税金・保険コラム

2010.09.01

中小企業の経営者にとっての生命保険

今回は生命保険のやや特殊な使い方についてのお話です。

私たちがお金を増やすには、1.まず収入を得る、2.必要なものだけに使って無駄遣いをしない、3.使った残りは、使う予定のお金とは別のところに貯めておく、4.それをタンス預金にしないで運用する、が基本です。
保険料が集まる保険会社も、経費を節約しながら加入者から預かった保険料を貯めているだけでなく、集まった保険料を運用して増やしていきます。保険会社のこの運用能力が高ければ、それだけ保険料を安くすることができ、さらに大勢の加入者を集めやすくなり、保険料が増えれば運用の選択肢が多くなってさらに良い運用ができるという好循環ができます。

というわけで、生命保険会社は銀行や証券会社のようにお金を運用する能力を高めていきました。そうなると、生命保険も本来の使い道から少しそれて、金融商品のような使い道を考える人がでてきました。それは経営者のための事業承継資金として生命保険を利用するという使い方です。

一般的に私たちが生命保険と聞くと思い浮かべるのは、家族の大黒柱に万一のことがあった時の経済的損失に備えるための仕組みです。このとき、なんとなく、この稼ぎ頭がサラリーマンのイメージを持っている場合が多いと思います。 平成18年度の公的年金加入者数によると、サラリーマン・公務員等の雇われている人が3,836万人に対して、自営業者とその20歳以上の家族を合わせても2,123万人ですから、無理もありません。

サラリーマン家庭では、たいがいの場合一番大きい負債は住宅ローンでしょう。住居が持ち家で住宅ローン返済中の世帯では、負債が貯蓄の1.7倍に達し、同時に年収の1.9倍以上になっています(住居の所有関係別貯蓄・負債残高:総務省・平成21年速報)。

金融機関等で住宅ローンを組む時は、もちろん住宅そのものが担保になりますが、ほとんどの場合は同時に団体信用生命保険に加入します。住宅ローンを組んだ人がローン返済中に亡くなった場合、団体信用生命保険が威力を発揮します。ローンは完済され、住宅は遺族のもとに残るでしょう。

「中小企業者」には中小企業基本法という法律に定義があります。業種・従業員規模・資本金規模によって決まってきます。

■中小企業者の定義

製造業・その他の業種 300人以下または資本金3億円以下
卸売業 100人以下または資本金1億円以下
小売業 50人以下または資本金5,000万円以下
サービス業 100人以下または資本金5,000万円以下

もっと小規模な企業の場合は「小規模企業者」と呼ばれ、同じ法律に定義があります。業種と従業員規模の組み合わせによって決まるのです。資本金については問われません。

■小規模企業者の定義

製造業・その他の業種 20人以下
商業・サービス業 5人以下

※商業とは、卸売業、小売業(飲食店含む)を指します。

こういう家庭では、サラリーマン家庭とは異なり、家族の生活費のことだけではなく、会社や従業員のことも考えなければなりません。経営者の場合は、団体信用生命保険のような制度化された保障制度が無いので、自分たちで工夫しなければなりません。

中小企業の経営者が亡くなると、遺族に思い出以外に次のようなものを残すことになります。

  1. 個人としての資産(土地、家、現金・預貯金、有価証券・あるいは借金も)
  2. 会社の土地・建物
  3. 業務に必要な機器や原材料、在庫
  4. ノウハウ、取引先、のれんの信用
  5. 資本金
  6. 運転資金
  7. 借入金

経営者の立場にある人は、6の運転資金、7の借入金の分も家族の生活費分に加えて保険金額に織り込んでおく必要があります。また、個人として生命保険の加入を検討するだけではなく、会社としても考えなければなりません。

中小企業以下の規模だと、会社の資金繰り用に金融機関から資金を借りるとき、社長が個人として保証人になっていることが多く、社長自身の信用が会社の信用そのものである場合が多いものです。経営者には会社から役員退職金(死亡退職金)が払われるべきでしょう。従業員には退職金規程があっても、役員については設定していないというところも多いようです。

しかし、会社の存続にはほかにも以下のようなものが必要です。

  1. 信頼(後継者が少なくとも先代経営者と同等以上の経営手腕を有していること)
  2. 後継者(次の社長)

ここで問題になるのが、社長の家族構成と遺言です。社長が遺言を残さなかった場合、遺族で法定どおりに遺産を分割することになるかもしれません。 しかし、現実には自宅の敷地に会社の建物が建っていたり、ビルの一階が店舗で上階が自宅になっていたりする場合も少なくありません。そうなると、個人としての遺産分割が会社の資産を巻き込んでしまいます。

亡くなった社長に子供がいて、その子が同じ会社で後継者として訓練を受けてきていたならともかく、子供がいても、まったく違う職業を持っていて会社を継ぐつもりが無い場合には、会社の建物が建っている土地も売却して現金の形でもらいたいと思っているかもしれません。後継者となる予定の子供がいても、ほかにも子供がいて、その子たちが遺産を分けて欲しいと言ってきた場合も同様です。

現金ではなく、会社の株式を分けて欲しいと言ってきた場合には、9の後継者にも黄色信号が点ります。株式が分割されてしまうと経営権が侵されることもありうるからです。子供がいなくて後継者をよそから連れてくる場合や従業員の中から後継者を選んだ場合にも同じ問題が起こりかねません。

今の時代は中小企業には特に経営判断にスピードが必要です。そういうときに経営権を巡ってお家騒動のようなことをしていては、8の信頼も失われてしまいかねません。

こういうとき、分割できない遺産の代わりに渡せる現金として、生命保険金が役に立つのです。

しかし、現実にはいつまでも社長職にしがみついて、後継者がいない社長も少なくないようです。生涯現役も結構ですが、もしその理由が役員報酬にあるのなら、この機会に役員報酬規定を見直して適切な役員退職金を設定すべきでしょう。そして、それよりも、家族会議を開いて、社長亡き後、会社をどうしたいと考えているのか、正直な話し合いをするのが先決でしょう。筆者の遠い親戚で、自分で会社を起こした人には一人息子がいましたが、彼は会社を継ぐ気がありませんでした。社長は自分の病気がわかったとき、社員全員の転職先を見つけてから無借金経営だった会社をたたみました。奥様も1年後には同じ病気で亡くなりました。実に見事な幕引きだったと、親族の中で時々話が出ます。

社会保険労務士
小野 路子
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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