日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。
2026.03.03
自律神経って、なあに? ~季節の変わり目、寒暖差のもたらす体調不良~
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春先になると毎年、同じような不調が続くというNさん(40歳、女性)。朝から体が重く疲れが抜けない、動悸やめまいがある、胃腸の調子が整わない、寝つきが悪い──。検査をしても、はっきりとした異常は見つからなかったとのことです。それでも、「いつもと違う」という体調の違和感だけは、確かに続いている様子でした。ひととおりの診察を終えてから、「寒暖差や環境の変化によって、自律神経に負担がかかっているのかもしれません」と、話し始めました。

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Q.自律神経って何をしているのですか?
Dr. 体の状態を無意識に調整する「切り替え役」です
自律神経は、活動時に優位になる交感神経と、休息時に優位になる副交感神経から成り立っています。この2つは、しばしばアクセルとブレーキに例えられますが、単純なオン・オフのスイッチではありません。実際には、呼吸のリズムのように、状況に応じて強弱をつけながら切り替わり、どちらか一方に完全に偏ることなく、揺れ動きながら体のバランスを保っています。
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Q.なぜ春になると不調が出やすくなるのですか?
Dr. 体の「切り替え作業」が一気に増えるからです
春は、朝晩の寒暖差が大きくなり、日照時間も伸び、新年度で生活環境も変わりやすい季節です。こうした変化に対応するため体は、体温、ホルモン分泌、睡眠と覚醒のリズムなどを、同時に細かく調整し続ける必要があります。
東洋医学では、冬から春への移行を「陰から陽へ」と表現しますが、これはスイッチのような一度きりの切り替えではありません。実際には、振り子が揺れるように、寒さに戻ったり暖かさに進んだりを繰り返しながら、少しずつ春へと移っていく変化です。
特に春先は、一日の中でも寒暖差が大きく、その変化が短時間で繰り返されます。振れ幅の大きい振り子を何度も元に戻そうとするように、自律神経は休む間もなく調整を続けることになります。その結果、「本来の安定した状態」を見失い、体調の不安定さとして感じられることがあるのです。 -
Q.検査で異常が出ないのは、なぜ?
Dr. 自律神経の不調は、「調整の過程」で起きているからです
血液検査や画像検査が捉えるのは、病気によって生じた「結果としての異常」―数値や形の変化です。一方、自律神経の不調は、体がバランスを取ろうとする「調整の過程で起きている変化」です。そのため、検査では「異常なし」と判断されることも少なくありませんが、これは「気のせい」という意味ではありません。検査に異常が現れるよりも前の段階で、確かに不快感を伴う症状として現れます。
同時に、すべての症状を自律神経の問題として片づけてよいわけでもありません。症状が似ていても、貧血や甲状腺の病気、感染症などが隠れていることもあります。まずは必要な検査を行い、重大な病気を除外したうえで考えることが大切です。 -
Q.不快な症状が出たとき、どうすればよいですか?
Dr. 症状から離れて、体の別の感覚に意識を向けてみましょう
発汗や動悸などの発作的な症状は、交感神経が過剰に働いている状態と関係しています。症状に意識を向け続けるほど、不快感は強まりやすくなります。そんなときは、ゆっくり深呼吸をし、吐く息を長めにしてみてください。一定の呼吸やリズムのある動きは、体に「今は安全だ」というサインを伝え、過剰な緊張を和らげます。
寒さも交感神経を刺激します。外に出る前に、首・手首・足首を覆って冷やさないようにしましょう。発作が起きてから対処するよりも、日頃から刺激を減らす工夫を重ねることが、体調を安定させる近道です。 -
Q.普段の生活で、体調を安定させるコツはありますか?
Dr. 自律神経を「動かそう」とするより、「働きやすい条件」を整えることが大切です
心拍を自分の意思で自由に調整できないように、自律神経そのものを直接コントロールすることはできません。一方で、自律神経が体の状態を判断するために受け取っている「体からの情報」は、日常生活の工夫によって整えることができます。たとえば、体温の変化、血糖値の上下、胃腸の動き、光の刺激などです。これらの変動が小さくなると、自律神経は過剰に働く必要がなくなり、結果として体調の安定につながります。
なかでも取り組みやすいのが「食事」です。温かいものを摂る、朝に食事をする、極端なダイエットを避けるといった工夫は、体のリズムを整え、自律神経の負担を軽くします。これらは東洋医学では古くから重視されてきましたが、内臓の温度調節や体内時計の観点からも、現代医学的に理にかなった方法といえます。 -
Q.運動はしたほうがいいですか?
Dr. ゆったりとした運動がおすすめです
食事の次に、自律神経に働きかけやすいのが「体の動かし方」です。ここで大切なのは、「頑張る運動」ではなく、「緊張を高めすぎない動き」を選ぶことです。速く走る、強く鍛えるといった運動は、交感神経を強く刺激します。一方、呼吸を意識しながら歩く、ゆったりと体を動かすといった運動は、副交感神経が働きやすい状態をつくります。
おすすめなのは、リラックスして歩くこと、軽いストレッチ、ヨガや太極拳などです。これらに共通しているのは、「動いていながら、呼吸や体の感覚に意識を向ける」点です。自律神経は「動」と「静」を行き来しながら調整されるため、静止したままでも、激しく動くことでもなく、その中間にある動きが、無理なく作用します。
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Q.やる気が出なくて動けません
Dr. 動いたあとに、やる気はついてきます
行動が先で、気持ちはあと。これは精神論ではなく、脳の働きに基づいた考え方です。椅子から立ち上がる、カーテンを開ける、短い散歩に出る。大きな目標ではなく、「体が拒否しない小さな動き」を先に行うのがコツです。一度動いたらもうけもの。あとはついでに、またついでに。ちょっとずつできることをやってみましょう。
言葉を繰り返すことは、気持ちや考え方をつくります。食事を積み重ねることは、体をつくります。そして行動を続けることが、習慣をつくります。自律神経も、生活習慣も、一足飛びに整うのではなく、段階を踏んで整ってゆきます。 -
Q.完璧にできないと気になります
Dr. 時間をかけていいのです
春は助走の季節です。自然界も一気に動き出すことはありません。風にたなびく樹木は、止まっているように見えて、実は絶えず揺れています。静止の中に動があり、動の中に静がある。自律神経も同じで、揺れながら整ってゆきます。
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説明を聞き終えたNさんは、「病気じゃなさそうで、少し安心しました」と、明るい表情になりました。念のため、甲状腺ホルモンや貧血の有無を確認するための採血検査を受けました。「まずは、帰りに少し遠回りして歩いてみます」と言って、春の光が差し込む廊下を、少し軽い足取りで帰っていきました。
佐々木欧(ささき・おう)
医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、
やさしい医療を目指している。
