欧先生の診察室

日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。

2026.09.01

睡眠時無呼吸症候群って、なあに?

  • スーツ姿のSさん(52歳、男性)が、少し気まずそうな顔でクリニックに入ってきました。「妻から、夜中に息が止まっていると言われまして。自分ではぐっすり眠っているつもりなのですけどね」眠気や頭痛などがないかと問われると、「朝はいつも頭が重くて。会議中にウトウトしてしまうこともあります」診察を終えた医師は、穏やかに言いました。「脳や体に負担が出ている兆候かもしれません。少し詳しく調べてみましょう」

  • Q.ただの「疲れ」だと思っていたのですが、放っておくとどうなりますか?

    Dr. 数年かけて血管に負担をかけている可能性があります

    睡眠中に呼吸が止まるたび、体は酸欠状態になります。これが毎晩繰り返されると、じわじわと動脈硬化が進んで心臓や脳の血管に負担がかかり、将来的に脳梗塞や心筋梗塞のリスクを高めることが分かっています。さらに近年は、認知症の発症リスクを高めることも、研究で明らかになりつつあります。日中の眠気・集中力低下は、運転や作業中の事故のリスクも高めます。
    いびきが、鼻詰まりや疲労による一時的なものか、治療が必要な病的なものかは、見た目だけでは判断がつきません。眠っている間の呼吸の状態を、専用の検査機器で実際に調べる必要があります。まずは正確に「今どういう状態か」を知ることが、次の一歩につながります。

  • Q.睡眠時無呼吸症候群と診断されたら、どんな治療をするのですか?

    Dr. 重症度に応じて2つの方法があります

    ひとつ目は、マスクを装着して、圧力をかけて空気を送り込んで喉の奥を広げる装置(CPAP)で、二つ目は、下あごを少し前に出して喉の空間を保つマウスピースです。症状の重さや顎の形によって、どちらをお勧めするか判定します。まずは検査で重症度を確認し、それに応じて医師と一緒に治療法を選んでいきます。

  • Q.CPAPは、ずっと使い続けないとダメですか?

    Dr. はい、大切な血管を守る「メガネ」のようなものだと考えてください

    CPAPは、眠っている間の酸欠を防ぐ「サポーター」のような存在です。メガネをかけている間だけよく見えるのと同じように、CPAPも使っている間だけ、血管への負担を防いでくれます。毎晩使うものだと考えてください。減量などでCPAPの圧力が下がるのは、うれしい改善のサインです。自己判断でやめず、必ず医師に相談してください。再検査のうえで、CPAPを終了できるか、マウスピースへステップダウンできるかを判断していきます。
    通常、睡眠中に呼吸が止まるのは、皮下脂肪によって狭くなった喉の通路に、舌が落ち込んで塞いでしまうために起こります

    肥満がある場合、減量は根本治療の柱です。喉の狭さを解消するには数年がかりで腰を据えた取り組みが必要ですが、横向きに寝るのも有効です。仰向けだと、舌の根元が重力で喉に落ち込みやすくなりますが、横向きなら舌が頬側に移動するため、喉の狭さが軽減されるのです。
    CPAPを続けるには、1~2か月に1回の定期受診と、使用時間の実績が必要です。CPAPには装着中の呼吸状態をモニターし、報告する機能が備わっているので、医師はインターネットを介して遠隔で使用状況を把握することができます。マスクの不具合など、困ったことがあれば我慢せず相談してください。

  • Q.歯ぎしり予防のマウスピースを持っているのですが、それでも大丈夫ですか?

    Dr. 構造が違うので別に作る必要があります

    睡眠時無呼吸症候群の治療用は、下あごをわずかに前に出し、喉の奥の空間を広げるための特別な作りになっています。見た目は似ていても、歯ぎしり予防のマウスピースとは、目的も構造もまったく別物です。
    医師からの紹介状があれば、保険診療で作ることができます。ミリ単位の調整が必要なため、睡眠時無呼吸症候群の治療経験が豊富な歯科医院を選ぶことが大切なポイントです。

  • Q.いびきや眠気の原因が、実は別の病気だったということもありますか?

    Dr. はい、症状が重なるため見分けがつきにくいことがあります

    日中の強い眠気や倦怠感は、甲状腺機能低下症(橋本病など)でもみられる症状です。さらに、甲状腺ホルモンの低下は舌や喉まわりのむくみにつながり、喉の空間を狭くして睡眠時無呼吸症候群そのものを引き起こす、あるいは悪化させる要因にもなり得ます。
    うつ病も、日中の眠気や集中力低下、意欲低下といった症状が重なりやすく、見分けが難しい病気です。睡眠時無呼吸症候群とうつ病は合併することも珍しくありません。
    「気分の落ち込みだから」「疲れているだけだから」と自己判断せず、いびきや呼吸停止を指摘されたことがあるなら、内科や睡眠外来での相談も視野に入れてみてください。

  • Q.話題の「痩せる注射」はどうでしょう?

    Dr. 減量の助けにはなりますが、「魔法の薬」ではありません

    肥満は睡眠時無呼吸症候群の大きな原因の一つです。体重が減ることで、症状が軽くなったり、治療から卒業できる方もいます。
    話題のGLP-1受容体作動薬(いわゆる「痩せる注射」)は、脳の食欲中枢に働きかけて満腹感を高め、食べる量を自然に減らす薬です。もともとは糖尿病治療薬として使われてきたもので、医師の管理のもとで用いる医療用医薬品です。効果は大きい一方で、胃腸症状をはじめとした様々な副作用があります。「少し体重を落としたいから」と自己判断で使う薬ではありません。
    さらに、薬をやめると食欲を抑える働きも失われるため、多くの場合、体重が再び戻ってしまうことが分かっています。体重には、脳が一定の範囲に保とうとする働き(恒常性)があり、急激な減量ほど元に戻りやすい傾向があります。GLP-1受容体作動薬を一時的に併用するのも一つの選択肢ですが、大切なのは薬に頼りきりにならないことです。医師や管理栄養士とチームを組んで、数年かけて食事や運動の習慣そのものを作り変えていくことこそが、肥満からも無呼吸からも「卒業」するための一番の近道です。

帰り際、Sさんはふと足を止めて言いました。「疲れやすいのは、歳のせいかと思っていたんです」いびき、日中の眠気、頭の重さ、全てがつながり腑に落ちた表情でした。「今夜からさっそく、横向きで寝てみます」。そう言って、Sさんは検査の予約をして帰っていきました。

【まとめ】
CPAPやマウスピースは、大切な血管を守る「頼もしいサポーター」。
本当の卒業の鍵は、数年かけた「食事・生活習慣の再インストール」。
不安を煽る情報からは距離を置いて、まずは自分の状態を正確に知ることが一番の近道です。

佐々木欧(ささき・おう)

医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、
やさしい医療を目指している。

わからないことがある方

よくあるご質問

ポスタルくらぶサービスセンター

03-3497-1555

受付時間 9:00~17:00※土・日・祝・年末年始を除く

会員の方

ログインして
会員限定サービスを利用する

お電話でのお問い合わせは会員カードの裏面に記載のフリーダイヤルへお問い合わせください。

会員カードのご案内

会員の方へ

※お電話でのお問い合わせも承っております。会員専用電話番号は会員カードにてご確認ください。