欧先生の診察室

日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。

2025.12.02

マイコプラズマ肺炎、ってなあに?

  • 「ただの風邪だと思ってたんです」
    そう言って診察室に入ってきたのは、出張続きの40代男性、Mさん。咳が続いて、疲れが抜けない様子。「市販薬飲んでたんですけど、熱も出てきて…」と、少し不安げです。夜になると咳が止まらず、会話の途中で息が切れます。一通りの診察を終え、レントゲンを見ながら、「マイコプラズマ肺炎かもしれません。特効薬がありますが、しっかり休養をとりましょう」と、話が始まりました。

  • Q.人にうつりやすいですか?

    Dr. インフルエンザと同様です

    咳やくしゃみで人にうつります。感染から発症までが長く、潜伏期間は2~3週間ほどです。職場や家庭内で、順繰りに発症することも珍しくありません。咳症状のあるうちはマスクをして、人混みを避け、同居のご家族がいる場合にはときどき換気を行いましょう。
    潜伏期間が長いということは、発症せずに済むかどうかが決まる猶予期間が長いとも言えます。流行期には特に、だるさや疲れやすさを感じたら、体が休めと教えてくれたと思って、十分な休息をとって治してしまいましょう。

  • Q.かかりやすい人は?

    Dr. 子供や若者に多く、中高年でも疲労や免疫低下で発症します

    マイコプラズマ肺炎は、秋~冬に流行り、年齢別では0~9歳が約60%、10~19歳が約30%を占めます。コロナ禍が明けて家庭や職場での感染が増え、40~50代にも広がっています。
    若年では軽症の場合が多く、無症状の場合も知られています。成人では重症化の恐れがあり、入院が必要な場合もあります。

  • Q.重症化しやすい人は?

    Dr. 高齢者、基礎疾患のある方、過労時など

    マイコプラズマ肺炎は、若年者では「歩ける肺炎」と呼ばれ、ほとんどが軽症で、自然に治ることもありますが、大人がかかると重症化するおそれがあります。体力と責任感で乗り切ろうとする世代こそ、油断ならない病気です。悪化すると喘息のような激しい咳の発作や、動いた時の息切れ、呼吸の苦しさなどがみられます。

  • Q.似ている病気はありますか?

    Dr. インフルエンザなどのウイルス感染と似ています

    発熱やのだるさ、乾いた咳が特徴ですが、症状だけで区別するのは困難です。発熱しない場合など、肺炎と気付きにくい場合もあります。1週間以上咳が続くなど、症状が長引く場合には、いつもの風邪だと放置せずに受診しましょう。また、初期にはウイルス感染との区別が難しいため、改善しなければ再度相談にいくことも大切です。

  • Q.どうやって診断しますか?

    Dr. レントゲンや採血、抗原検査などで判断します

    インフルエンザや新型コロナウイルスと同様に、抗原検査があります。ただし鼻の中ではなく、喉を綿棒でぬぐって行い、15~30分ほどで結果が出ます。
    偽陰性といって、検査をすり抜ける場合もありますので、胸のレントゲン画像や採血結果、流行状況なども合わせて総合的に判断します。大きな病院では、PCR検査を実施する場合もありますが、結果が出るのに数時間から数日かかることもあります。

  • Q.予防法は?

    Dr. 手洗い・うがい・睡眠で、広げない対策が必要です。

    ワクチンはありません。風邪と同様に、「感染を広げない」対策が大切です。体調不良時は無理して出勤せず、人にうつさないこと、休むことが仕事だと思って、休息をとりましょう。

  • Q.治療について教えてください

    Dr. 抗生物質で、1~2週間治療します

    マイコプラズマはウイルスではなく、細菌の一種で、特効薬があります。マクロライド系の抗生物質が第一選択です。近年、抗生剤が効きにくい耐性菌が増えており、他の種類の抗生剤が必要となる場合もあります。
    ちゃんと治し切ることが大切なので、自己判断で抗生剤を中断してはいけません。症状が楽になってもしばらく安静が必要です。回復には個人差があり、数週間から数ヶ月間にわたって咳が長引く場合もあります。治り切るまで通院しましょう。

  • Q.食事や生活習慣で気をつけることは?

    Dr. 禁煙、適度な運動と、新鮮な野菜など

    ビタミンA, C, Eといった抗酸化ビタミンの豊富な緑黄色野菜、ナッツ類、魚などを、さまざまな食材から摂るように心がけましょう。痩せて体力の衰えを感じたり、手足の冷えが気になる人は、ビタミンEや、脂質、食物繊維も豊富なアボカドがおすすめです。
    ビタミンDには、骨を強化するだけでなく、免疫を整える効果もあります。食事で十分量取るのは難しく、紫外線を浴びると皮膚で作られます。日にあたりながら30分ほどの緩やかな運動がおすすめです。空気が乾燥してきていますので、水分をとりながら行いましょう。
    マラソンなどの過度な運動は、かえって免疫低下の恐れがありますのでほどほどに。負荷をかける運動をする日は、炭水化物(糖分)をとりながら行いましょう。

  • 忙しすぎた最近の生活を振り返ったMさん。採血検査を受け、来週再診の約束をしました。「しばらく安静ですね、出張の予定を調整しなくちゃ」と言いながら、少しホッとした様子で帰ってゆきました。

佐々木欧(ささき・おう)

医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、
やさしい医療を目指している。

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