年金コラム

2010.01.06

カラ期間

こんにちは社会保険労務士の土屋です。今回はカラ期間についてお話しさせていただきます。

最低保障年金は即実施される?

本題に入る前にすこし脱線し、年金相談の現場で筆者が最近遭遇したお話しをさせていただきます。
政権交代により、最低保障年金がすぐにでも実施されるのではないかと誤解をしている方もおられるようです。年金事務所(旧社会保険事務所)の年金相談窓口で「私は、今まで何十年も国民年金の保険料を支払ってきた。それなのに野党の党首が総理となり、年金制度が100%税方式に変われば、保険料を支払わなくても年金がもらえるようになるので、私たちは馬鹿をみるのではないのか?」といってこられた年配の女性の方がいました。これは極端な話しかもしれませんが、年金についての話が友人同士の噂話しを経て誤解を生み、間違った内容で理解をされている方が少なくないのは事実です。

最低保障年金については、今後各方面で議論・検討され、国民の理解が得られるのであれば、新制度として法律が成立することも遠くない未来には予測はできます。ただし、現行の制度から即新制度に移行できるわけではありません。制度が施行されたとしても、当然経過的措置が必要になります。したがって、大半の方が現行の制度のまま年金を受給する、または経過的措置をとった上で新しい制度を一部実施していくということになるのではないかと思います。

政権が変わったからといって、すぐに制度が変わってしまえば、いたずらに混乱をまねくばかりです。みなさんが年金について疑問に思うことについては、どんな些細なことでも、年金事務所等の年金相談コーナーや市(区)役所の年金相談の窓口や日本年金機構の電話相談等を何度でも利用していただき、制度を正しく理解した上で適正な手続きをしていただきたいと思います。

今回お話しする合算対象期間のうちのカラ期間とされるものは、今まで何度か実施された制度改正により、改正後の新制度をそのまま適用してしまうと、年金が受給できなくなるなど不利益を受けてしまわないように定められた制度ともいえます。

カラ期間とは

さて、前置きが長くなりましたが、本題に入りたいと思います。
年金を受けるためには最低でも25年という加入期間が必要です。この加入期間には会社に勤め厚生年金に加入した期間、公務員になり共済組合に加入した期間、自営業者やフリーター等により自分で国民年金の保険料を納めた保険料納付済期間があります。また、それ以外に生活保護受給者や障害者になってしまった場合、失業や一定の収入以下になることを条件に保険料を免除してもらう保険料免除期間も加入期間としてカウント(年金には2分の1の国庫負担がありますので、全額免除期間は保険料納付済期間の2分の1として将来の年金額計算に反映されます。半額免除期間は半額を納付し、半額の2分の1が国庫負担ですので、保険料納付済期間の4分の3として年金額に反映されます。)されます。

この他に老齢基礎年金の資格期間(受給資格を得るためには最低25年必要)としてカウントされる期間に合算対象期間というものがあります。保険料納付済期間や保険料免除期間(全額免除以外の場合、免除以外の分の保険料を納付することが必要。)は年金額の計算に反映されますが、合算対象期間のうちカラ期間とされるものについては、文字通りカラ(保険料支払いなし)ですから、年金額の計算に反映されない期間となります。

それでは、事例をあげてカラ期間について説明してみましょう。
富士山雄さんは、今年の4月で60歳(昭和25年4月2日生まれ)になります。現在はご自分で印刷業を営んでいます。約20年前に奥さんと会社を立ち上げましたが、創業したころは会社の経営も厳しく、とても年金どころではなく、国民年金の保険料を滞納(免除の手続きはしていない)せざるを得ませんでした。ただ、10年前から会社の方も軌道にのり従業員も2人ほど雇用し、厚生年金にも加入しました。山雄さんは独立する前に厚生年金と国民年金に加入した期間が併せて13年あります。さて山雄さんは60歳になったら年金をもらえるでしょうか?

※26歳~31歳までは日本に在住し、アルバイトや親せきの会社で働き生計をたてていました(国民年金未加入)

【参考資料】

加入期間については下記のような特例があります。

特例1:

厚生年金(または共済組合)の加入期間がある人は生年月日により20年~24年の加入期間(厚生年金または共済組合期間のみ)で受給できる措置があります。
※厚生年金(または共済組合)の加入期間が下記年数あれば年金が受給できる

生年月日 必要な加入期間
昭和27年4月1日以前生まれ 20年
昭和27年4月2日~昭和28年4月1日生まれ 21年
昭和28年4月2日~昭和29年4月1日生まれ 22年
昭和29年4月2日~昭和30年4月1日生まれ 23年
昭和30年4月2日~昭和31年4月1日生まれ 24年

特例2:

男子40歳(女子35歳)以降の厚生年金加入期間15年~19年(生年月日により)で受給できる特例もあります。

生年月日 必要な加入期間
昭和22年4月1日以前生まれ 15年
昭和22年4月2日~昭和23年4月1日生まれ 16年
昭和23年4月2日~昭和24年4月1日生まれ 17年
昭和24年4月2日~昭和25年4月1日生まれ 18年
昭和25年4月2日~昭和26年4月1日生まれ 19年

