税金・保険コラム

2015.06.17

生活習慣病と保険

5月は各地で平年を上回る気温の高さで、歴史的な暖かさだったようですね。梅雨入り前にあたかも梅雨が明けたかのような日差しの強い日々が続いたかと思えば、いきなり気温が下がる日もあって、体調を崩された方もいらっしゃるのではないでしょうか。
思い起こせば、学生時代は、雨によってその日の体育の授業が屋外か体育館になるかどうかぐらいしか気温や天候について考えなかったような気がします。

勤労世代になると、悪天候の影響で交通機関の乱れが発生することに注意が向き、さらに高齢になると、体力の減退も重なり、天候や季節の変わり目による身体の不調が気がかりです。
加齢による体力の落ち込みを避けるためには、適切な栄養、睡眠、運動が必要であることはもちろんですが、さらに近来は、精神的なストレスが身体に及ぼす影響について研究が進み、今年12月から厚生労働省は事業者に対し、従業員のストレスチェックの実施を義務化したほどです。

しかし、現実には、若いうちから生活習慣病を発症しているケースが報告されています。そのため、遅くとも30歳から、特に自覚症状が無い方ほど年に1回健康診断を受診することが勧められています。

厚生労働省は、日本人の死因の2/3近くが生活習慣病によるとして、「健康21」という健康づくり運動を展開しています。そこでは生活習慣病として「糖尿病」「脳卒中」「心臓病」「脂質異常症」「高血圧」「肥満」の6つを取り上げ、各々について疾病の内容、治療法、検査、予防法等について説明しています。
病気の種類によって、入院治療、退院後の経過や家族の心構えまで解説しています。
生活習慣病の中でも特に恐ろしいのが、多くの合併症を引き起こすにもかかわらず、自覚症状に乏しい糖尿病です。
その症状は、真っ先に手足の末梢神経障害が現れるのですが、最悪失明に至ったり、腎臓の働きが悪くなって人工透析が必要になる場合もあります。現在、人工透析に至る原因の第1位が糖尿病腎症なのです。

厚生労働省が発表している生命表という資料があります。生命表とは、「ある期間における死亡状況(年齢別死亡率)が今後変化しないと仮定したときに、各年齢の者が1年以内に死亡する確率や平均してあと何年生きられるかという期待値などを死亡率や平均余命などの指標(生命関数)によって表した」ものです。
この中に含まれている全国平均の死因別死亡確率という資料によると、「悪性新生物」(ガンのこと)、「心疾患(高血圧を除く)」、「脳血管疾患」の3つが、だいたいの年代で死因全体のほぼ半数を占めます。(ただし90歳は「老衰」が増えるので半数を割ります。)三大疾病と呼ばれる所以です。
不慮の事故や自殺を除いた疾病としては、肺炎は別格として、腎不全、肝疾患、糖尿病、高血圧性疾患、結核が挙げられています。しかし、三大疾病と比較するといずれも一桁小さい数字となっています。

このような状況で、保険の世界では、生命保険の特約として医療保険を付けたり、単独の医療保険が売られています。
保険では三大疾病だけではなく、7大生活習慣病として「悪性新生物」「心疾患」「脳血管疾患」「糖尿病」「高血圧性疾患」「肝疾患」「腎疾患」とすることが多い状況です。

疾病対策として保険を利用する場合、考えておかなければならないことをいくつか挙げておきます。

1.生命保険に付随する特約はもちろんのこと、単体の特定疾病保障保険のほとんどは有期型です。生活習慣病に罹患(りかん)しやすくなる年代に達した頃に保障期間が切れていないか、確認が必要です。

2.単体の特定疾病保障保険等は、死亡保険兼用の保険になっていることが多いのですが、疾病に罹患したことで保険金を受け取ると、契約が終わってしまいます。死亡保障額が足りなくならないか、考えておく必要があります。

3.特定疾病保障保険等は、保障内容をよく調べておく必要があります。ガンについては、ほぼカバーされているようですが、脳血管疾患や心疾患では病気の種類が限定されていることに留意する必要があります。たとえば、心疾患では急性心筋梗塞は保障の対象でも、心不全や狭心症等は対象外となっていることがあります。
私たち医学の素人は、病気が細かく分類されていること自体をよく知りません。約款をよく読まないといけません。

4.支給要件にも気を配る必要があります。
60日ルールというものがあります。それは、たとえば脳卒中や急性心筋梗塞は、罹患したと医師に確定診断を下された日から60日以上、所定状態が継続したと診断されることが、保険金支給の条件となるものです。

この所定状態がどんなものかは、脳卒中ではたとえば「言語障害、運動失調、麻痺等の他覚的な神経学的後遺症」、急性心筋梗塞では「労働の制限を必要とする状態(軽い家事等の軽労働や事務等の座業は出来るが、それ以上の活動では制限を必要とする状態)」等、保険会社が各々約款に規定しています。

ガン以外はかなり重篤な症状に限っている場合が多いので、早期発見で適切な治療が受けられた場合には、保険が役に立たないということも起こりえます。

しかし、一部の保険会社では、治療目的で所定手術を受ければ支給要件を満たすといった緩和措置がとられるようになっています。これについても、契約前に説明を求めるとよいでしょう。

ちなみに、ガンの場合では90日というのも一つの支給要件になります。これは、『責任開始日から3ヶ月または90日を経過した翌日以後に罹患した』と証する医師の診断確定が支給要件になることが多いからです。

ほかに、三大疾病に罹患した場合、以後の保険料が払い込み免除になる特約や、入院一時金特約をつける会社もあります。しかし、上に述べたように、対象が三大疾病の一部に限られていることや支給要件が厳しいこと自体に変わりはありません。

最後に考えておかなければならないことがあります。それは、病気に罹った事による経済的損失です。これまで述べてきた保険は、あくまでも治療の費用を補填するものです。実際には、症状が治まった後も後遺症が残り、それまでの仕事に復帰できない例も多々あります。
会社側の事情はこうなっています。(下グラフ参照)

その結果、退職した人の率は病気の種類によってかなり異なっています。しかし、一般に、このような統計調査に協力するような企業はある程度規模の大きい企業だと思われます。そもそも勤めていた会社に病気休業制度が無かったり、あっても休業期間中は無給という場合も多いでしょう。
(無給であっても、休業中という扱いであれば、健康保険と厚生年金に加入にしたままでいられます。会社が会社負担分の保険料を出してくれることになります。ただし、本人負担分の保険料は、無給であっても本人が負担しなければなりません。)

そうなると、入院に関しての費用は医療保険が利用できるとしても、収入減少に対しては別途考える必要があります。主に損害保険会社が売っている所得保障保険がそれです。
もともと、特定疾病医療保険等は、所得保障と死亡保障(生命保険)の中間的性格があります。しかし、上に述べましたように、虻蜂取らずになる恐れもあります。
稼ぎ頭が死亡した場合のみならず、病気による収入減の場合、公的保険からはどのような保障が得られるのか、また、会社の就業規則に病気休業についてどう規定してあるか、調べることが必要です。

以上、いろいろ述べましたが、基本は可能な限り健康な生活を心がけることが一番の予防策と思われます。仕事のストレスをお酒や過食で紛らわし、その分睡眠不足に陥るなどといった悪循環は避けたいものですね。

社会保険労務士
小野 路子
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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