税金・保険コラム

2018.07.24

生命保険を活用した相続対策

生命保険に加入する目的、つまり誰に何のために保険金を残すのかは、ライフステージによって変わってきます。ここで、20代では、30代では、といった年齢表現を使わないのは、ライフイベントの起きる年齢には、人によりばらつきがあるからです。

ライフイベントというのは、誕生、就学、卒業、就職、結婚、出産といった、人生における節目となる出来事のことで、ライフステージというのは、ライフイベントや年齢の進行によって変化していく、生活の段階のことを指します。いろいろな出来事を、階段をのぼりながら経験していく感じです。

個人として生命保険に加入した場合、保険金を残す相手は、非常にざっくりと言って、次のように変化していくでしょう。社会人になって親に、既婚者になって配偶者に、子どもが生まれて配偶者にプラスして子どもにと。

そして、社会人として働きながら子どもを育て、保育園探しから、夜泣き、予防接種、PTA、運動部の付き添い、受験とてんやわんやの日々もやがて終わりを迎えます。 子ども達は独立しました。夫婦には公的年金や企業年金の当てがあり、さらに幾ばくかの預貯金があります。さあ、もう家族への責任は果たしました。後は自分の余生をいかに充実させるかだけを考えていれば良いのでしょうか?

いいえ、実は、次に考えておかなければならないのは、相続対策です。

相続税対策よりも重要なこと

相続というと、すぐ相続税のことに思い至る方が多いかと思います。そして、多くの方が、「うちなどは普通のサラリーマン家庭だもの。財産と言える物は家くらいしか無いから、相続税のことなんて関係無いよ。」とおっしゃるのではないでしょうか。

確かに、統計で見ると、平成28年(2016年)中に亡くなった方は約131万人で、このうち、相続税を課税されることになった方(死亡者)は約10万6千人でした。割合で言うと、死者100人のうち8.1人ということになります。(国税庁ホームページ)

相続税には基礎控除額というものがあり、その計算式は以下の通りです。
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人数)

例) 相続人が、亡くなった人の妻と子ども2人の場合の基礎控除額
= 3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円

つまり、この例だと、遺産が(不動産の評価額も含めて)4,800万円を超えなければ、相続税の課税対象にはなりません。

そこで、多くの方が考えなければならないのは、相続税をどうやって納付するかではなく、遺産をどう分けるかということなのです。

さまざまな相続の事例

筆者の昔の知人女性は、出身地でお父様が亡くなった時、専業主婦のお母様と知人とお兄さん、妹さんが残されました。この時、賃貸住宅に住んでいたお兄さんが、ご自分の妻子と共にご両親の家に転居して、お母様のお世話をずっとみると言われたそうです。知人女性の夫は転勤族でしたし、お母様も長く住んだ土地を離れたがらないので、経済的な援助は出来ても、お母様と同居は出来ませんでした。妹さんも同様です。

残った財産は、預貯金とご両親が住んでいた家とその家が建っている土地だけです。そこで、お母様の生活費を援助する代わりに、お母様とお兄さんの取り分が多くなるように、知人と妹さんは相続放棄をしたそうです。

その後のことは、知人とはもうお付き合いが無いので知らないのですが、お母様が亡くなった時は(二次相続と言います)、知人も妹さんも、相続放棄はしなかったのではないかと想像します。もう、相続放棄をする理由がありませんから。

もし、知人と妹さんが、法定相続通りに子の取り分の1/3ずつの遺産を請求していたとしたら、お兄さんは果たしてすぐに分けることが出来たのでしょうか。家と土地を処分して現金化しなければならなかったのではないでしょうか。気になるところです。

と言いますのは、昔、別の知人女性からこんな話を聞いたからです。その女性は、結婚してから30数年間、夫の両親の家で夫の両親と仲良く同居してきました。この方の場合は、お姑さんが先に亡くなり、数年後にお舅さんが亡くなりました。その時、両親と同居したことの無かった夫の弟さんが、遺産を法定通り子の取り分の1/2欲しいと言ってきたのだそうです。しかし、遺産は、ほとんど全てが家とその家が建っている土地だけでした。

このお宅は地方都市とはいうものの、駅から徒歩5分という交通至便な場所にありましたので、相続税もかかったようです。

彼女の夫は両親の残した家と土地を売り払い、現金に換えて相続税を納め、また、弟に取り分を渡したとのことでした。私が話を聞いたときは引っ越す直前でしたが、彼女は、お舅さんが大事に世話してきた植木や花々を、お舅さんが使っていた古い園芸書を見ながら一生懸命手入れをしていました。義父のようには上手く出来ないと言いながら。

しかし、養子になっていない、いわゆるお嫁さんだった彼女には、何も相続権がありません。義理の親を亡くしただけではなく、30数年間も過ごした家も失ったのでした。

生命保険の活用

筆者は、こういう話を聞くと、生命保険をうまく活用できれば良かったのにと思うのです。
といいますのは、生命保険から支払われる死亡保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象とはなりますが、相続税の基礎控除額とは別に「死亡保険金の非課税」という税法上の特典があるからです。

このお宅の場合は法定相続人が兄弟2人なので、死亡保険金の非課税枠は、500万円×2人で1,000万円です。基礎控除額は4,200万円です。つまり、課税遺産総額(相続税法上の用語)が5,200万円以下だったら、相続税はかかりません。

