年金コラム

2011.04.15

運用3号の問題について

みなさん、こんにちは。社会保険労務士の土屋です。

3月11日に東日本大震災が発生し、大変多くの方が被災されました。
亡くなられた皆様には謹んでご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。今もってその安否が不明な方々の一刻も早い消息の判明と、被災地域の1日も早い復興を祈るばかりです。

支援制度について

被災にあわれた地域の皆様には社会保険制度において様々な支援制度があります。災害が発生したばかりでなかなかそこまでの気持ちの余裕がないというのが現状であることと存じますが、ぜひ頭の片隅においていただいて、お気持ちが落ち着きました時に利用していただければと思います。またご友人・知人や親戚の方々で被災された方がおられましたら情報としてお伝えしていただければ幸いです。

  • 国民年金保険料の免除制度
    このコラムでも何度か触れたことがありますが、自営業者等の第1号被保険者の方の場合、事業継続が不可能ということになれば収入がないということになりますので、国民年金の保険料については免除の対象になります。また、事業の継続が不可能になり一旦解雇とされて離職した労働者の方も国民年金保険料の免除を受けることができます。
    現状では住民台帳そのものがなくなってしまったような市区町村や、生活支援が優先で役場自体が十分機能していない地区もありますが、最寄りの年金事務所等にご相談いただければと思います。
    ※詳しくは日本年金機構のWEBサイト (http://www.nenkin.go.jp/index.html) をご参照いただくか、日本年金機構に直接お問い合わせください。
  • 社会保険料(健康保険、厚生年金保険、労働保険)の納付延長
    会社に勤める労働者の方の場合、事業主が保険料納付猶予の手続きを行えば、納付期限の延長(災害のやんだ日から2ケ月以内の日が定められる。被災者の状況に応じて十分検討)が受けられます。
    健康保険・厚生年金保険については日本年金機構のWEBサイト(http://www.nenkin.go.jp/index.html)をご参照いただくか、日本年金機構に直接お問い合わせください。また、労働保険については各県の労働局Webサイトをご参照ください。
  • 会社に在籍のまま失業保険から基本手当が受給可能
    被災地域で災害にあった事業所が事業の休止または廃止を余議なくされた場合、事業の継続ができませんので労働者の方に賃金を支給することができません。その場合、事業再開後に雇用することを前提に一時的に従業員を離職したものとみなして、雇用保険から基本手当を受給することができます。手続きについてはお近くのハローワークでご相談いただければと思います。
    ※詳しくは厚生労働省の「東日本大震災に伴う雇用保険失業給付の特例措置について」をご参照ください。
  • 雇用調整助成金(中小企業緊急雇用安定助成金)
    被災地域の事業所で震災により事業の継続ができない為に休業を余儀なくされた場合には雇用調整助成金(中小企業の場合は中小企業緊急雇用安定助成金)が受給できます。
    詳しくは管轄のハローワークでご確認いただくか、社会保険労務士にご相談ください。
    ※厚生労働省の「雇用調整助成金」でもご参照いただけます。

運用3号の問題について

震災発生後、引き続き発生する余震や福島原発の問題があり正直年金の問題どころではないというのがみなさんのお気持ちではないかと思います。
とはいっても法律改正は実施されます。平成23年度は久しぶりに年金額が減額(0.4%引き下げ)になります。また、一昔前の話題になってしまった「運用3号」(国民年金の第3号被保険者期間に第1号被保険者記録が含まれている)の問題も解決をみたわけではありません。とりあえず不公平という世論を反映して「運用3号」の取り扱いについては廃止となりましたが、対象者の年金や保険料徴収をどう処理するのか。早急に対応を取る必要がありますが、八方まるく収まる解決策をみつけるのはなかなか難しいといえます。

職業によって国民年金の種別が違う

始めに国民年金の加入形態からお話ししましょう。日本に居住するすべての人はなんらかの年金制度(国民年金・厚生年金・共済年金等)に加入しなければなりません。
そしてその人の加入する制度、つまりはその人の職業によって、自営業者や学生等は第1号被保険者、会社に勤めるサラリーマンや役人等は第2号被保険者、そして第2号被保険者に扶養される専業主婦等を第3号被保険者と呼びます。

