年金コラム

2014.08.20

年金改正(平成26年10月~平成27年以降)について

みなさんこんにちは。社会保険労務士の土屋です。今回もみなさんにとって大変関心の高い年金についてお話しさせていただきます。
通常国会が閉会し、「政府管掌年金事業等の運営の改善のための国民年金法等の一部を改正する法律」いわゆる「年金事業改善法」が平成26年6月11日に公布されました。国民年金の保険料の納付猶予制度の改正等私たちにとって非常に関心の高い改正内容がありますので、概略についてすこし説明させていただきます。

 

学生納付特例事務法人制度の見直し(平成26年10月~施行)

厚生労働大臣から指定を受けた大学等(大学学生納付特例法人等という)は、在籍する学生から国民年金の保険料の納付猶予の申請の委託を受けることができますが、平成26年10月からは、当該申請日を「大学等が厚生労働大臣に当該申請を提出した日」から「大学等が学生から納付猶予の申請を受託した日」に見直されます。

 

滞納した保険料に係わる延滞金の利率の軽減について(平成27年1月~施行)

国民年金保険料等を納付期限までに納付しない場合、日本年金機構から督促状が送付されます。その納期限までに納付できない場合、滞納した保険料について延滞金が課されます。
その延滞金の利率の取扱いについて、現下の低金利の状況を考慮し、現状の延滞税の利率設定を参考にし、平成27年1月以降については軽減措置をとることとされました。

延滞金14.6%(納期限から3ケ月以内4.3%)→平成26年:年9.2%(納期限から3ケ月以内2.9%)
※各年の租税特別措置法93条2項に規定する特例基準割合が年7.3%の割合に満たない場合には、その年中においては当該基準割合に年7.3%の割合を加算した割合とし、年7.3%の割合については当該特例基準割合に年1%の割合を加算した割合(当該加算した割合が年7.3%を超える場合には、年7.3%の割合)とすることとした。

 

 

保険料の納付機会の拡大(平成27年10月~施行)

国民年金の保険料は2年前までしか遡って納付できません(免除期間や納付猶予した期間は10年前までの遡及払いは可能)。それでは、現在無年金の方を救済することができないということで、平成24年から国民年金の保険料を10年前まで遡って納付することができるという後納制度が実施されています。この後納制度については、あくまで3年間の時限措置として実施されていて、平成27年9月で終了する予定です。後納制度を使い、無年金者の多くの方が過去の未納期間の保険料を納付することによって、年金受給に結びつけることができましたが、まだ、多くの無年金者の方がいる現状を考慮して、平成27年10月からは、現行後納制度に代わり、過去5年間の保険料を納付することができる制度が創設されます。ただし、この制度も平成30年9月までの時限措置として実施されます。

 

納付猶予制度の対象者の拡大(平成28年7月~施行)

現在、30歳未満で本人並びに配偶者の所得が一定以下であることを条件にして、国民年金の保険料を猶予する若年者猶予制度が平成37年6月までの時限措置として実施されています。
納付猶予が認められた期間については、老齢基礎年金の年金額には反映されませんが、受給資格期間として算入することができます。また、もしこの期間に怪我や病気にかかり障害者になった場合でも、一定の障害の程度以上であると認められれば、障害年金を受給することができます。
この猶予期間の年齢制限が、平成28年7月~50歳未満に引き上げられます。若年者に限らず、全年齢層において非正規雇用労働者が増加している状況を踏まえ、納付猶予制度の対象年齢が引き上げられました。

 

事務処理誤り等に関する特別保険料納付等の制度創設(公布日から2年以内で政令で定める日から施行)

事後的に事務処理誤り等の事由が明らかになり、それにより国民年金保険料の納付の機会を逸失したと認められる場合等について、年金受給権を得る途を開く観点から、事後的に特別保険料の納付を可能とする制度を創設することとされました。
≪対象となる事例≫
 ・誤った説明を受けたなど事務処理誤り等の事由により、保険料を納付できなかった。
 ・誤った説明を受けたなど事務処理誤り等の事由により、付加保険料を納付できなかった。
 ・誤った説明を受けたなど事務処理誤り等の事由により、保険料の追納ができなかった。
 ・誤った説明を受けたなど事務処理誤り等の事由により、保険料の免除申請ができなかった。

