欧先生の診察室

会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。

2022.06.07

喘息ってなあに?

  • アレルギー性鼻炎で通院中のMさん(52歳、男性)。風邪をひいた後に、乾いた咳が続くといって相談に来ました。幼少時に患っていた喘息と似ているものの、ゼーゼー、ヒューヒュー、音はしないとのこと。くわしく状況を確認しながら、ひと通り診察をしたあとで、咳喘息かもしれませんね、と話し始めました。

  • Q.咳喘息って何ですか?

    A. 音が鳴らない喘息です

    喘息というと咳がひどくて、ゼーゼーヒューヒュー呼吸に苦しげな音がまじる病気、というイメージがあると思います。こちらは気管支喘息といって、気管支が腫れて狭くなっているために、呼吸の音が鳴る病気です。ひどい発作では窒息を起こして酸欠に陥るため、現在でも命を落とすこともある油断ならない病気です。
    一方で、咳の発作が起こっても、気管支が狭くならず、酸欠にはならない喘息もあります。咳喘息と呼ばれており、成人の喘息に多くみられます。気管支喘息とは違って、ひどい発作で命を落とすことはないものの、咳で眠れなくなることはよく起こります。咳や不眠で疲労困憊してしまって、日常生活に大きな影響を及ぼす、とても厄介な病気です。

  • Q.大人も喘息になるのですか?

    A. 高齢者にも多くみられます

    喘息の患者数は小児が最多ですが、成長とともに大半の人では治るため、高校生になる頃には目立たなくなります。壮年期から再び増加し、高齢でも多くみられます。成長期には男性に多く、成人では女性に多い特徴があります。
    2003年の全国調査では、喘息の有症率は小児期に9.0~13.6%と高く、64歳以下の成人では4.7~6.7% と低下しますが、65歳以上では再び8.8~10.9% と上昇しました。このように、喘息は小児だけでなく、高齢者にも多くみられる病気となっています。
    小児の喘息患者さんは、ダニやハウスダストに対するアレルギー体質を背景に発症する人がほとんどであるのに対して、成人の喘息患者さんは背景となる体質や、発症までの経緯も様々です。成人してから初めて喘息になる人もいれば、小児期に発症して成長とともに一度治っていたのが、成人になって再発する人もいます。喫煙歴のある方では、肺気腫を合併していて薬が効きにくい場合もあります。

  • Q.電車内などで、急に咳が出て困っています

    A. 空気の変化を過敏に感じ取ってしまうためです

    喘息では、気管支などの空気の通り道が慢性的な炎症で腫れていて、空気の変化に過敏に反応してしまいます。気温の寒暖差や、乾燥など湿度の変化、香水や柔軟剤などの匂い、タバコやお線香といった煙などの刺激で咳の発作が出ます。こういった、普段は気にも留めない空気の変化を、異物が侵入してきたものとして過敏に感じ取って、咳の反射で追い出そうとします。厄介なことに、ひとたび咳をすると、ますます咳が出やすくなり、咳が止まらない悪循環に陥ってしまいます。

  • Q.どんな治療をしますか?

    A. 吸入薬や、飲み薬で治療します

    咳喘息と気管支喘息とで、治療は共通しています。吸入薬が特に重要ですが、内服の抗アレルギー薬を用いることもあります。吸入薬としては、気管支に直接届いて炎症を鎮めるステロイドや、気管支を広げる薬などを組み合わせて用います。
    ステロイド吸入薬の登場によって、喘息の治療は劇的に向上しました。1990年代にステロイド吸入薬による治療が普及するのに伴って、喘息で亡くなる方が激減しています。70年代ごろには年間約7000人が喘息で亡くなっていましたが、90年代の後半から徐々に減少し、2000 年には約4400人、16年には約1400 人にまで減っています。

  • Q.ステロイドは、副作用が心配です

    A. 飲み薬と違って、薬が届く気管支にしか影響しません

    吸入をはじめとした外用薬のステロイドは、内服薬とは違って全身性の副作用を起こすことはほとんどありません。ステロイド吸入薬ならではの副作用としては、声がかすれたり、口や食道に、カンジダという常在菌のカビが増えて白い苔が付着して、味がわかりにくくなったり胸焼けを起こす場合があります。副作用の予防として、吸入後にうがいをすることが大切です。

  • Q.治りますか?

    A. 咳喘息は完治することが多いのですが、慢性化することもあります

    咳喘息は、風邪を引いたあとや、季節の変わり目などに発症して、乾いた咳が数ヶ月ほど続きますが、自然に治癒する場合も多く見受けられます。しかしながら、同じような状況で再発することも多く、症状を繰り返すうちに3割程度では慢性化して気管支喘息に移行してしまうといわれています。
    気管支喘息は、病状が慢性化していることが多いため、症状が軽くなっても再発しないように予防の治療を続ける必要があります。慢性疾患なので、治療への取り組み方は高血圧などの生活習慣病と似ています。
    咳喘息も、気管支喘息も、生涯つきあってゆく必要がある病気ですが、お薬できちんとコントロールすることができる病気です。それには、症状を出さないために予防的な治療を続けたり、症状の出始めにきちんと対処することが大切です。こういった治療を続けることで日常生活を送ることができるのはもちろんのこと、喘息と上手に付き合いながらプロのスポーツ選手を続けている人だっています。

  • Q.コロナにかかった時に、どんな影響がありますか?

    A. 喘息が悪化しやすいです

    新型コロナ感染症の重症化リスクとしては、高齢、肥満、糖尿病、心血管疾患*の既往などが知られています。喘息が重症化リスクであるという報告は少なく、基本的には影響を及ぼさないと考えられています。
    ただし、喘息自体が悪化することはよくありますので、普段から病状をきちんとコントロールしておくことが重要です。新型コロナ感染症に限らず、ウイルス感染をきっかけとして喘息の発作が起こりやすくなることが知られています。風邪をひいた時でも普段の治療をやめず、吸入薬などを続けることが大切です。
    *心血管疾患: 心筋梗塞や動脈瘤といった、心臓や血管に生じる循環器系疾患の総称

  • そのうち治るだろうと放っておくのはまずいのですねと振り返りながら、以前にも咳が長引いたことがあったことを思い出したMさん。コロナ禍ということもあって電車内での咳は特に肩身が狭いので、今回はきちんと治療に取り組みます、と言って処方箋を受け取って帰ってゆきました。

佐々木欧(ささき・おう)

医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。

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