税金・保険コラム

2025.01.21

夫婦での住宅ローン契約と生命保険の活用

寒い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。寒がりの筆者は暖冬を期待していたのですが、3年連続の暖冬にはなりませんでした。がっかりです。私が腰を痛めたため室内に取り込んでやれなかったベランダの鉢植えパイナップルも、きっとがっかりしているに違いありません。

さて、我が家には不動産関連のチラシが頻繁に投函されるのですが、国土交通省が公表する不動産価格指数(年間約30万件の不動産の取引価格情報をもとに、全国・ブロック別・都市圏別等に不動産価格の動向を指数化した「不動産価格指数(基準として2010年の不動産取引価格の平均値を100とする)」を毎月公表)によりますと、 全国的に住宅価格の上昇が続いています。

日本全国で見て、土地・戸建ての不動産価格指数は2019年からの5年間で約8~12%上昇しています。特にマンション(区分所有)に関しては約30%上昇しており、基準となっている2010年からだと89%上昇していることになります。

(ちなみに不動産価格指数(住宅)を開発するための国土交通省が中心となった研究会は2010年に発足しました)

日本の総人口は減少していますし、相続についてよく話題に上る空き家問題(住民が亡くなった後、その家に住む人がいないまま放置されることで種々の問題が発生する)のことも耳にします。人口に対して住宅は余っているようなのに、なぜ住宅価格は下がらないのでしょうか?

それは、住宅価格とは、単純に国全体の需要と供給のバランスだけで決まるものではないからです。

大きな原因としてあげられるのが、次の3つです。
・ひとりや少人数で住む人の増加
・住宅の解体件数の増加
・外国人投資家の資金流入  

最初の原因は、サザエさんのように一軒の家に3世代が住むのが標準という時代ではありませんので、感覚的に理解できる事だと思います。1世帯に何人がいるのかという平均世帯人員は2020年に2.21人でしたが2033年には1.99人に、2050年には1.92人になるというのが2024年時点での推計です。(国立社会保障・人口問題研究所)

このように平均世帯人員が減っていく様子を「世帯の単独化」と呼ぶのは、今回調べていて初めて知りました。

それでは世帯数と住宅数(戸建てと集合住宅との総数)との比率はどうなのでしょうか。総務省が住宅・土地統計調査を5年ごとに実施しています。それによると1世帯当たりの住宅数について、1963年までは総世帯数が総住宅数を上回っていましたが、1968年に逆転し、その後は総住宅数が総世帯数を上回っており、2023年は1.16戸と、2013年以降は同水準で推移している(データに廃屋は含まない)そうです。

これだけ見ると総世帯数に行き渡るだけの住宅はあるようですね。しかし、これには空き家が含まれています。総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.8%と、2018年 (13.6%)から0.2ポイント上昇し、過去最高となっているので、それらの住宅は量的には足りていても、立地等の人が求める多様な条件が一致しないのだと思われます。

その条件の1つが住宅の性能の問題です。国土交通省は、現に人が居住している住宅ストック(既存住宅、住宅市場では中古物件ということ)の性能向上(バリアフリー・省エネ性能のいずれも満たす、あるいはどちらかを満たす)を目指しています。

しかし、住宅ストック総数6,240万戸において空き家等880万戸を除いた5,360万戸のうち、約24%の1,300万戸が昭和55年(西暦1980年)以前に建築されており、省エネ以前の問題として耐震性不足の住宅が700万戸あります。これらの住宅は建替等による性能向上が必要と述べています。

(ちなみにバリアフリー・省エネのいずれも満たさない住宅ストックは約2,100万戸ありますがこれらはリフォーム等による性能の向上が期待できるようです。)

こういう状態ですので、特にアスベスト等を含む建築材料を使用している可能性がある鉄骨造・鉄筋コンクリート造の民間建築物が2028年頃まで増加し続けると推定されているわけです。

外国人投資家の流入については、省略します。

住宅購入にはほとんどの人が住宅ローンを利用します。

そこで2023年の調査結果をまとめた総務省家計調査を見ますと、2人以上の世帯の平均年収634万円に対して平均負債額は655万円となっています。負債年収費(負債現在高の年間収入に対する比)を見ますとそれまで高くても90.6%だった(負債現在高が年収以内に収まっていた)のが、2023年にぽんと上がって102.0%となり、初めて負債現在高が年収を超えました。2020年の内訳では住宅ローンがほとんどと言っても良い状況です。

住宅ローンの借入額を増やす方法が2つあります。1つは1つの物件に対して夫婦または親子がそれぞれ契約者として住宅ローンを組む「ペアローン」と呼ばれるもので、もう一つは「収入合算」です。夫婦の場合についてお話をしていきます。

ペアローンは、1つの物件に対して夫婦が同じ金融機関でそれぞれ契約者としてローンを組む方法です。借入額はそれぞれの収入に応じた額となりますが、夫婦の片方だけで借りるよりも借入金額は大きくできます。
収入合算はローン契約者はひとりですが、同居する配偶者や親・子の収入を合算することで借入金額を増やすことができます。それには「連帯保証型」と「連帯債務型」の2種類があり、金融機関によって取扱いが異なります。(連帯債務型は取扱い金融機関が少ない)

また、収入合算の場合、合算対象者の収入の何パーセントまでを合算するかや、合算の上限を決めている金融機関が多いです。そのため、もし夫婦の収入が同じような額だったら、単独で借り入れる場合と比較すると、収入合算よりもペアローンの方が借入可能額が大きくなるでしょう。