 

受給資格期間の短縮について

今回の改正も無年金者の救済を目的としています。現在の制度では、年金を受給する為には最低でも25年という受給資格期間を満たす必要があります。国はこの25年の資格期間が諸外国と比べて長いのではないかという議論に応え、平成24年8月に成立した「年金機能強化法」で、平成27年10月から10年に短縮することを決めました。ただし、10年で受給資格を付与すれば、それだけ年金給付に対応する為の財源が必要になりますので、実施は消費税10%引き上げ実施を前提条件にしています。確かに、米国では10年、ドイツは5年、英国やフランスでは受給資格期間すら設けられていません。
10年年金が実施されれば、確かに無年金者の減少を図ることはできます。ただし、あくまで納付した分の保険料に応じた年金を受給できるだけであって、満額の年金が受給できるわけではありません。結果的に低額の年金受給者を増やすだけになります。現在でも無年金者の方が生活に困窮すれば、結果的に生活保護で救済することになりますが、低額の年金受給者の方が増えても、一定の生活保護費は支給せざるを得ないでしょう。また、逆に10年で受給資格付与されることになれば、納付する意欲がそがれることにもなりかねないのではないかとも思います。
そもそも、25年という資格期間を定めたのは、昭和61年の基礎年金導入時からですが、当時の年金局長も「25年という受給資格期間を定めることに必ずしも長期間であるとはいえないのではないか。」とその著書でも述べています。
また、現行法であっても、昭和61年3月までの主婦の期間(厚生年金被保険者や年金受給者の被扶養配偶者だった期間)や20歳前の大学生だった期間等(平成3年3月まで)等については、合算対象期間(カラ期間)として、資格期間の25年に算入することによって、受給資格期間を満たせる仕組みになっています。

 

国民年金及び厚生年金に係わる財政の現況

平成26年6月3日に厚生労働省より、平成26年の財政検証結果が公表されました。今回の財政検証では、実質経済成長率、物価上昇率、実質賃金上昇率、実質運用利回りについて、8通りの前提を設定し、ケースAからHの結果が公表されました。
※詳細については本HPの原先生のコラムでも詳細に説明いただいていますので、ぜひご覧ください。
その結果、もっとも高成長のケースでは、現役平均賃金に対する所得代替率は50.9%となりますが、もっとも低成長のケースでは、平成48年度で50.0%となり、平成67年度では39.0%まで低下するという結果でした。
※所得代替率=年金受給者となった時の年金受給額÷年金受給者となった人が現役時代に支払った保険料

ちなみに、中間的なケースでは、現役平均賃金に対する所得代替率で50.6%が維持されるという結果でした。
平成16年の年金改正では、保険料を一定額まで引き上げたうえで固定し、同時にマクロ経済スライドを導入することにより、今後の年金給付については、現役時代の所得代替率50%を維持することができ、100年安心できる制度改正ができたと当時の与党だった自公政権は力説しましたが、現実的には厳しい予測をすれば、現役所得代替率50%の年金給付の維持はおろか、現在ある積立金もいずれ枯渇するという厳しい状況結果の可能性もありえます。
それに呼応したのかはわかりませんが、田村厚生労働大臣が、厚生年金の支給開始年齢が75歳からという選択もあるのではと発言し話題になりました。
現行の法律でも65歳から受給する老齢厚生年金を70歳まで繰り下げて受給することは可能です。5年繰り下げをすれば、年金額は142%に増額されますが、それだけ年金受給の期間が短縮されることになります。日本の男性の平均寿命は現在79.4歳ですので、70歳から厚生年金を受給するのは4年から5年になります。確かに増額した年金を受給できますが、総受け取り額で考えるとどうかという問題になります。実際、繰り下げ受給を選択する方は少なく、逆に年金相談の現場では60歳以降に繰り上げ請求の検討をする方が多いのが実情です。
諸外国に比べても日本の65歳支給開始(基礎年金)は比較的早い方です。国は現在65歳までに段階的に引き上げられている厚生年金の支給開始の一層の引き上げを検討していましたが、今後の検討事項としました。今後の消費税導入時期や年金の財政状況によっては、再度支給開始年齢の引き上げ等も検討事項として議論される可能性はあります。みなさんも今後の動向に注意していきたいものです。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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