2010.12.01
所得税が還付される?生命保険に関する税金について
生命保険に関する税金について、今年は大きな変更がありました。きっかけは7月6日に出た「所得税更正処分取消請求事件」の最高裁判所の判決です。
この結果、税金の還付が受けられるかもしれないことになりました。どういう人に関係があるかというと、以下の条件に当てはまる人です。
- 死亡保険金を年金形式で受給している方
- 学資保険の保険契約者が亡くなって、養育年金を受給している方
- 生命保険会社等の個人年金保険を受給している方
いずれも、保険契約等にかかわる保険料等の負担者でない方が対象となります。
これらの年金の受給権が相続税の課税対象となった場合は、実際に相続税や贈与税の納税額が生じなかった方も対象となります。
ポイントは、一時金ではなく、年金形式で保険金を受け取っている方限定の話だという事です。
死亡保険金を受け取ったとき、どういう税金が係わってくるのかについて、簡単に説明したものが以下の表です。この例では夫婦2人に子ども1人の例にしていますが、ポイントは契約者、被保険者、受取人が同一人物なのかそうでないのかということです。従って、夫と妻が逆転していても、表の見方は同じです。
【死亡保険金の場合、保険に係わる3者と税金の関係】
契約者 | 被保険者 | 受取人 | 税金の種類 |
---|---|---|---|
夫 | 夫 | 妻(契約者の相続人) | 相続税(非課税枠有り) |
夫 | 夫 | 契約者の相続人ではない人 | 相続税(非課税枠無し) |
夫 | 妻 | 夫 | 所得税(一時所得) |
夫 | 妻 | 子 | 贈与税 |
※相続人の範囲ということについて、諸外国の中には、とても遠い親戚でも遺産相続の権利があるところもあるようですが、日本では親戚のどこまでが相続人の扱いを受けるかは、法律で決められています(法定相続人と言います)。誰かに贈るという遺言が無く、法定相続人もいない場合は、遺産は国庫に納められます。
最高裁判所で争ったのは、上記表の一番上の妻に当たる女性です。平成14年10月にご主人を亡くされ、ご主人が契約していた生命保険会社から、一時金出ではなく年金として第1回目の生命保険金を受け取りました。生命保険金はみなし相続財産とされますので、この保険金額を含めて相続税の確定申告をしました。翌年2月に行った確定申告にはこの金額を申告済みと考え、所得として申告しませんでした。しかし、税務署に雑所得として申告し直すように指導されたので、平たく言えば税金の二重取りになるとして提訴したものです。最高裁は女性の主張を認め、この判決を受けて税法が変更になりました。
税法の規定により、おなじものに対して相続税と所得税を二重にかけてはならないことになっています。これまで年金型の死亡保険金に対しては、被保険者の死亡時に年金受給権が発生したとしてその権利に対して相続税の対象としました。そして、毎年受け取る年金に対しては、年金受給権に基づいて発生する支分権に基づいて受け取った現金であり、年金受給権とは法的に異なるものであるという理屈で所得税の対象としていました。それが、相続税の対象となった部分については、所得税の対象とはしないことになったのです。
右側の図で、相続税の課税対象部分が階段状になっているのは、相続税の計算をするときは、年金として将来にわたって受け取る金額を現在価値に割り戻しているからです。割り戻すというのは、たとえば、複利で増えた元利合計金額から、元金がいくらだったのかを算出するということです。原則的な考え方として、保険会社は資産を複利運用した利益で年金として払っていくので、元金は受け取った年金全額より小さいとみなすわけです。相続税はこの元金にあたる部分に対して課税されると考えてください。
この裁判の場合、生命保険会社は、年金として保険金を支払うとき、所得税分を源泉徴収しています。今回の裁判ではこの点についても違法であるとして訴えていましたが、この事例では、所得税の課税対象にあてはまるかどうかに関係なく、保険会社は源泉徴収しなければならないということになりました。
つまり、源泉徴収されているかたちで年金を受け取っていらっしゃる方は、還付が受けられるかもしれないのです。ポイントは、この還付については、実際に相続税や贈与税を納めたかどうかには関係ないということです。相続税の対象としてすでに計算されたかどうか(相続時の確定申告時に保険金の事を申告済みか)が問題なのです。
還付手続
所得税が源泉徴収されている方には保険会社から通知が行くはずですが、通知が無くても、保険会社に確認される事をお勧めします。しかし、保険会社では手続きしてくれませんので、還付を受けるには自分で税務署に行って手続しなければなりません。
手続きの期限
確定申告をしていた場合、今回の変更を知った日の翌日から2ヶ月以内に還付手続を行う必要があります。また、国税庁が税金を還付できる期間は、原則として私達が申告書を提出した日から5年間と決められています。そのため、平成17年分については、早い方だと平成22年、今年の12月末が期限となっています。
それ以前の期間について
現在国税庁は平成12年から16年までの各年分の所得税還付について、特別な制度上の措置を検討中です。しかし、17年分については上記「手続きの期限」に記載のとおり、急がないといけません。
相談先
最寄りの税務署、国税庁のホームページをご参考になさってください。税務署では電話相談や窓口相談も行っています。
ご注意!
こういうお金に絡んだ大きな変化があったときは、詐欺事件が起きやすくなります。振り込め詐欺にご注意ください。税務署員が電話で還付の指導をしたり、ましてや銀行の口座番号をATM(現金自動預け払い機)で操作するように指示したりする事は絶対にありません。確実なのは、ご自分かご家族の方が税務署に出向き、直接説明してもらい、説明の内容を自分で紙に書き留める事です。
手順としては、保険会社に電話で問い合わせ、源泉徴収されているかどうか(通知書が来るとしたらいつになるのか等も)の確認を取り、最寄りの税務署に電話して、相談に行ってその場で還付手続きまでするにはどんな書類や印鑑が必要かを尋ね、最後に必要な書類や印鑑一式を持って税務署で手続をされることです。その際、大事な書類を持ち運ぶことや、税務職員の説明が分からないかもしれないといったことに不安がおありなら、ぜひ、ご家族と一緒に行かれる事をお勧めいたします。