年金コラム

2009.10.07

遺族年金について(2)

こんにちは社会保険労務士の土屋です。今回も遺族年金についてお話しをさせていただきます。

昭和61年4月新年金制度施行後は一人1年金が原則

昭和61年4月1日から現在の新年金制度が施行され、日本に居住する20歳から60歳の人はすべて年金制度に加入することになりました。外国人(旅行者や社会保障協定を締結している国の国籍を持つ短期間の在留外国人は除く)であっても、例外ではありません。

では、それまではどうだったかというと、昭和61年4月前(旧法の年金制度といいます。)まではサラリーマンは厚生年金に、自営業者は国民年金に、公務員は共済年金の各制度にのみ加入し、各制度から年金を受給していました。したがって、それぞれの制度で受給権が発生すれば、一人の人がそれぞれの制度から複数の年金を受給しているということがありえました。また、サラリーマンの妻は年金制度への加入はあくまで任意とされていましたので、離婚をした女性の中には自分の年金がもらえないというケースが少なからずありました。

こうした状況を改善する為に国は、日本に居住する20歳から60歳までの人については国民年金に強制的に加入させ、サラリーマンが加入する厚生年金と公務員が加入する共済年金の被保険者についても基礎部分として国民年金にも加入させることにしました。保険料については、自営業者等で国民年金に加入する方については保険料を徴収し、厚生年金や共済年金はそれぞれの制度が基礎年金拠出金というかたちで負担し、サラリーマンの妻(第3号被保険者)については、厚生年金と共済年金の制度全体が負担することにし、サラリーマンの妻の負担はなしとしました(現在はその他に基礎年金部分の2分の1の国庫負担があります。ちなみに制度施行時は3分の1の国庫負担)。

こうして、昭和61年4月から基礎年金制度がスタートし、それに伴い一人1年金という原則がはじまりました。一人1年金の原則とは、文字通り一人の人が受給できる年金は1つで、支給事由が同じ年金のみが併給可能となり、支給事由が別の年金は併給することができなくなりました。

※平成18年4月から障害基礎年金と老齢厚生年金の併給と障害基礎年金と遺族厚生年金の併給は可能になりました(併給できるのは65歳以降)。

遺族年金と老齢年金の併給調整の改定

基礎年金制度創設には、加入者が減少していた国民年金の救済と女性特にサラリーマンの妻への年金権の付与という二つの大きな目的がありました。その為、基礎年金制度を作り厚生年金や共済年金の他制度から財政支援をさせ、一方で厚生年金被保険者(第2号被保険者)の配偶者であった期間については保険料負担なしに保険料納付済み期間とする第3号被保険者制度をつくり、国民年金に強制加入させ年金権を付与するしくみに変更したわけです。それと同時に一人1年金の原則も適用されることになりました。

そして、新年金制度が施行され20年弱が経過しました。これまで何度かの年金改正は行われましたが、平成生まれの人が年金手帳を受け取るようになり、日本の平均余命も大幅に伸び、家族形態も20年前とは大幅に変化し、女性の就労期間も長期間にわたるようになりました。そうすると、一人1年金の原則をそのまま通すと問題が出てくることになりました。

その一つが、遺族厚生年金の問題です。遺族厚生年金の受給者である女性が就労(厚生年金に加入)し、自分自身の老齢厚生年金の受給権が発生しても、一人1年金の原則があるため老齢厚生年金が受給できず、自分が今まで働き納めてきた保険料を結果的にドブに捨てることになるという問題です。その為、国はこうした場合については、一人1年金という原則を曲げ、自分の老齢厚生年金と遺族厚生年金を一緒に受給できるように改善しました。分かりやすいように日本花子さんの例をあげて説明してみます。

日本花子さん(昭和27年4月2日生まれ)は10年前にサラリーマンだった夫が死亡し、夫の遺族厚生年金(年額120万円)を受給しています。また、夫死亡時花子さんは専業主婦でしたが、子供さんが二人(夫死亡時:長男太郎さん17歳、長女和子さん15歳)いましたので、知人の紹介で某会社(厚生年金加入)に就職し、現在も就労しています。

花子さんは夫の死亡時に成人前の子供さんが二人いましたので、遺族厚生年金の他に遺族基礎年金が受給できました。遺族基礎年金は長女の和子さんが18歳年度末に達した時点で終了し、それ以降は中高齢寡婦加算(65歳到達で終了)が受給できます(前号2009年7月1日掲載で説明)。そして花子さんが60歳になれば特別支給の老齢厚生年金が受給できますが、60歳から65歳になるまでは、一人1年金の原則通り、遺族厚生年金+中高齢寡婦加算との選択受給になります。
大抵のケースの場合、遺族厚生年金の額の方が多いですから、そのまま遺族厚生年金を選択します。
改定がされたのは花子さんが65歳になってからの年金です。花子さんが65歳になると下記の3通りのなかから一番年金額の多い受給方法を計算し、国が自動的に選択してくれます。

  1. 遺族厚生年金+老齢基礎年金の合計
  2. 老齢厚生年金+老齢基礎年金の合計
  3. 遺族厚生年金3分の2+老齢厚生年金2分の1+老齢基礎年金の合計

わかりやすく金額を入れて計算してみます。花子さんの遺族厚生年金額は120万、老齢厚生年金は90万とします。とすると、

  1. 遺族厚生年金120万
  2. 老齢厚生年金90万
  3. 遺族厚生年金(3分の2)80万、老齢厚生年金(2分の1)45万の合計125万

となり、3が一番高額になりますので、3で計算された年金が老齢基礎年金と併せて65歳から支給されることになります。この方式を「年金丈比べ」と呼んでいます。そして忘れてはいけないのが、花子さんが受給する125万の年金のうち90万は自分の老齢厚生年金として支給され、残りの35万が遺族厚生年金として支給される点です。どこが違うのかというと、遺族給付は全額非課税ですが、老齢給付は課税されるという点です。

しかし課税されるといっても、一定の限度額以上の年金額(老齢給付)を受給している場合にしか課税されません。65歳未満であれば年額108万円未満、65歳以上であれば年額158万円未満の年金額(老齢給付)であれば、非課税限度以内となり年金には課税はされません。

※源泉徴収(年金から課税)される方については、毎年1月頃に社会保険庁からその旨の通知があります。また、扶養親族のある方については、毎年、11月頃に扶養親族申告書が送付されますので、忘れずに提出しましょう。また厚生年金基金等など2か所以上の年金支払者から年金を受給している人は確定申告をする必要があります。

遺族年金の失権・支給条件とは

遺族基礎年金も遺族厚生年金も被保険者や年金受給者が死亡した後、残された家族の生活保障という意味合いから支給されている年金です。したがって、遺族年金の受給者が結婚や直系尊属以外の人と養子縁組をした場合には、遺族年金の支給は終了します。結婚や養子縁組をすれば、安定した生活をおくれる基盤ができることになるので、そうした人にまで国が生活保障をする必要がないからです。また、遺族厚生年金には遺族の年収要件の問題があります。死亡時に生計を維持していた家族の年収が850万(所得金額6,555,000円)以上で、その状態がおおむね5年続くと見込まれる場合には遺族厚生年金は支給されません。

女性の年金権の問題については、平成19年4月から厚生年金の離婚分割制度が、平成20年4月からは第3号の強制分割制度がそれぞれ施行され、離婚後の女性への年金権の問題はかなり改善されました。
また、女性の就労期間が長くなれば、夫が妻の遺族厚生年金を受給し生計を維持するというケースも多くなるでしょう。そうした変化に対応した制度の運用が今後政治には求められるのではないかと筆者は考えます。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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