税金・保険コラム

2010.03.03

相続と生命保険

2月は天候が安定せず、4月のような陽気かと思えばいきなり雪が降るといった状態でした。しかし、日脚は延びて、確実に春は近づいていますね。
筆者のベランダには小さな梅が咲く鉢があります。元々は野鳥の落とし物から発芽した物です。去年初めて花が咲いて、梅だと分かりました。今年はメジロとヒヨドリが蜜を吸いにやって来ました。収穫を回収しに来たのでしょうか。

ところで、梅は梅干しになってしまえば健康食品の仲間入りですが、未熟な青梅には猛毒があります。筆者が室内で育てているトケイソウにも毒があるかも知れないということは、ついこの間まで全く知りませんでした。

このように、夢にも思わないところに危険が潜んでいることがあります。数年前、筆者の知人は義母に続いて義父を亡くしました。そのせいで30年来住み続けていた家を売り払わなければならなくなったのです。

事情はこういうことです。彼女は結婚以来ずっと夫の両親と同居し、2人の最期を看取りました。彼女の夫には弟が1人いましたが、遠くで暮らしていて、ふだんあまり行き来はありませんでした。しかし、義父が亡くなった後、この義弟が遺産分割請求をしてきたのです。
遺言状はありませんでしたし、遺族である兄弟2人の話し合いで折り合いが付けばどのように分割しても良いのですが、義弟は二等分することを希望しました。
遺産と言っても、わずかな預金を除けば、義父が亡くなるまで暮らしていた戸建て住宅とその土地だけです。しかし、その家には現に彼女夫婦と息子2人が住んでいるのです。
結局、家の代わりに義弟に提供する現金は用意できず、彼女たちは土地と家とを売り払い、その現金を等分して分けることで話が付いたそうです。

こうして、立派な木々と池があり、彼女の義父が何十種類もの花を四季折々に咲かせていた広い庭は彼女の思い出が詰まった家共々更地にされ、コンクリートで塗り固められて上にはこぢんまりとしたアパートが建ちました。毎年見事な花を咲かせていた二抱えもある酔芙蓉(すいふよう)も切り倒され、筆者は種をもらいました。芥子(けし)粒よりも小さい種でしたが、鉢植えで1メートル近くの株立ちとなりました。今年も両手の平いっぱいの大きな花を咲かせてくれることでしょう。
彼女の話では、アパート経営をする中から、月々分割して義弟に遺産の取り分を払うという案も検討したそうですが、子どもの学費が差し迫って必要なので、今すぐに現金が欲しいと義弟に強く主張されたので、売却するしかなかったということでした。

このように、相続税などまったく発生しないようなごく普通の家庭でも、いったん相続が発生すると、予想外の事態が起こることがあります。遺産が不動産しか無い場合、それが誰も住んでいない土地だけならともかく、現に遺族が住んでいる家屋とそれが乗っている土地である場合、彼女のような事態に追いやられてしまうこともあるわけです。

別な知人の話です。彼女のお父さんが亡くなり、実家にはお母さんが残されました。遺産は家と土地だけというのは、先の知人と同じです。彼女とそのお姉さんは結婚して遠くで家庭を構えており、実家近くに住んでいるのは弟一家だけです。
話し合いの結果、弟一家が実家でお母さんと同居することになり、彼女とお姉さんは相続放棄の書類に判を突きました。
お母さんを長年住んだ家から追い出すようなまねはできないし、同居する弟一家がお母さんの面倒を見てくれると言うのなら、その代償として自分たちが相続放棄をするしかないと話していました。今後彼女のお母さんが亡くなった時、先の知人の義弟のように、彼女たち姉妹が弟に対して、家を売って現金を分けてくれと言えるのでしょうか。

こういう事態を避けるために、生命保険を活用することができます。不動産価額と同程度プラスアルファの保険金が下りるような保険に加入しておくのです。期間は終身です。そうすれば、家と土地は現に済んでいる遺族の物に、保険金は他の遺族に残すことができます。
もちろん、多額の預貯金が不動産と同額以上にあるならば、生命保険で相続準備をする必要はありませんが、現金と違って保険金は相続税の計算上有利ですし、保険料も所得税控除の対象になります。

