税金・保険コラム

2023.01.24

被保険者に代わる保険請求の方法

昨年末は各地で大荒れの天候が続きましたが、皆さまのお住まいの地域は大丈夫でしたでしょうか。天気が悪いと心が沈みがちです。筆者がこの世を去った後、何十年もたった世界では、ウクライナ侵攻の始まった2022年は何かの始まり、もしくは終わりの始まりだったなどと歴史家に言われるのでしょうか。そんなことを考えさせられた冬の嵐でした。

さて、かつて生命保険といえば、被保険者が亡くなった後に支払われる死亡保険金が中心でした。それに、入院給付金(被保険者が病気や事故で入院した場合、その日数に応じて支払われるお金)などの特約がつけられるように、変わっていきました。時代により変わっていく契約者の要望に添うように、生命保険もさまざまな特約・割引などが世に出てきます。

たとえば、喫煙とがんや脳血管障害の発症リスクとの関連に着目した、たばこを吸わない被保険者の保険料を割引する「非喫煙者割引」(ノンスモーカー割引)は、生命保険だけではなく火災保険でも実行されています。消防庁の統計によると総出火原因の第1位はたばことなっていますから当然のように思われます。(2022年10月現在)

公益財団法人生命保険文化センターでは、1965年(昭和40年)から「生命保険に関する全国実態調査」を続けています。最新版は2021年度の速報値では、今後数年間のうちに増やしたい生活保障の第1位は世帯主の老後の生活資金の準備でした(32.4%)。以下、配偶者の老後の生活資金の準備、世帯主が要介護状態となった場合の介護資金の準備、世帯主が万一の場合の資金準備、世帯主が病気やケガのため長期間働くことができなくなった場合の生活資金の準備と続きます。

遺族の生活保障が生命保険加入の主目標だった時代と比べて、老後・介護(医療)・就業不能という、被保険者が生存中に必要な資金の手当てを目的とする人が増えているのが見て取れます。生命保険各社も、契約者の要望に応えて介護(医療)を支援する保険を提供しています。

そこで気になるのが、実際に医療や介護の保険請求が必要になった場合、手続きをどうするのかということです。

同調査によると、生命保険に加入したときは家庭に来る生命保険会社の営業職員経由で手続きをしたという人が一番多く、44.5%となっています。営業職員なら電話一本で連絡がとれるでしょうが、元気なときは何でも無いことと思えることも、体調が悪いときには困難でしょう。発熱したら頭がぼうっとしますし、激しい痛みに耐えているときにも何か考え事をすることは難しいものです。

ほかにも、請求できるがん保険に加入しているのに、医師による判断で本人ではなく家族だけにがんの告知がされた場合、家族が代わって給付金などの請求ができるのかという疑問が浮かびます。

また、もっと困ったことになるのは、認知症保険の場合です。せっかく加入していても、いざ請求が必要になるのは認知症になったときなのです。もちろん早く診断が付けば、症状が悪化する前に手続きすることは可能だと考えられます。しかし実行するのは意外と難しいと耳にします。筆者の親戚にはこんなことがありました。

買い物に行ったスーパーで奇妙なことをするのをみて、まず一緒に生活する配偶者がおかしいと感じます。次に、実家に遊びにきた、すでに独立して世帯を構えている子どもが、会話の様子から親の認知症を疑ったのです。病院で診察を受けるように、配偶者も子どもも勧めたのですが、頑として病院に行こうとしません。子どもが何度も電話してその話をしたのですが、怒ってしまい、子どもの電話に出なくなってしまったと聞きました。

自分では請求できない場合に備えて、生命保険には「指定代理請求制度」というものがあります。

これは、被保険者本人に代わって代理人が請求するというものです。保険契約を結ぶとき同時に、または契約後に契約者が代理人を指定することができます。

ただし、いくつか注意点があります。契約者と被保険者が別人である場合、通常は被保険者の同意が必要となっています。また、利用できる範囲は保険会社によって異なります。なかには利用できない保険会社もありますので、自分が契約している保険会社はどうなのか確認しましょう。

また、指定代理請求制度は保険契約に「特約」として付けることが一般的です。(通常、保険料は不要です。)ただし、この制度が利用できない保険契約もありますので、やはり保険会社に確認することが必要です。