【国民年金の加入形態】

  加入する制度 職業等 加入年齢 日本居住要件
第1号
被保険者
国民年金 自営業者・学生等 20歳~60歳まで あり
第2号
被保険者
厚生年金(共済年金)&国民年金 会社員・役人 20歳~65歳まで なし
第3号
被保険者
国民年金 第2号被保険者に扶養されている配偶者 20歳~60歳まで あり

※学生については平成3年4月から強制加入。
※厚生年金には70歳まで加入。ただし、65歳に達し老齢基礎年金を受給できる場合には第2号被保険者には該当しません。

運用3号の問題はなぜ発生したか

国民年金から受給する老齢基礎年金は 40年(480月)の加入で満額になります。60歳時点で満額に達していない場合には、65歳まで任意で加入することができます。また、受給資格期間である25年(300月)を満たしていない場合には70歳まで加入することができます(ただし、昭和40年4月1日以前生まれの人に限る。また、40年に達した時点で加入は終了)。

厚生年金保険は会社に勤務している場合には70歳まで加入して保険料を負担しなければなりません。ただし、65歳になって老齢基礎年金を受給できるようになると第2号被保険者ではなくなります。したがって、この時に配偶者が60歳未満であっても第3号被保険者の資格を喪失することになります。第3号被保険者の資格喪失後は国民年金の第1号被保険者となり、保険料を納める必要があります。こうした際に不適正な取り扱いが起こり、今回の運用3号の問題は発生しました。

また、第2号被保険者は日本の居住要件はとわれませんから、日本法人の外国支店に赴任しても日本の厚生年金制度に加入し続ければ基礎年金にも加入することになります。一方、第2号被保険者の配偶者が一緒に外国に居住した場合、第3号被保険者には日本の居住要件が問われます。したがって、配偶者も一緒に外国に居住する場合には第3号被保険者の資格がありませんので任意加入をしないとカラ期間になります。また、第3号被保険者は20歳から60歳までという年齢要件がありますので、第2号被保険者が年下で厚生年金に加入していても、配偶者が60歳に到達すれば第3号被保険者の資格は喪失することになります。

このように第3号被保険者の手続きは厚生年金の加入年齢の引き上げや年金の支給開始年齢の引き上げ等も関係し非常に複雑でわかりにくい制度になっています。
こうした種々の問題により運用3号のような問題が発生したといえます。

運用3号の問題点

よくあるケースですが、たとえば厚生年金の被保険者同士が結婚し、片方が会社を退職し一方の被扶養配偶者になったとします。その場合、退職した方は第2号被保険者から第3号被保険者となります。この手続きを「種別変更」といいます。その後、第2号被保険者の方が会社を辞めて自営業者になるケースや、年金受給者になるなどして第2号被保険者の資格を喪失することがよくありますが、その場合、本来であれば配偶者である第3号被保険者は第1号被保険者に変更する手続き、先ほどの「種別変更」の手続きを再度行わなければならないわけです。

この「種別変更」の手続きが適正に行われない為に、本来第1号被保険者期間(または未納期間等)とされるべき期間が第3号被保険者期間として通算されてしまい、その期間も含めて将来の年金額が支給されるということになるわけです。

運用3号の問題点

第3号被保険者制度について

国民年金の第3号被保険者制度とは厚生年金保険被保険者の配偶者が、一定の収入(年収130万円)以下であれば、第3号被保険者期間として、自分で保険料を負担することなく、その期間保険料を納付したものとして将来の年金を計算してくれるという仕組みです。つまりサラリーマンの夫と結婚し専業主婦となり、収入がまったくないとか、パートで働いているが月10万円程度の収入というケースであれば第3号被保険者に該当するということになります。

この第3号被保険者制度については以前から問題になっていました。特に女性の社会進出があたり前のようになりだし、働く女性が増えてきました。年収が130万円を超えれば第1号被保険者として国民年金の保険料を負担しなければなりませんし、会社に勤めることになれば当然厚生年金保険料を負担することになります。そうした働く女性からみれば一銭も保険料を負担していないにもかかわらず、将来年金をもらうことができるというのは不公平で理屈が通らないと思えるわけです。また、働く女性である厚生年金の被保険者にとっては、自身が会社を通じて納めている厚生年金の保険料の中から、第3号被保険者が受け取る年金の原資を制度の仕組み上負担していることになるので、余計に理屈があわないと思えるわけです。

