2024.08.20
高齢社会に配慮した生命保険会社の取り組み
連日猛暑日が続いていますが、皆さん、お元気でしょうか? 筆者は梅雨明け直前に暑さのせいでちょっと怖い思いをしました。
筆者の所属する自治会では、例年、よそ様の夏祭りに招かれて焼き鳥の模擬店を出しています。(コロナ禍で3年間中止していましたが)
夏祭り当日は天気予報では最高気温35℃(これは日陰での測定ですね)、直射日光にさらされてふらふらしながら会場に着きました。筆者は販売担当だったので、テントの中にいたのですが、風が全く通らず、しかもテントは焼きそばの模擬店と共有でした。つまり、右からは焼き鳥のかまどの熱、左からは焼きそばを炒める鉄板からの熱に挟まれて、立ちっぱなしで注文をとっては、タレ担当に伝えながら会計をしていたのです。
しかもテントの正面は舞台。ハワイアンやスウィングや和太鼓やロックの生演奏が(会場が狭いにもかかわらず)スピーカーで増幅され、大音量で鳴りっぱなしでした。お客さんも販売側も大声を出さないと会話が出来ません。
焼き鳥は1串100円なのでお釣りの計算は簡単なはずでしたが、塩3本たれ4本を2組、ただし袋は6つに分けてなどと注文がごちゃごちゃしてきました。そしてなぜか1,000円札2枚と100円玉1枚を出すという謎の買い方をするお客さんが混じり始めました。そのうちに暗算が得意ではない筆者の頭は1000円札1枚でお釣り800円などという単純な注文でも、不要な計算を始めてしまいました。そしてついに、お客さんの手のひらに並んでいる100円玉の中に50円玉2枚が混じっていたとき、合わせて100円という判断がとっさに出来なかったのを自覚しました。
ここで交代となったので助かったのですが、自分の判断能力に不安を覚えた経験でした。
ちなみに、NHKで7月に放送された『「耳」のトリセツ』という番組によると、雑音の中で聞き取り能力が低下する、軽度難聴が増えているそうです。大きな音に長時間さらされると耳の中の有毛細胞が死んでしまうからだそうです。(現在のところ死んだ有毛細胞は元に戻らない)。難聴を放置すると認知症リスクが2倍以上になるのだとか。
聞こえづらさをきっかけに、人と会話する機会が減り、脳の活性化が鈍ることが原因の一つだと考えられているのだそうです。会話に困難が生まれることで外出の機会が減り、うつ病リスクの上昇、筋力の低下、聞き取ることに集中力を使ってしまうために、瞬間的な記憶力や、疲れやすさに影響すると言っていました。
そう言えば、注文内容をタレ担当者に伝えた瞬間に(お釣りのことに気を取られて)、たびたび忘れてしまいました。タレ担当者も熱さでぼうっとしていて、お客さんに確認し直すはめに陥りました。
きっと筆者の有毛細胞は、あの日確実に何本かは死んでいます。
猛暑の中に立ちっぱなしでいなくても、誰しも年齢を重ねれば若いときよりも判断スピードは落ちてきます。ちなみに日本の高齢化率(65歳以上人口の総人口に占める割合)は2019年10月1日現在28.4%で、2065年には38.4%に達すると予測されています。(内閣府ホームページ)
一般的に契約期間が長期にわたり、顧客が契約期間中に高齢化していく生命保険の分野でも、この状況を受けて、生命保険協会は「高齢者向けの生命保険サービスに関するガイドライン」を2014年に策定し、以後改正を繰り返しています。
内容は、高齢者の身体面及び精神面の体調、家庭・生活環境の変化に対応した商品(保険)を作っていくという点と、健康や認知能力の衰えにつけこんだ不適切な契約が行われないようにしたり、手続が発生したときの対応などについてです。
個人・契約時の対応
ガイドラインは以下のようになっています。
- 加入時の対応
(1)高齢者の特性等に配慮したきめ細かな取組およびトラブルの未然防止・早期発見に資する取組み
(2)特定保険契約募集時の留意事項
(3)体面維持会の方法による募集時の留意事項 - 契約継続時の対応
(1)契約内容・支払い手続内容を周知するための取組み
(2)手続不能・長期化を未然に防止するための取組み - 手続発生時・手続時の対応
- 企業保険(団体保険・企業年金保険)
ここではガイドラインそのものではなく、それに関連した解説をしたいと思います。
ガイドラインでは、認知能力等の低下を考慮して適切かつ十分な説明を行うことが必要だと述べています。その具体的な取組例として、以下の4つをあげています。
- a.親族等の同席
“等”というのは、指定代理請求人や死亡保険金受取人、高齢者の子等のことです。 - b.複数の募集人による保険募集
1人が保険の内容について説明している間、もう一人は高齢者の言動や態度を観察し、説明についていけているのか確認するのです。 - c.複数回の保険募集機会の設定
保険の内容が高齢者の意向に沿ったものであるのか、時間をかけて検討してもらうということです。
電話でのオレオレ詐欺が、被害者を焦らせて考える時間を与えないのと逆のやり方です。 - d.高齢者の意向に沿った商品内容等であることの確認