代理人に誰がなれるのかですが、これも生命保険会社によって異なります。一般的には被保険者の配偶者や、直系血族、同居している親族(3親等内)などです。

「血族」とは、法的に血縁関係のある者(養子縁組も含まれます)のことで、直系の場合、自分より前の世代(尊属)ならば、父母、祖父母、曾祖父母などで、自分よりも後の世代(卑属)ならば、子、孫、ひ孫などです。

これに対して「傍系血族」というグループもあります。これは、兄弟姉妹によって枝分かれした血族のことです。例えば自分より前の世代なら父母の兄弟である伯父(父母の兄)・叔父(父母の弟)、父母の姉妹である伯母(父母の姉)・叔母(父母の妹)ですし、祖父母の兄弟姉妹なら大伯父、大叔母などになります。

傍系血族には長子か末子か、本家か分家かは関係がありません。生物学的血統上の相対関係のことなので、いわゆる分家の人から見れば、本家筋の人も自分の傍系血族ということになります。

親等とは、親族間の世代数を数える単位です。直系の場合、前の世代なら例えば父母は1親等、祖父母は2親等です。後の世代なら子どもは1親等、孫は2親等です。配偶者は自分と同列ですので、配偶者の父母も、親等は本人の父母と同じになります。

傍系の場合は、兄弟姉妹で枝分かれする前の先祖まで遡り、そこから下って数えます。例えば、自分の兄弟姉妹は、本人→父母→兄弟姉妹なので2親等です。伯父なら、本人→父母→祖父母→叔父となるので3親等となります。甥姪なら、本人→父母→本人の兄弟姉妹→その子どもとなるので、やはり3親等となります。

保険会社に問い合わせて詳しい説明を受けることが必要ですが、親等に関しては単に3親等内なのではなく、「同居している」と限定しているかどうかも重要なポイントです。なにごとにも細かい定義がありますので、こちらの実態を詳しく話して、解釈のずれが無いようにしましょう。

保険会社の指定代理請求制度が利用できない場合は、国の制度の成年後見制度が利用できる場合があります。

成年後見制度とは、認知症などで判断能力が不十分な場合に、家庭裁判所などによって選任された成年後見人が、本人に代わって財産管理などを行うという、国の制度です。生命保険の各種請求も「など」の中に含まれます。

成年後見制度には2種類あります。一つは認知症になってしまった後に利用する「法定後見制度」で、もう一つは認知症になる前に本人が準備しておく「任意後見制度」です。

法定後見制度を利用するには、家族などが、本人の住んでいる地域を管轄する家庭裁判所に後見開始の審判などを申し立てます。手続きに必要な書類や書き方などは、家庭裁判所に問い合わせて教えてもらいましょう。家庭裁判所は全国に50カ所(北海道の管轄区域が4つに分かれているので都道府県の数より多い)ですが、支部が203カ所、家庭裁判所出張所が77カ所設けられています。

任意後見制度は、成年後見人になってもらうよう依頼した人との間に、任意後見契約を結ぶものです。公証役場で公正証書を作成します。公証役場は、日本公証人連合会が全国各地の公証役場一覧を公開しています。

どんな人が成年後見人に選任されるかですが、契約者の親族以外では法律・福祉の専門家その他の第三者や、福祉関係の公益法人その他の法人が選ばれる場合があります。

申立ててくれる身寄りがない場合はどうなるのかですが、市区町村長には法定後見開始の審判申立ての権利があります。事前に市区町村に相談しておきましょう。最寄りの市区町村の代表番号に電話すれば部署を教えてもらえるでしょう。住所地を管轄する「地域包括支援センター」も相談対象として考慮に入れておくと良いと思います。

筆者の住む地域では、社会福祉協議会が地域包括支援センターとなっていて、成年後見制度も含めて様々な活動をしています。熱心な人たちが運営していて、とても腰が軽いのです。以前自治会が依頼したとき、高齢者のための制度や健康や体操について、筆者の団地の小さな集会所にも隣町から講演しに来てくれました。

行政組織に個人で連絡をとるのは敷居が高いと感じられる方は、地域の町内会や自治会といった団体の役員に話をきいてみるのも一つの手ではないかと思います。

社会保険労務士
小野 路子
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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