年金コラム

2014.07.16

「年金WEB相談室」(6)公的年金の定期健康診断<年金の健康診断の結果が発表されました>

私たちは、健康を維持する対策の一つとして、定期的に健康診断を受けます。検査結果によっては、食生活の改善や減量の指導、運動やウォーキング、禁酒や禁煙を医師から勧められることもあります。まだ、病気とは言えないけれど、このまま行くと発病するのは時間の問題だという場合、私たちは積極的に改善に向けて努力を始めます。「◯ キロ体重を落とせば、血圧も血液検査の数値も正常値の範囲になりますよ」と励まされると、飲み会の後のラーメンも、フレッシュな生クリームで包まれたシフォンケーキも我慢ができますね。だって、おいしいものは食べたいけれど、健康な体があればこそですものね。 

実は、公的年金についても定期健康診断があります。これを「財政検証」と言います。 国民の間には、「このままで公的年金の財政は、大丈夫なのか?」「若い世代の年金はどうなるのか?本当に受け取ることができるのか?」「受給者の年金の水準は、どうなっていくのか?」とさまざまな不安や疑問があります。それらの答えや問題を解決する鍵が、検証結果から見えてきます。

今回は、この検診結果についてご紹介しましょう。

【質問1】
公的年金の「財政検証」とはどのようなものですか?

【回答1】
「財政検証」とは、公的年金の健康診断のようなものです。法律で定められていて、少なくとも5年ごとに、今後100年間の財政見通しを作成し、年金財政の健全性を検証することになっています。今年が財政検証の年となっていて、6月3日に結果が発表されました。

 

【質問2】
財政検証の結果はどのようなものだったのですか?

【回答2】
今回、A~Hの8つのケースで検証をしました。結果は、次の通りです。

ざっくり説明をすると、下記の前提条件を実現することができれば、2004年の改正時に政府が国民に約束した、「モデル家庭に支給する年金の水準は、男性の手取りの平均賃金の50%以上を維持する」という約束を守ることができるということです。
①経済が大きく上向き、かつそれが持続する
②女性と高齢者がどんどん就労して2030年まで6000万人前後の労働人口を維持する(=労働市場への参加が進むケース)
③年金積立金が高い利回りで運用し続けられる

しかし、前提条件として掲げられているすべてのことを実現し続けることができるかどうかについては、大変高いハードルがあると言わざるを得ません。例えば、最悪の想定のケースHでは、女性の就労が進まないまま、経済も低迷した場合、40年後の所得代替率は、39%になってしまいます。

つまり、今回の検証結果から、「今すぐに公的年金が破たんするという状況にはないが、制度を維持していくために、積極的にあらゆる手段を検討し、有効なものは実施していかなければならない」ということが見えてきます。

 

【質問3】
「所得代替率」という言葉が出てきましたが、これはどういう意味ですか?

【回答3】

所得代替率とは、男性の平均手取り収入に対するモデル世帯【注1】に支払われる年金額の割合を言い、年金の支給水準を表わしています。
財政検証の結果も、この所得代替率を中心に見ていきます。
現在は62.7%(一元化モデル【注2】)。従来のケースでは64.1%となっています。

【注1】モデル世帯とは、夫が40年間厚生年金に加入して働き、妻が40年間国民年金に加入した世帯で、夫婦が受給する年金は、「夫の老齢厚生年金+夫の老齢基礎年金+妻の老齢基礎年金」になります。
【注2】厚生年金と共済年金の一元化により、比較的給料の高い共済組合員が厚生年金の被保険者となります。そのため、現役男性の手取り収入額が、1万3,000円程度上昇する見込みです。このため、モデル世帯の所得代替率が、従来と比較すると見かけ上低下します。

【質問4】
経済の動向によって、年金の将来も大きく変わるようですが、もう少し具体的に将来の年金生活がどのようになるのかを教えてください。現在私は30歳で本当に年金が受け取れるのかどうか不安です。

【回答4】

あなたは現在30歳とのことですが、あなたが65歳になって年金を受給するときの年金水準について、具体的に見てみましょう。

今回の試算は、経済成長を軸に経済が最も高成長するケースAから低迷するケースHまで8つのコースが設定してあります。財政検証では、100年先までの見通しを立てるため、社会・経済状況について一定の前提を置かねばなりませんが、何しろ遠い将来のことですので、いろいろなことが不確実なものであるため、複数のケースでの検証を行っています。そのため「結果の解釈に当たっては、複数のケースを参照し、相当の幅を持ってみる必要がある」と厚生労働省は示しています。

そこでここでは、現実的に考えて、経済成長等についてこれならありうると思える「ケースE」と最悪のシナリオの「ケースH」をピックアップしてご紹介します。

このケースは前回の(2009年)財政検証の基本ケースに近いものです。
現在の所得代替率は、62.7%ですが、マクロ経済スライドによる調整が終了する約30年後(平成55年)は、12.1%低下し、50.6%になります。これは、年金額が現在の約2割減になるということです。

