の方に手厚く支給されるようになっています。一方で国民年金の第1号被保険者である年金国子さんのような方には遺族年金は支給されません。働き手である夫が亡くなり、これから一人でパン屋を続けていくなどして、生きていかなければならないにも関わらず、わずかばかりの一時金でおしまいになります。しかも、自分の年金は60歳以降にならないと受給すことができません。パン屋という仕事があるじゃないかと国はいうかもしれません。でも、ともに働いてきた夫はもういません。

こうした不合理な点は年金制度には多々あります。こうような点については、今後改善していかなければならいのではないかと筆者は思うのですが、皆様はいかが思いでしょうか?

次回は遺族年金の受給の仕方についてお話ししたいと思います。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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