年金コラム

2011.01.05

「年金制度のしくみ」について

あけましておめでとうございます。社会保険労務士の土屋です。今年も皆さんにとって関心の高い年金についてお話しさせていただきます。今回は年の初めですし、「年金制度のしくみ」について最近の話題にも触れてお話ししたいと思います。

基礎年金制度について

このコラムでも何度か書かせていただきましたが、日本に居住する20歳以上60歳未満の人はすべて国民年金に加入しなければなりません。この仕組みを基礎年金制度と呼びますが、この制度ができたのが昭和61年4月からです。それまではたとえば、厚生年金や共済年金に加入する被用者(サラリーマン・公務員等)の被扶養配偶者や学生等は任意加入でした。現在では被用者年金(厚生年金・共済年金)の被扶養者配偶者は第3号被保険者となり国民年金に強制加入することになりましたが、昭和61年3月まではあくまで任意加入ですから、高齢の女性の方の中には、保険料納付済期間が少なくて年金額が少ないとか、加入期間が資格期間に足りなくて無年金の方がいるというケースがよくあります。

こうしたケースを救済する為に様々な措置や制度があります。そうした点からも年金は複雑でわかりにくいといわれています。一方、被用者(サラリーマン・公務員等)の方は会社(組合等)が給与から保険料を天引きしますので、加入漏れということは普通ありえませんが、自営業者や学生、フリーター等の第1号被保険者の場合は自分で保険料を納めなければなりません。保険料を滞納している方については財産を差し押さえるというケースもありますが、すべての滞納者に対応できるわけではありません。強制とはいっても事実上は自己責任ということになります。

年金は将来老齢(国民年金は65歳から、厚生年金は生年月日により60歳から)になったときに給付を受けるものですから、通常の生活をしているのであれば、年金制度から給付を受けるということはないです。ただし、人生何があるかわかりません。突然病気になったり、怪我をして障害者になることや、若くして死亡するということもありえます。その時に年金制度に加入をしていなければ、受けられるはずであった障害年金や残された家族が受けられたであろう遺族年金を受給することができないということになります。

読者の方の中にはその為に生活保護制度があるではないかと思うかもしれません。ただ、生活保護の給付も税金で賄っているのです。生活保護を受ける人が多くなれば、給付額は抑えられることにもなるでしょう。

障害や遺族という目的の為にも基礎年金制度はあるのです。

国庫負担ってなに

年金には国庫負担というものがあります。皆さんが納付した税金の一部が使われています。なんだこっちだって税金が使われているじゃないかと思われるかもしれません。ただし、国庫負担は2分の1で受給者への給付に使われる費用は国庫負担の他に皆さんが納めた保険料が使われています。

国庫負担は新聞等でご存知かと思いますが、昨年末、平成23年度の基礎年金の国庫負担の財源の問題が報道されました。現在基礎年金の国庫負担の割合は2分の1と法律で決まっています。これって私にどういう関係があるのというと、たとえば、皆さんや皆さんのご友人やご家族の方が自営業者やフリーター等で財政的な事情があり、国民年金の保険料を免除してもらっている場合、免除してもらっている割合(全額免除・半額免除・4分の1免除・4分の3免除の4種類あり)に応じて、その半分に国庫負担があり、将来受け取る年金になるということです。たとえば、全額免除の場合、保険料は1円も納める必要がありませんが、国庫負担がありますので、納付した分(全額免除は納付がないですが、2分の1は納付したものとして計算)の2分の1は納めたこととして将来の年金額計算をしてくれるということです。また、免除した分の保険料は手続き後10年経過するまでは追納(保険料を遡って納付)することができます。
(※学生納付特例や若年者特例については資格期間になるだけで、年金額には反映しません。ただし、手続き後10年経過するまでであれば追納することができます。)

この国庫負担の割合は、以前は3分の1でしたが、2分の1に引き上げましょうと決まったのが平成16年の年金改正でした。実際は平成16年から引き上げに着手し、平成21年度までには完全に引き上げを完了するとされていました。ところが、国庫負担を引き上げる為には当然ですが財源が必要になります。当然の帰結として民主党が主張する基礎年金の税法式の問題や消費税の引き上げ問題が国政等で協議(今はまったく聞こえてきませんが)されることとなりました。平成22年度はいわゆる埋蔵金や積立金の取り崩し等で対応しましたが、平成23年度についても同様の処理が検討され、基礎年金の税方式や消費税の引き上げ問題については今後の国政での協議を待つということになりそうです。ただし、積立金の取り崩し等ではいずれ限界がくることは間違いのないところでしょう。

年金制度は賦課方式といって、今ある財源(国庫負担や保険料等)は今受給するかたの給付に使われ、今の現役世代の給付については、その次の世代が負担することになります。年金は世代と世代との助け合いといわれているのはこのことを指しています。

基礎年金拠出金

被用者年金制度(厚生年金・共済年金)の被保険者は給与から保険料(事業主が同額を負担)が天引きされています。皆さんの給与明細には厚生年金保険料等と表示され保険料(従業員分)が控除されています。「私は学校を卒業して年金をもらうまで、会社に勤めていたので、国民年金の保険料は支払っていない。」という方がたまにおられます。