※第3号被保険者が年金として受け取る原資となる保険料分については、厚生年金保険制度と共済年金制度がそれぞれ基礎年金供出金というかたちで負担しています(2011.01.05掲載分参照)。

昭和61年4月から第3号被保険者制度がスタート

第3号被保険者制度ができたのは、基礎年金制度がスタートした昭和61年4月からです。基礎年金制度ができるまではそれぞれの制度がばらばらに運営され、それぞれの制度から年金を受給していました。

そうした制度の狭間におかれた厚生年金被保険者(年金受給者含む)の配偶者については、制度としては国民年金に加入することになるのですが、加入はあくまで任意であって、現在のように強制ではありませんでした。したがって、結果的に無年金の高齢女性が将来多く発生することが予測されました。これではまずいということになり、基礎年金制度を創設し強制的に加入させることにしたわけです。ただし、専業主婦の方自身には収入がありませんので保険料を負担することができません。それならばということで当時の国は、厚生年金と共済年金の被保険者も基礎年金に加入させ、基礎年金供出金という形で第3号被保険者の保険料負担分を徴収する仕組みにしたわけです(2011.01.05掲載分参照)。

第3号被保険者制度の問題点について

昭和61年当時は、今のように急速な超高齢化や核家族化が進んでいると想像することはできなかったわけですから、第3号被保険者制度という仕組みができた当時は、将来無年金者になる恐れがある専業主婦の方々を救済するという目的からいって非常にありがたい制度といえました。ただし、それまで任意加入だったため、今まで年金手帳など持ったこともない人達に行政の年金係の窓口で手続きをしていただく必要がありました。この点が今の運用3号の問題を発生させた原因の一つともいえます。現在では第3号被保険者の手続きについては、配偶者である第2号被保険者が勤務する事業所が第3号被保険者の手続きを行うように義務付けられていますが、このような仕組みに変わったのは平成14年4月からで、まだ10年も経過していません。今でも年金に加入したことがない高齢の女性が年金相談の窓口に来訪するくらいですから、なかなか加入の手続きはスムーズにできませんでした。

こうした制度の不備について旧社会保険庁の責任であると指摘する声があります。確かに旧社会保険庁の責任が重いのは間違いありません。ただ、第3号被保険者制度ができてから旧社会保険庁はまったくなにもしなかったわけではありません。制度ができてから何度か特例制度を実施し、その度にマスコミ等も利用し広報を実施してきました。特例制度とは特例期間に手続きを行えば、手続きを行った時点から昭和61年4月まで遡って第3号被保険者期間に該当する期間については、すべて手続き以降第3号被保険者期間として計算してくれるという仕組みでした。問題になった運用3号とほぼ近い取り扱いでした。それでも運用3号のような問題が発生しました。特例制度を実施したにも関わらず制度の内容がよくわからなくて、加入の手続きをしない方や、また昭和61年4月以降に第3号被保険者となった方の手続きがいかに十分にできていなかったことがわかります。

旧社会保険庁を擁護するわけではありませんが、平成14年3月まではあくまで法律上は第3号被保険者の手続きについては自分で行わなければなりませんでした。そうしたことが本人はもちろんのこと、会社の担当者の方も十分制度を理解できていなかったことも原因にあります。今のように国民の目が年金に向いていれば、このようなことはなかったかもしれません。また、高齢化もまだ進んでおらず、現在より平均余命も短く、核家族化も進んでいませんでしたので、年老いた家族は家族が面倒をみることができたという一面もあるかもしれません。

最後に

運用3号の問題についてはすべての方が納得できるという結論を得るのはなかなか困難といえます。カラ期間扱いにするとか、10年間遡って保険料を納付してもらう等の対応が検討されていますが、すでに受給している方とこれから受給する方との公平性の問題等十分な検討をしていただき慎重に対応していくことが必要だと思います。
また、今後の年金制度を考えていく上で、一番大事なことは私達の子や孫の世代が困らないような制度を作っていくことではないかと筆者は考えます。その為には制度の不備に対して不満や不公平感を主張するだけではなく、私達全員がその点をまず第一に考えるべきではないかと思います。

最後に重ねて、被災された地域の皆様の健康と1日も早い復興を祈りたいと思います。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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