保険募集を行った者以外の者が、保険契約申込の受付後に高齢者に電話等を行い、高齢者の意向に沿った商品内容であることをあらためて確認します。
親族等の同席以前の話なのですが、夫婦の場合、そもそも保険の加入や見直しの相談に夫婦の片方だけが熱心だという事はしばしば聞かれます。
理由は、家計というか数字に苦手意識がある、どうせ説明されてもよく分からない、家計に関することは妻に(夫に)任せている、争いごと(保険料が高いとか安いとか等)は避けたい、等々いろいろあるでしょう。
ですが、ぜひお二人で検討していただきたいと思います。
検討していれば時には夫婦で意見が対立することもあるでしょう。
リスク許容度が違うという言い方をしますが、片方に「安全性、安定性が最重要」、反対側に「激しく変化し、振れ幅が大きい」という定規を想像してみてください。遊園地で乗る乗り物はメリーゴーランドだけという人とジェットコースターに乗らなければ遊園地に来た甲斐が無い人とでもよいです。
あまりにも違う人は夫婦になっていないかもしれませんが、ぴったり一致しているわけではないということは多いでしょう。
そもそも保険による恩恵が夫婦間で同一ではないという場合もあると思います。
互いに受取人に指定して保険金は同額というのは、子どもを持つ夫婦ではあまりない状態だと思われます。
妊娠出産育児でキャリアが中断されない夫が被保険者の場合の方が、保険金額が多くなるのが大勢を占めるでしょう。それを、死んでしまったら保険金を受け取ることが出来ない、それではつまらないという考えで捉えるのでは、意見は対立するしかありません。
対立の背景に夫婦の力関係もあると思います。
夫婦の片方が家計への貢献度が高い(たくさん稼いでいる)、高学歴、金融関係に詳しいなどの状態だと、家計に関する意思決定はその人の考えが優先されるということです。
しかし、事は保険に限りませんが、二人で十分に話し合わないと、決定権を持てなかった、または自分の意見が採用されなかった側は、「理不尽に押し切られた」という不満をためることになります。
これは受動的攻撃性という形になって表れることが多いと思います。
よく男性が言う、「女の人が言う、『何でも無い!』というのは、ぜんぜん何でも無くないんだよね。すごく不機嫌なんだが、何が不満なんだか、さっぱり分からないんだ。」という状態です。
そのうち、(自分にとっては)理由の分からない不機嫌を突きつけられている側も、相手に腹が立ってきて、大きなけんかに発展しかねません。
そこで妥協と協働という考え方を提案しておきます。
出た結論を妥協の産物だと捉えると、双方が何かを諦めたということになり、不満がくすぶります。
これを、お互いに忌憚なく本音を話し合い、共通の目的に向かって解決策を導き出した協働の結果だと捉えられれば、出来ることはすべてやり尽くしたのだという満足感になるのではないかということです。
さて、最後に保険金その他を請求する事態が発生したとき、高齢者の家族等がどうすれば良いのかについてお話ししておきます。
・お住まいの中に保険証券がしまわれていないか?と探します。果たして仏壇なのか冷凍庫の中なのか。(判断力の低下のせいではなく泥棒よけです)
・保険会社からの通知を探します。状差しは今時あまり使われていないかもしれませんが、年賀状の束と一緒になっているかもしれません。
・預金通帳等を探し、口座振替の中に保険料が入っていないかを探します。
このように探しても見つからない場合は、生命保険会社に問い合わせることになりますが、一社一社問い合わせることは大変な作業になります。
そこで利用できるのが、「生命保険契約紹介制度」です。これは一般社団法人生命保険協会が提供しているサービスで、災害時利用と平時利用とが用意されています。今回利用するのは平時利用の方です。
以下のように説明されています。関係者が重複して照会しなくて済むように、代表者一名をたてて利用しましょう。
ご親族等が死亡した場合、または認知判断能力が低下した場合(医師による診断が必要です)に当該ご親族等が保険契約者または被保険者となっている生命保険契約の有無を、当会の会員会社である生命保険会社に確認する制度です。利用料は、調査対象となるご親族等1名につき3,000円です。
調査対象となるご親族等を「照会対象者」といいます。当会に対して調査を依頼するかたを「照会者」といい、照会者のうち、実際に手続を行う方を「照会代表者」といいます。照会者が1人の場合、照会者=照会代表者になります。
照会事由が照会対象者の死亡の場合、照会者が死亡保険金受取人になっている契約については、その旨も回答されます。そのため、ご家族等で照会代表者を1名決め、他のご家族は照会者として照会代表者に照会申込等を委任して申請ください。照会事由が照会対象者の認知判断能力の低下の場合、どなたからの照会でも回答は同じですので、照会代表者お1人で申請いただき、ご家族等で情報を共有ください。
以上、今回は、高齢社会に対して生命保険会社がどのように対応しているかのご紹介でした。