土地の値段がどう変わるかは完全に予測することはできませんし、家は古くなるにつれて評価額が下がりますので、保険金をいくらにしておけば必要十分かは分かりません。しかし、相続がいつ発生するかも誰にも分かりません。ですので、子どもが独立した時点で、以下の保険金を準備しておくとよいでしょう。

民法には相続について決めた部分があります。それによれば、法定相続人の範囲が決まっています。もっとも、遺留分を犯さなければ、遺族で話し合って別な分け方をしてもかまいません。
これに対し、生命保険の受取人を誰に指定するかは、契約者(保険料を払う人)の自由です。また、受取人を複数にして分割割合を指定しておくこともできます。

生命保険金は、相続税の計算上は相続財産として計上されますが、民法においては受取人である相続人の固有の財産と解されていますので、ほかの相続人がその保険金を分けろとは要求できません。ただし、あまりにも不公平であると思われる場合には、保険金も相続財産に加えてから、全体の分け方を考え直すべきだとされています。

法定相続人の考え方では、配偶者は別格です。

【配偶者との組合せによる各相続人の相続分】

つまり、順位の高いグループの中で、亡くなった人により近い人たちにまず権利があり、その権利は原則同じです(だから知人の義弟は兄と同額を主張したわけです)。そして、その人達が既に亡くなっていて次の世代(子や孫)や前の世代(祖父母)がいれば、その人達にと、同グループの中で権利が移動していくのです。これを代襲相続と言います。ただし、相続人が伯父叔母等の第3順位の場合は、代襲相続は1世代(甥や姪)までです。

法定相続人や遺留分ということについては、ポスタルくらぶ「遺言・相続(1)相続人になれる人と法定相続分について(2007.06.07掲載)」や、「遺言・相続(2)遺留分(いりゅうぶん)について(2007.06.14掲載)」をご覧ください。

しかし、別な知人が語ってくれたこんな話もあります。彼は小さい頃お父さんを亡くしました。彼のお母さんは、彼とその弟とを1人では育てきれないと思い、子どものいなかった自分の弟夫婦に養子に出しました。しかし、母親が恋しかった彼は夜中に泣きながら寝間着姿で家に戻ってきてしまい、まだ赤ん坊に近かった弟は亡くなった父親の記憶が無い分、新しい両親になつき、そのままそこの養子になったそうです。
その後結婚した彼は家を建て、母親と同居しながら2人の子どもの父親となりました。彼が家族全員で有給を使ってヨーロッパに観光旅行に行った写真を見せてもらったことがあります。お母さんも一緒に映っていましたが、なかなかきつい性格の方だそうで、奥さんに苦労をかけているのを労いたかったと言っていました。

この旅行の翌年、お母さんが亡くなってお通夜の席で騒ぎが起きました。もうずっと音信の無かった養子に行った弟が弔問に現れ、遺産分割を要求したのです。亡くなったお母さんは定年まで勤め上げたので年金収入がありました。法律上、特別養子でない場合、養子には両方の親から遺産相続を受ける権利もあれば、扶養する義務もあります。
しかし、彼を激怒させたのは、弟が、兄さんの家もヨーロッパ旅行もお母さんの年金から金を出してもらったのだろう、だから自分もその分もらっても良いはずだと言ったことです。実際にはすべて彼の貯金から出ていたのですから。
弟は養子先で大学院まで出してもらい、生みの母親が亡くなった当時、若くしてすでに某大学の助教授でした。それに比して彼は高校をでてすぐ働き始め、学歴コンプレックスがありました。彼に言わせれば、弟は学費をだしてもらった分だけ自分よりはるかに恵まれているのです。それにきつい性格の母親と同居して世話をしてきたのは自分と妻です。「あのお袋と暮らすのがどんなに大変か、女房がどんなに苦労したか、知りもしないで。あいつは何もしなかったのに。」というのが彼の言い分です。しかし、彼の奥さんには相続権はありません。

結局、彼は腹立ちを押さえて弟になにがしかの金を払い、弟とは義絶しました。

さらに別の知人の場合では、思いも寄らないことに、異母兄弟が現れたと言います。しかし、もうこうなると、生命保険のように事前の準備で何とかなるものではありません。

社会保険労務士
小野 路子
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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