確かに、会社員や公務員の方は自分で国民年金の保険料を直接負担していません。しかしながら、被用者年金制度の被保険者の基礎年金部分(国民年金)の給付に要する分は、それぞれの制度が基礎年金拠出金として負担しています。また、被用者制度の被保険者の被扶養配偶者は第3号被保険者として将来年金がもらえますが、この基礎年金部分(国民年金)もそれぞれの制度が基礎年金拠出金として負担しています。

つまり、厚生年金や共済組合の被保険者は勤務先から保険料を給料から徴収されていますので、国民年金制度に直接保険料を支払えません。その為、制度全体が基礎年金拠出金として負担し、その拠出金を財源の一部として、厚生年金や共済年金の受給者の基礎年金を支給しているというわけです。

また、第3号被保険者の方は保険料を負担していないにもかかわらず、将来年金を受けることができます。それは、第3号被保険者の方の給付に要する費用については、第3号被保険者の方の被保険者が属するそれぞれの制度が基礎年金拠出金として費用を負担しているからなのです。

加入資格期間について

基礎年金には国庫負担がありますが、将来年金をもらう為には資格期間を満たすことが必要です。つまり、資格を満たせなければ、国庫負担分も受け取ることはできないわけです。
資格期間とは年金制度(国民年金・厚生年金・共済年金)に最低でも25年(300月)加入していることが必要という期間のことです。この25年という期間は外国の年金制度からみても長すぎるのではないかという議論があり、10年程度の期間で年金を支給するようにすべきだという議論があります。

具体的にいえば、自営業者等で国民年金の期間だけしかない人の場合、国民年金から受給する老齢基礎年金は満額(40年加入)で792,100円(平成22年度価格)です。年額ですから1ケ月約66,000円程度です。この年金額より生活保護費の方が高いから、国民年金の保険料を払うのは馬鹿馬鹿しいという議論が一部にはあります。

カラ期間(2010.01.06掲載分)や免除期間があって年金を受給する人の場合は老齢基礎年金の額もそれに応じて低額になります。10年という短い期間で年金を支給しても逆に低額な年金にしかならず、それだけでは、老後の生活を維持することはかなり厳しいものといえるのではないでしょうか。したがって、現在よりも更に加入をためらう方を増やすことになりはしないかと筆者は考えます。

年金の受給権を発生しやすくすることで、逆に未加入者を増やすことになれば、先に述べた障害給付や遺族給付を受けられない人を増やすことになってしまわないかと思うからです。

なぜなら障害年金をもらう為には障害の原因となった病気や事故の初診日の加入要件が問われますし、遺族年金を受ける為には死亡した方の加入要件が問われるからです。

資格期間の短縮の問題もいずれは議論されることになるでしょうが、きちんと手続きを行い、保険料を納付することが大切なのは間違いありません。

保険料はいつまで払うのか

国民年金の保険料は20歳から60歳に到達(60歳に到達する日の属する月の前月)するまで納入します。厚生年金や共済年金は会社に入社した時(公務員等になった時)から負担します。したがって、厚生年金や共済組合の場合は20歳前でも保険料を納めることになります。国民年金は40年(480月)で満額になりますが、60歳到達時に40年(満額)に足りない場合には自分で任意に加入することができます(65歳まで加入可能。ただし、昭和40年4月1日以前生まれの人で、25年の資格期間に足りない方は70歳まで加入できます)。一方、厚生年金(共済年金)は70歳まで加入しなければなりません。

筆者が相談を受けた方に70歳を過ぎて、25年の資格期間に足らない方がいました。お話しをよくお聞きすると、後数ケ月で25年の期間になり、昔かけた厚生年金がもらえるので、なんとかならないだろうかという相談でした。70歳を過ぎていますので、もう自分で任意加入することはできません。その方の残された手段は厚生年金の高齢任意加入という方法です。高齢任意加入とは事業主の承諾を受けて被保険者が保険料を全額負担して厚生年金に加入する制度です。本人が保険料を全額負担するわけですから、問題ないようにも思えますが、この時勢で70歳を過ぎた方を雇用し、給料を支払わなければならないわけですから、そういう奇特な事業主を見つけるのはなかなか難しいことではないかと思います。

そうすると、この方は掛けた保険料をどぶに捨てることになるのかというと、そうでもありません。国民年金の第1号被保険者として支払った保険料については、被保険者が死亡した時に遺族の方が死亡一時金として受けることができます。また、昭和16年4月1日以前生まれで、その他の条件を満たせれば厚生年金の保険料も一時金として請求できるかもしれません。ただし、一時金ですから金額は年金として受け取るより低額になるのは間違いありません。

よく若い方の中で、「私たちの頃にはどうせ年金は受け取れない。」「年金は税金で支給されるようになるから払うだけ無駄。」「生活保護の方が高い。」「そもそも年金制度は不公平だ。」などと主張する方がおられます。将来の制度がどうなるのかは、私たちにも予測はつきません。ただし、そういって、年金がもらえる年齢になって、先ほどの70歳の相談者の方のようなケースになった場合、選択できる手段がすくなくなることは間違いないのではないかと思います。

送付された「ねんきん定期便」等で自分の加入記録をきちんと確認することが大切です。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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