しかし、同じ5,200万円でも死亡保険金無しの場合は相続税がかかります。遺産を2人で等分すると、相続税の税額速算表によると、各人が50万円納税することになります。

それに、死亡保険金は遺産分割協議の対象になりません。逆に、たとえば銀行預金は遺産分割協議の対象とされているので、遺産分割協議書を銀行に提出しないと、亡くなった方の口座からお金を下ろすことが出来ません。葬儀屋さんへの支払にも、遺族の生活費にも不自由するかもしれません。

また、遺産分割協議書には、法定相続人全員の署名捺印が必要です。法定相続人が全員近くに住んでいるとは限りません。外国に居住していたりしたら、遺産分割協議書を郵送で回覧するのにもかなり時間がかかります。もし、遺産の分割の仕方で意見が合わなかったりしたら、さらに時間がかかります。

しかし、死亡保険金は遺産分割協議の対象ではないので、生命保険会社は、請求すればすぐに支払ってくれるのです。それで、相続税の資金繰りに当てることが出来ます。相続税の納付は、原則、全額を1度に申告期限(被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内)までに行うことになっています。

「資金繰りとは大げさな。10ヶ月もあれば十分ではないか」とお感じになるかも知れません。しかし、実際は、葬儀関連のバタバタが済むと虚脱してしまい、テキパキとドライに遺産分割協議をする気力が無くなることもよくあることなのです。手続を進めるということは、亡くなった人がもういないということを、理屈ではなく感情で認めることだからです。

ちなみに、納付期限までに一括納付することが困難な場合には、物納制度と延納という救済策があります。しかし、遺族が好きに選べるものではなく、一定の要件を満たした上で税務署の許可を得る必要があります。また、延納が許可されても、延納利子税というものがかかってきます。(納付が遅れてしまった場合の延滞税とは別のものです)銀行の定期預金利率が1%に届かない時代に、年利最高6%ですから、延納は避けたいところです。

(生命保険は、契約者(保険料を払う人)、被保険者(その人の死亡によって生命保険金が支払われる人)、受取人(生命保険金を受け取る人)の三者がどう組み合わさるかによって、かかる税金の種類が変わってきます(所得税(+住民税)、贈与税、相続税)。ここでお話ししているのは、相続税が関わってくる、契約者=被保険者、受取人=法定相続人の場合です。)

お舅さんが、不動産の評価額を調べ、死亡保険金の額をうまく設定していれば、たとえ課税されたとしても、家と土地を手放さなくても死亡保険金で納税できたかも知れません。

さらに、遺言が無くても、弟さんに不動産の代わりに現金で遺産を分けることができたかもしれません。初めから弟さんの遺産の取り分に相当する金額を死亡保険金とし、受取人を弟さんに指定しておくこともできたのですから。

今、全国で空き家問題が発生しています。相続したものの、買い手が見つからなくて売却できず、相続人にも活用の道が無い不動産が、空き家として取り残されているのです。家を更地にするにしても、中の家財道具の処分が必要になります。

筆者のご近所さんの1人は、亡くなったご両親の家を処分するために、何時間も車を走らせて、何度も通いました。家財道具を処分するだけでも半年かかったそうです。それでも、「近県なので車で行けて良かった。」と言っていました。これが、新幹線でも利用しないと行けない距離だったら、金銭的にも時間的にももっと大変だったでしょう。

家財の処分にも、このようにお金がかかります。ある年齢になったら、このような視点からも生命保険を考えてみてはいかがでしょうか。

しかし、忘れてはいけない大事なことがあります。それは、生命保険に加入するには、健康状態が問題になるということです。保険料が高くなることもあれば、そもそも加入できないという場合だってあるかもしれません。

人間、誰しも年を取るにつれて、健康状態が悪化する可能性が高まります。ということは、もちろん個人差はありますが、早めの対応が良いということです。

最後にもう一つ、家財の片付けの話をしましたが、だからといって、生きているうちから、減らすためだけに、むやみに持ち物を処分していくべきだとは筆者は考えません。物は記憶を呼び返すからです。筆者は、今使う物、持っていて楽しい物(楽しい思い出を呼びだしてくれるもの)に持ち物を絞っていくという考え方が良いのではないかと思います。

また、人それぞれでしょうが、死者の残した物の片付けもまた、残された人の喪の仕事(愛する人の死を心が受け入れること)の一環だと、筆者は経験から思っているからです。
 

※参考までに、相続税は以下の順番で計算されます。

(1) 課税価格を計算します
遺産の総額(相続財産+死亡保険金)
-債務控除(住宅ローンなど)-葬式費用-死亡保険金の非課税枠=課税価格

*死亡保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の数

(2) 課税遺産総額を計算します
課税価格-基礎控除額=課税遺産総額

*基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

(3) 相続税の総額を計算します
①法定相続通りに分割したとして、仮の取得金額を計算する
②仮の取得金額にもとづき、各人の相続税を税額速算表に基づいて計算し、合計額を出す

(4) 各人が納付すべき相続税額を計算する
 相続税の総額×各人が相続した割合
 

社会保険労務士
小野 路子
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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