税金・保険コラム

2008.10.15

健康保険の基礎知識 健康保険と海外旅行傷害保険(2)海外出張

皆さん、こんにちは。今回は、会社に勤務している人が海外出張を命じられ、出張中に病気や怪我(以下、「傷病」といいます。)をしたり、その傷病が原因で、障害状態となったり、死亡した場合、どの保険の対象になるのかをテーマにお話します。
海外出張の場合は、労災保険が関わってくる訳ですが、前回(8月20日掲載分)の続きとして載せることといたします。

まず、海外出張の目的は、会社の業務を行うためなのですから、どの保険の対象になるのかを見極める際、現地で罹った傷病等が仕事に起因するものなのか、それとも私的事由によるものかを判断する必要があります。海外出張中に何か起きたときは、会社に状況を説明し、どうすればよいのか相談しましょう。
なお、どの保険の対象になるのか、目安として以下のようになります。

労災保険を使う場合

以下、海外出張扱いで、現地で業務を遂行しているとき、及び、これらの業務に起因する飲食等によって傷病に罹ったとき。(伝染病や風土病は労災の対象外です。)

  1. 商談
  2. 技術、仕様等の打ち合わせ
  3. 市場調査・会議・視察・見学
  4. アフターサービス
  5. 現地での突発的なトラブル対処
  6. 技術習得のために海外に赴く場合

※海外社員旅行に業務の一環として研修を兼ねる場合、全員参加が義務付けられていて、費用を全額会社が負担し、この間の賃金も支給されているなど、事業主の支配下にあると認められる場合のみ、労災保険の対象になりえます。
しかし、訪問先が業務と全く関連性のない観光地ばかりであったり、参加割合が全員参加と言えないようなものは、単なる社員旅行と解され労災保険の対象にはなりません。

健康保険を使う場合

前回(8月20日掲載分)の内容に準じ、業務から離れた私的行為中に傷病に罹ったとき。特に、以下は海外旅行傷害保険でもカバーされない為、健康保険を使います。

  1. 歯科治療
  2. 持病の治療
  3. 妊娠や出産、早産、流産、腰痛、むち打ち症
  4. 危険性が高いスポーツ(危険な運動)が原因での傷病

海外旅行傷害保険を使う場合

労災保険や健康保険の対象外となる場合や、労災保険や健康保険を使えるとしても、現地で治療費等の支払いが困難なとき。また、海外出張者の身体に関わるものでないものなど(現地で重病に罹り家族を呼び寄せる費用や携行品の盗難の補償等)。

なお、会社が海外出張者に海外旅行傷害保険を掛けるかどうかは、任意です。会社が海外出張旅費規程で海外旅行傷害保険に加入すると定めていたり、補償額を決めていて労災保険でカバーされない部分があれば、会社が保険をかける必要があります。
会社で海外旅行傷害保険を掛けていない場合は、万が一のため、出張者本人が出張に出る前に自分で海外旅行傷害保険を掛けておきましょう。

海外へ転勤・出向する場合

ここまで海外出張の場合について述べて参りましたが、海外出張と似て非なるものに、海外派遣(海外赴任)があります。
以下は労災保険での分類ですが、会社の転勤・出向命令等により海外の事業場に所属し勤務する場合は、海外出張扱いではなく、「海外派遣」となります。

  1. 海外関連会社へ出向する場合(現地法人、合弁会社、提携先企業等)
  2. 海外支店、工場、営業所等へ転勤する場合
  3. 海外で行う据付工事・建設工事(有期事業)の統括責任者、工事監督者、一般作業員等として派遣される場合

各国の社会保障制度は基本的に属地主義をとっており、「海外派遣」の場合は、現地国の災害補償制度の対象となるため、海外出張中と異なり日本の労災保険の対象となりません。
しかし、外国の制度は、国によって対象となる範囲や給付内容が不十分なことがあります。「海外派遣」される人を日本の労災保険の対象とさせるには、会社において「海外派遣者の特別加入」の申請を所轄の労働基準監督署へ行い、都道府県労働局長の承認を受ける必要があります。
海外出張か海外派遣なのか、迷うような場合は、所轄の労働基準監督署に問い合わせてください。
また、健康保険については、海外へ転勤・出向する場合、現地国で強制加入となっていれば、現地の制度に加入し給付を受けることができます。この場合、基本的に日本の健康保険とダブルで加入することになります。介護保険は、日本に居住している人が対象なので、住民票を海外へ移している間は、加入している保険者への手続きを行い抜けることになります。

厚生年金については、年金加入期間を通算できる「社会保障協定」が結ばれている国へ赴任する場合は、原則、現地国の制度にのみ加入することになりますが、海外派遣予定期間が5年以下であれば、日本でのみ加入すればよいことになっています。社会保障協定が結ばれていない国へ赴任する場合は、現地国の年金制度と日本、両国で二重に加入することになります。
なお、各国の協定内容は、様々ですので、詳細は、社会保険庁にご確認ください。

おしまいに、海外出張中や海外派遣されている間、あるいは社員旅行で不幸な出来事に遭遇してしまった場合、身内の人はとかく業務の一環で現地に行っていたではないかという理由で労災の対象と考えがちです。しかし、「業務遂行性」および「業務起因性」がないと、基本的に労災保険の対象ではないと監督署は判断します。
その認定をめぐっては、しばしば争われるケースがありますが、個々のケースにより労災扱いになるかどうかはわかりません。やはり、会社としてはもちろん、本人も最低限での海外旅行傷害保険には入っておくことをおすすめします。

社会保険労務士
木村 晃子
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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