しかし、もし夫婦の収入に大きな差がある場合は、ペアローンでも収入合算でもそれほど大きな差はできないかもしれません。(正規労働者である夫と年収103万円の壁内に押さえているパートタイマー労働者の妻など)

「団体信用生命保険」(団信)は、住宅ローン契約者が死亡または所定の高度障害を負った場合に、生命保険会社が契約者の代わりに金融機関に住宅ローンの残債を返済してくれる保険です。

最近は夫婦どちらか片方に万一の事があった場合に、健在の方の分の債務も無くなる「ペアローン団信」(夫婦連生団信)というものが登場しています。

被保険者が2人以上いて、そのうち1人が万一の場合に他の者が保険金受取人となる保険を「連生保険」といいます。ペアローン団信は連生型といわれます。(ただ、取扱い金融機関は限られています。)

保証が厚い分、保険料負担も重くはなります(金利が上乗せされる)が、これに加入できれば万全のように見えます。しかし、実は住宅ローンとは別の面で注意が必要です。それは、所得税です。

一般的な団信では、受領する保険金に所得税は課税されません。ペアローン団信の場合もその部分は同様です。しかし、ペアローン団信では、亡くなった契約者の住宅ローンだけではなくその配偶者の住宅ローンも免除されます。ゼロになった債務分だけ利益があったものとみなされ、その金額は一時所得として扱われるのです。

一時所得の金額の計算は以下の通りです。
総収入金額 - 収入を得るために支出した金額(注) - 特別控除額(最高50万円) = 一時所得の金額
(注) その収入を生じた行為をするため、または、その収入を生じた原因の発生に伴い、直接要した金額に限ります。

もし、万一の場合の発生が住宅ローン契約を結んだ直後で、まだ一度も返済が発生していなかったとしたら、収入を得るために支出した金額はゼロ円です。自分の分担するはずだった住宅ローンから50万円引いただけの大金が一時所得となってしまいます。

しかも、一時所得の金額は給与所得に合算されますから、所得税率の超過累進税率の影響を受けてしまいます。可能性としては、住宅ローンの金額によりますが納税額が数百万円となることもあり得ます。

そして翌年の住民税も上がるというおまけも付いてきます。

住宅資金に余裕がないからこそ住宅ローンを組むわけですから、納税資金を現金で準備するのは無理があります。

こういうときにもまた役に立つのが生命保険です。保険金には所得税ではなく相続税がかかりますが、相続税には配偶者の税額の軽減という制度があり、実際に取得した正味の遺産額が1億6000万円までなら課税されません。

万一の二段重ねのような感じですが、住宅ローンを組むときはこういう点も考慮する必要があります。

住宅購入はわくわくするものです。合理的な間取り、すてきな家具内装と夢が膨らみます。理想に近い物件に出会った日には、いくら借り入れられるのかばかりに気持ちが向きがちです。しかも、ペアローンや夫婦合算で借入可能額が増えるとなれば、購入物件の価格帯も高くなるかもしれません。

しかしながら、ペアローンにせよ収入合算にせよ、現時点での最大借入可能金額と、返済可能金額とは別ものです。夫婦のどちらかが退職したり大幅な収入減にいたったら、もう片方が2人分の返済をしなければなりません。収入保障保険を準備しておいた方が良いかもしれません。今の状態のまま、生活スタイルに変化がないとは誰も言い切れません。

女性は特に、妊娠出産、子育てで同じ働き方ができなくなる可能性を考えておく必要があります。筆者の知人は、自宅で子育てを手伝ってもらえるはずだった親族が倒れてしまい、介護と育児が同時進行となったため、どうにもやり繰りがつかず退職しました。

住宅ローンという大きな借金を背負う以上、ライフプラン(何年後に子どもの教育費用が必要になるのか、住宅設備の補修がいつになるのか等々の時系列と収支とを関連させた一覧表)を考え、双方の万が一に備えて生命保険を検討するのは必須です。

(ちなみに、ペアローンを組んでいて一方が働けなくなり、もう片方が返済を負担すると、夫婦間でも贈与税が発生することがあります。年間110万円以上を贈与すると納税義務が発生してしまいます。贈与税と言えば、住宅購入資金の負担割合と登記している所有割合が異なる場合も、贈与税が発生する可能性があります。)

ただ、いくら金融機関や独立系ファイナンシャルプランナーと相談してライフプランを練っても準備には当然限界があります。会社の倒産、望まぬ転職。人生何が起こるか分かりません。

ローン完済前に離婚することになってしまった場合は、面倒なことになります。

双方が合意できて家を売却することになって、家の価格がローン残高を上回った場合は残った資金を財産分与できます。ローン残高を下回った場合は差額を返済することになります。

売却せずに片方が住み続ける場合には、出ていく方の持ち分を残る方に譲渡することになります。ローンも1本化する必要がありますので、返済中の金融機関で審査や手続が必要になります。

しかし、1人での返済がきついからこそペアローンを組んでいたのでしょうから、2人で負担していたローンを1人で返済するのは厳しいかもしれません。

最悪なのは、売却価格がローン残高を下回り、なおかつ差額返済が見込めないからと言う理由で、家庭内別居状態で住み続けることかもしれません。ぞっとしますね。

家を買うならまずは2人とも心身ともに健康を目指し、かつ、仲良くやっていく必要があるということでしょう。結婚式で1度誓っているわけですが、住宅ローンを組む際にもう一度、改めて仲良くやっていく誓いを立て直すことも検討してみてはいかがでしょうか。

社会保険労務士
小野 路子
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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