現役男性の手取り収入を現在と30年後で比較すると、1.39倍に増えています。一方年金は、1.12倍にしか伸びていません。これは、年金額が賃金や物価が上がるのと同率で上がって行く仕組みであったところが、少子化のための保険料収入の減少(支え手が減るため)と長寿化のための給付額の増大(年金受給期間が長くなる)をマイナス要因として給付に反映させる仕組み(マクロ経済スライド)を発動させるためです。このマイナス分を毎年0.9%として調整していきますが、物価・賃金の伸びが0.9%より低い場合、現行ではこの制度による調整を行わないことになっていました。そのため、過去のデフレ期に給付の調整ができませんでした。

今回の財政検証では、デフレ下でもマクロ経済スライドによる調整を行うこととした場合の結果がオプション試算として発表されています。それによるとケースEでは、所得代替率が+0.8%と上昇しています。(図1参照)


これは、最悪のシナリオともいうべきケースです。
経済はマイナス成長、女性も高齢者も就労数が増えず、運用もままならない…
最終的には2055年度には、国民年金の積立金を使い果たし、完全な賦課方式に移る。 
その後、保険料と国庫負担で賄うことのできる給付水準は、所得代替率35%~37%程度となります。

ところで、積立金が枯渇することは、年金財政が破たんするということとイコールではありません。基礎年金の給付は、保険料と国庫負担(現在、基礎年金の給付の1/2) 、そして足りない分を積立金で補っています。給付するための費用が足りなくなったからと言って、積立金をすべて取り崩してしまうことはありません。

というのは、法律で次のように定められているからです。
『5年ごとの財政検証の結果、次の財政検証までに所得代替率が50%を下回ると見込まれる場合には、「給付水準調整の終了、その他の措置を講ずる」とともに、「給付及び負担の在り方について検討を行い、所要の措置を講ずる」』

つまり、国が約束した所得代替率50%が守れない可能性が生じた時点で、何らかの対策を行い、50%以上が維持できるようにしていくということです。例えば、オプション試算として取り上げられた下記のような内容は、今後の年金制度改正に取り入れられる可能性があると考えられます。
①マクロ経済スライドの仕組み見直し
 物価・賃金の伸びが低い場合でもマクロ経済スライドによる調整がフルに発動される仕組みとする
②厚生年金の適用を更に拡大させる
 2通りの適用拡大を試算
 ・賃金収入が月5.8万円以上ある、所定労働時間週20時間以上の短時間労働者(220万人)
 ・賃金収入が月5.8万円以上ある、すべての人(1,200万人)
③老齢基礎年金の拠出期間の延長と受給開始年齢の選択制
 ・基礎年金の保険料納付期間を40年(20歳以上60歳未満)から45年(20歳以上65歳未満)に延ばし基礎年金が増額する仕組みにする。 
 ・65歳以上の在職老齢年金を廃止

【質問6】
財政検証の前提条件の中に「労働市場への参加が進むケース」「進まないケース」とありますが、これはどういうことでしょうか?

【回答6】

労働市場とはどのような市場なのか?何を売っているのだろうかと思う言葉ですね。これは簡単に言うと「働く場」ということです。少子化の影響で人口が減れば、働く人の数も自ずと減ってきます。2006年の労働力率と同水準で推移した場合、2006年の労働力人口と比較して、2030年で約1,070万人減少することが見込まれています。労働力人口の減少は、経済成長の大きな制約要因となることが懸念されています。労働市場への参加を進めるために、特に高齢者と女性の就労率を上げることは、喫緊の課題であるといえます。働いていない専業主婦を労働市場に参加させるためには、103万円・130万円の壁の見直しも必要です。定年退職をした方々に再度働いてもらうには、在職老齢年金の制度を見直すことも必要です。

具体的に「労働市場への参加が進むケース」とは、男性では25歳から60歳未満の人はもとより、60歳から65歳未満の間も9割以上の人が働いている、またその後も70歳まで働く人が66.7%いるという状況です。
現在男性の健康寿命の平均値は、70.42歳です。だとすれば、70歳まで働く男性は一生働き続けて、自分のしたかったことや夢を果たそうとするときにはすでに、医療や介護なくしては過ごせない状態になっているというのが平均的な姿となるということなのでしょうか?それではあまりに悲しいですね。高齢者には高齢者の体力や要望にあった働き方が用意されるべきでしょう。

また、女性は25歳から55歳未満までの人のうち、8割以上が働いている状況が「労働市場への参加が進む」ということに該当します。
女性の労働力率は、結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇するという、いわゆるM字カーブを描くことが知られています。M字の谷が、完全に埋まるということは、子を出産しても、育児をしながら働き続ける人がほとんどであるという状況を想定しているに他なりません。そのためには出産・育児に関する国の手厚い施策が求められます。待機児童、保育所・保育士不足など、早急に手を打たなければならない問題が山積しています。
「労働市場への参加が進むケース」が実現するためには、高齢者と女性の就労が進み、2030年まで6000万人前後の労働人口を維持するという非常に高めの前提をクリアしなければなりません。



社会保険労務士
原令子
株式会社JEサポート代表取締役
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