税金・保険コラム

2017.06.28

隠れている前提の話

梅雨入り宣言がありましたが、筆者が梅雨入りを実感するのは、ご近所のアジサイの花が小雨にそぼ濡れながら咲いているのを見るときです。

アジサイの花

アジサイは、同じ品種でも、植わっている場所によって色が変わることが知られています。土のPH、どのくらい酸性かアルカリ性かの度合いに花色が左右されるのです。

昔見た日本のミステリードラマで、群れ咲くアジサイの花の色が1箇所だけ変わっていることから、その下に死体が埋まっているのを見抜くという話がありました。最近見たアメリカの刑事ドラマでもまったく同じことを言っていて、洋の東西を問わず、同じことに人は惹きつけられるものなのだなと興味深く思いました。

ミステリー小説の感想を読んでいると、「犯人を当てるのに、あまりにも特殊な知識が必要だ。」「作者は、こんなに専門的な知識のある読者がいったいどれだけいると思っているのか。」と貶している感想を見かけます。ミステリー小説を読む楽しみには、もちろん、犯人を当てられるかどうかという作者との知恵比べもありますが、筆者と同じように、むしろ作者に鮮やかに騙されることが楽しみであるという方も多いかと思います。

しかし、それでもやはり、張られた伏線(伏線=この場合は、犯人を当てるヒントを書き込んでおくこと)に気づくのに専門的な知識が必要であるよりも、ふだん見逃されていること、常識や先入観がほんの少しだけひっくり返されることによって、謎がきれいにほどけていくという構造になっている方が、「鮮やか」と感じられ、「面白い!」と思わせるのではないでしょうか。

ふだん見逃されていること、自分には常識過ぎて気づかない前提を、「隠れたる前提」と呼ぶことがあります。生命保険契約にも、隠れたる前提が働いていることに気づかないことがあります。

生命保険の契約時にひそむ隠れたる前提

生命保険は長期間に及ぶ契約です。時には、一生涯に及ぶ契約(終身保険)もありますから、契約者は契約時に数十年に及ぶライフプランを想定せざるを得ません。

契約時には、保険会社の営業マンと一緒にいろいろ検討するでしょう。そして契約が成立した時点では、例えば、遅くとも30代初めには結婚して、その後5、6年以内には子どもがいて…というような、計画を無意識に立てているのではないでしょうか。その後、契約の詳しい内容は、忙しい日々の中でたちまち忘れてしまうことでしょう。

しかし、あれやこれやで結婚の予定が遅れたり、事故に遭ったり病気になったり、転職したり、気がついたら夫婦は別居していて内縁関係の実質的配偶者がいるなど、20代初めにぼんやりと夢想していた未来とはかなり状況が変わってしまっているということもありえます。

公的年金の遺族年金と生命保険の受取人

生命保険の契約をするとき、大概の方が最初に気にされるのは、保険金の金額です。保険金額を決めるとき、保険料のムダを省くために、公的年金の遺族年金でカバーできる分は除くというのが、今どきの常識になっているのではないでしょうか。

次に気になるのは保険料がいくらなのかということで、そのほかの事柄、例えば、いつまで保証されるのかとか、保険料はいつまで支払うのかなどは後になるかと思います。その時、誰を受取人にするかということは、あまり考えずに決めているのではないでしょうか。

独身時代に契約したときは母親とか、結婚した後では配偶者とかということです。

公的年金は実態を重んじるようにできています。そのため、結婚していても、何年も別居していて連絡もない、もちろん生活費も入れないといった場合など、生計同一の条件から外れているとみなされると、遺族年金が戸籍上の配偶者ではなく、内縁関係の実質的配偶者に給付されるということも起こりえるのです。

生命保険は契約書に記載されたままが契約の中身ですから、上記のような場合でも、受取人は戸籍上の配偶者のままです。そのため、配偶者が死亡した場合の生活の補償を、契約時には公的年金の遺族年金と生命保険の死亡保険金で賄うことを見込んでいても、生活の実態によっては遺族年金が受け取れず、実際に支払われる金額が想定していた金額に満たないというケースもありえます。

逆に、離婚や死別の後、再婚したにもかかわらず、保険契約が以前のままになっていると、現在の配偶者に保険金が払われないということも起こりえます。このような事態を避けるために、受取人欄には個人名を書かずに単に配偶者としておくこともありえますが、その理由を契約時の配偶者にどのように説明するのかという問題が残ります。

もうひとつの隠れたる前提

そんな不穏な事例はさておき、女性の方が平均寿命が長く、夫の方が年上の場合が多いことから、自分の方が先に逝くと思い込んでいる男性がほとんどではないでしょうか。それも隠れたる前提のひとつです。

子育て中に妻を亡くしたらとても大変なのは当然ですが、子どもが育ち終わった年代になってから妻を亡くすのも、やはり辛いものです。特に、男性は地域社会に縁が薄く、退職後は人付き合いが少なくなることが多いものです。

おしまいに

以前筆者が主催した心理学勉強会で、「人生の喜びは、やるべきことがあり、行く場所があり、会う人がいることだ」と話す年配の受講者に会ったことがあります。これは、心理学者マズローの唱えた欲求5段階説のうち、高次の3欲求を端的に表した見事なことばだと思います。(自己実現欲求、自己重要感欲求、親和欲求)

生命保険は安心のためのものですし、マズローは、生理的欲求が満たされた後、次に生まれる欲求は安心だと言いました。しかし、安心も人の幸福の一部分にしかなりません。生命保険にまつわる「隠れたる前提」が問題とならないように、また、契約した頃はどんな幸福や人間関係を無意識に前提にしていたのかを振り返り、現在の状況を確認してよりよい形にするためにも、保険証券を定期的に見直されてはいかがでしょうか。
なお、公的年金の遺族年金については、年金についてのコラムをご覧ください。

社会保険労務士
小野 路子
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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