日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。
2026.06.09
熱中症って、なあに?
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スーツの上着を手にしたTさん(46歳、男性)が顔色の悪い様子でクリニックに入ってきました。近隣の会社に勤める営業職で、朝から外回りが続いていたそうです。「仕事が立て込んで、昨夜はあまり眠れなくて。移動中に急に頭がくらくらして、慌ててお茶を2本飲んだのですけどね」待合室で涼んでいるうちに、症状は落ち着いてきました。診察を終えた医師は、穏やかに説明しました。「熱疲労のようですね。少し、一緒に整理してみましょうか」

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Q.短時間の外出でも、熱中症になりますか?
Dr. 気温が高く湿度も高い日には、20~30分ほどで体への熱の蓄積が始まりやすくなります
特に気をつけてほしいのが、梅雨明け直後の時期です。体が暑さに慣れるまでには、約1~2週間かかるといわれています。「ちょっとの外出だから」が、もっとも油断しやすいタイミングです。
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Q.水をたくさん飲んだのに、なぜ熱中症になったのですか?
Dr. 飲むタイミングと、何を飲むかが大切です
のどが渇きを感じた時点で、体の水分はすでに失われ始めています。さらに、飲んだ水が全身に届くまで約30分かかります。「渇いてから飲む」では、体の回復が追いつかないことがあります。こまめに、少量ずつ、30分~1時間ごとにコップ半分から1杯が目安です。
何を飲むかも、意識してみてください。日常の水分補給には、水や麦茶が基本です。汗を大量にかいた時や、体のだるさを感じ始めた時は、経口補水液が適しています。スポーツ飲料は糖分が多めなので、飲みすぎには注意が必要です。
年齢を重ねると、渇きを感じにくくなります。口がねばつく感覚も、水分不足のサインです。脱水の程度は、尿の色でも確かめることができます。透明に近いレモン色なら水分が足りている状態。濃い黄色が続くようなら、補給が足りていないサインです。尿の色と水分補給の目安
出典:平成27年度「見える」安全活動コンクール(厚生労働省)優良作品、宇野重工株式会社 -
Q.塩タブレット・塩飴を食べていれば安心ですか?
Dr. 量とタイミングには気をつけてください
通常の食事がとれていれば、塩分が不足することはほとんどありません。炎天下での作業や長時間の外出など、汗を大量にかく場面では、食塩相当量で0.5~1gをお茶や水500mlと一緒に摂るのが目安です。製品によって含有量が異なるので、成分表示を確認してください。
持病のある方(高血圧・糖尿病など)は、塩分や糖質の摂りすぎに影響が出ることがあります。補給の方法をあらかじめ主治医に確認しておくと安心です。 -
Q.エアコンをつけ続けると、体が弱りませんか?
Dr. 「クーラー病」は、使い方次第で避けられます
体が冷えすぎたり、室内外の温度差が大きすぎたりすることで体調が崩れる、それが「クーラー病」の正体です。エアコンそのものが悪いわけではありません。室温は28℃以下を目安に、実際の温度計を見ながら調整しましょう。高齢の方や持病のある方は、暑さを感じにくいこともあるため、体感よりも少し低めの設定で冷房を使うことが大切です。
暑さを避けることが、熱中症予防の基本です。屋外では日傘も有効ですので、男性にもおすすめです。 -
Q.扇風機をつけっぱなしで寝ていいですか?
Dr. 直接体に当て続けない方が安全です
就寝中も皮膚から水分が蒸発し続けるため、体に直接当たり続けると脱水が進みやすくなります。首振りモードで体に直接当て続けず、天井や壁に向けて空気を循環させる使い方がおすすめです。
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Q.熱中症になりやすい「条件」や、気をつけるタイミングはありますか?
Dr. はい。まず、体への負担が増しやすい「条件」です
【睡眠不足】自律神経が乱れ、体温調節の働きが低下しやすくなります。
【前日の飲酒】アルコールには利尿作用があり、睡眠の質も下がるため脱水と疲労が重なりやすくなります。
【梅雨明け直後】体が暑さに慣れていない時期(約1~2週間)は、特に注意が必要です。
【薬の影響】利尿薬、頻尿の薬(抗コリン作用のある薬)、精神科・心療内科の一部の薬などが体温調節を妨げることがあります。心当たりのある方は主治医に確認してみてください。次に、気をつけたいタイミングです。
【起床時・就寝前】眠っている間に汗をかくため、朝はすでに軽い脱水状態です。起床時と就寝前にコップ1杯を習慣にしてください。
【外出・入浴の前後】それぞれコップ1杯が目安です。
【雨上がり・高湿度の日】湿度が高いと汗が蒸発せず、体温が下がりにくくなります。庭仕事や草刈りには特に注意が必要です。
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Q.打ち水や木陰、どれくらい涼しくなりますか?
Dr. 確かな効果がありますが、場所や方法によって違いがあります
土や砂の上では打ち水の効果は長続きしますが、アスファルトやコンクリートは乾きが早いため効果は限定的です。ケヤキのような大木が連なる並木道では、周辺の市街地より気温が1℃以上低くなるという調査結果も報告されています。近年は街路樹の伐採が増え、日陰が減っている地域も出てきており、悪影響が心配されています。
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Q.エアコンが使えなくなったら、どうすればいいですか?
Dr. まず考えてほしいのは、「家の外に出る」選択肢です
図書館、スーパー、公民館など、冷房の効いた公共施設への移動を検討してください。エアコン故障時、停電時は「家にいる方が安全」とは限りません。
自宅では遮光カーテンで日差しを遮り、濡れタオルで首・脇の下・太ももの付け根を冷やしてください。経口補水液(500ml×数本)と飲料水(1人3日分・9L程度)の備蓄、および自治体の救急相談窓口を事前に確認しておくと安心です。
熱中症予防の5つのポイント
1. 暑さを避ける
時間帯・日陰・日傘・休憩を意識する。梅雨明け直後は特に注意。
2. 渇く前に飲む
起床時・外出前・入浴前後・就寝前にコップ1杯を習慣に。
3. 何を飲むかを選ぶ
日常は水・麦茶が基本。大量発汗時や体のだるさを感じた時は経口補水液を。
4. リスクを重ねない
飲酒翌日・睡眠不足・梅雨明け直後が重なる日は特に意識する。
5. 備えておく
経口補水液・涼める公共施設・救急相談の連絡先を事前に把握する。
*自家製 経口補水液のレシピ
水500mlに、砂糖(ペットボトルの蓋3杯・約9g)と塩(ひとつまみ・約1g)を溶かすだけ。計量スプーンがなくても作れます。レモン汁を数滴加えると、塩味が和らいで飲みやすくなります。酸味に胃が敏感な方はそのままでも可。
※症状が強い場合は市販品や医療機関の受診をご検討ください。
持病のある方は主治医にご相談ください。
帰り際、Tさんはふと思い出したことを口にしました。「あの……実は昨日、職場の飲み会があって。少し飲みすぎてしまったんです」 前日の飲酒、睡眠不足、梅雨明け直後の外回り。腑に落ちたという表情で、Tさんはクリニックを出ました。「日傘、買って帰ります」と言って、ビルの陰を選びながら歩いて行きました。
佐々木欧(ささき・おう)
医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、
やさしい医療を目指している。