富士山雄さんは60歳に達すると、厚生年金と国民年金に加入した期間が通算で23年になります。25年という期間がなければ年金を受けることができませんから、60歳以降後1年以上厚生年金に加入(1年加入で特例1に該当。または2年以上加入で加入年数が25年に到達)しなければ、厚生年金(報酬比例部分のみ)を受給することができません(その後70歳になるまで加入可能)。また、60歳到達時点では特例1(厚生年金19年で×)や特例2(40歳以降10年で×)にも該当しません。
それならば、山雄さんは60歳で年金を受給できないかというと、そうでもありません。山雄さんは4年制の大学を卒業しています。山雄さんが大学生の頃は国民年金に加入しなくても良い制度でした。20歳以上の学生が強制加入になったのは平成3年4月からです。平成3年3月までは、20歳以上の学生はあくまで任意加入(適用除外)とされ、個人の意思で加入しても加入しなくても良かったわけです。

このように制度が変わったおかげで、任意加入だった期間を未納扱いにされたのでは、本人の不利益となりますから、こうした期間については25年という資格期間をみる計算にはいれることとされたのです。ただし、保険料は全く払っていませんので、年金額の計算には反映されません。こうした期間のことをカラ期間といいます。
25年以上という加入期間を満たした富士山雄さんは、おかげで60歳から報酬比例の厚生年金を、65歳になると老齢基礎年金と老齢厚生年金を受けることができることになります。

合算対象期間になる期間は様々

合算対象期間(カラ期間も含む)になる期間は様々です。昭和61年4月前はサラリーマン(厚生年金被保険者)や公務員(共済組合被保険者)の配偶者(専業主婦)は任意加入(適用除外)でしたから、国民年金制度が創設された昭和36年4月1日から昭和61年3月31日までの20歳から60歳の配偶者であった期間は合算対象期間(カラ期間)になります。
また、厚生年金の脱退一時金をもらった期間も保険料分を一時金として本人に返したので、合算対象期間(カラ期間)になります。ただし、昭和61年4月1日以降に国民年金に加入していることが必要です。

昭和61年4月1日以後
  1. 国民年金に任意加入しなかった期間のうち下記の期間
    • 日本国籍を有していた者の海外在住期間
    • 学生(平成3年3月31日までに限る)であった期間
  2. 日本国籍または永住資格を取得した者の海外在住期間
    • 65歳到達前に日本国籍(または永住資格)を取得した者が国籍(または永住資格)取得前に在住していた期間のうち20歳から60歳到達日までの期間
※上記以外にも合算対象期間になるケースもあります。詳しくは年金事務所等で確認ください。
昭和61年4月1日前
  1. 被用者制度(厚生年金保険・共済組合)加入者の配偶者だった期間
  2. 被用者年金の老齢・退職・障害・遺族の受給権者及び恩給等受給者だった期間
  3. 老齢または退職、障害の年金受給権者の配偶者だった期間
  4. 被用者制度の老齢または退職を支給事由とする年金の受給資格を満たしている者だった期間
  5. 上記4に該当する者の配偶者及び学生等だった期間
  6. 地方議員だった期間(昭和37年12月1日から昭和61年3月31日までの期間)
  7. 国会議員の期間(昭和55年4月1日から昭和61年3月31日までの期間)
※上記以外にも合算対象期間になるケースもあります。詳しくは年金事務所等で確認ください。

20歳前及び60歳以後の厚生年金被保険者期間の年金は老齢厚生年金から支給

昭和61年4月1日以後の合算対象期間は、被用者制度(厚生年金・共済組合)の20歳前及び60歳以後の期間及び20歳から59歳まで間で国民年金法の被保険者とされなかった期間が該当します。
中学や高校を卒業し会社に就職すれば20歳前から厚生年金に加入することになりますが、国民年金はあくまで原則20歳から60歳まで加入し、65歳から受給開始になります(65歳までは任意加入可能、資格期間の満たない人は70歳まで加入(昭和40年4月1日以前生まれの者に限る)できます。)。そうした国民年金の第1号被保険者とのバランスもあり、20歳前及び60歳以降の厚生年金の期間は老齢基礎年金の受給資格要件をみる算定には含めますが、年金額の計算に含めないこととしています。そのため、20歳前及び60歳以降の厚生年金の期間の基礎年金部分は差額加算(経過的加算ともいう)という形で、老齢厚生年金から支給されることになります。加入期間は年金額に反映されますので、カラ期間ではありませんが、老齢基礎年金には反映されないので合算対象期間とされているわけです。
なお、60歳から65歳になるまで受給する特別支給の老齢厚生年金は20歳前の厚生年金の期間も含めて年金額が計算されます。その後65歳になれば年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)は再計算され、20歳前の期間は差額加算として支給されることになります。

【65歳からの年金受給の仕方(20歳前及び60歳以後の厚生年金被保険者期間がある場合)】

20歳以上の学生の強制加入について

今回事例としてとりあげた20歳以上の学生の期間については、被用者年金制度(厚生年金・共済組合)の配偶者と同様に昭和36年4月から実施された旧国民年金法では適用除外とされていました。その後、昭和61年の4月の基礎年金導入で、被用者年金制度(厚生年金・共済組合)の配偶者等は強制加入(第3号被保険者)となりましたが、20歳以上の学生については、そのまま適用除外(任意加入)とされました。そのため、20歳以上の学生の期間に障害を負ってしまった方が障害年金を受給できないという問題もあり、平成元年に法律が改正され、平成3年4月1日から学生の強制加入が実施されたわけです。
合算対象期間は年金制度の中で非常に難解な部分です。また、制度改正を何度も経て更に複雑になっています。分からないことは自分で判断せず、日本年金機構の年金事務所等に相談するか、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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