欧先生の診察室

会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。

2021.03.09

肺炎になったらと心配です

  • 高血圧で通院中のNさん(53歳、男性)。3ヵ月ぶりの来院で近況を伺ったところ、実家の父親(80歳)がこの冬に脳梗塞を発症したとのこと。軽い麻痺が残ったものの、幸い生活に大きな支障はないようです。介護保険の認定がおりて訪問リハビリが始まった矢先に、誤嚥性肺炎で入院となったとのことでした。

    肺炎になったらと心配です
  • Q.誤嚥性肺炎はどうして起こるのですか?

    A.口の中の細菌が唾液とともに、気管から肺へと落ちてしまうために起こります。

    誤嚥性肺炎は、口の中の細菌が原因で起こる肺炎です。飲み込む力が落ちていたり、気管に垂れ込んだ唾液をむせて吐き出す力が低下しているために起こります。脳梗塞の後遺症があったり、病気や手術で体力が落ちて横になりがちだと増える肺炎です。また、脳梗塞などのきっかけがなくても、加齢と共に全身の筋力が落ちてゆくにつれてかかりやすくなります。

  • Q.誤嚥性肺炎の予防は何に気をつければ良いですか?

    A.歯磨きでの歯周病の予防と、口や喉の筋力の維持が大切です。

    誤嚥性肺炎は口の中にいる雑菌が原因となるため、予防には歯磨きが有効で、特に歯周病対策が重要です。歯周病菌は他の細菌とともに、歯と歯茎の隙間に歯垢として育ちます。歯垢はバイオフィルムと呼ばれる防護壁を備えていて、免疫による排除を逃れます。歯垢1 mg 中には約300 種類、1億個もの細菌が生息しており、これは便中と同レベルの多さです。剥がれ落ちた歯垢はわずかな唾液とともに気管へと落ちてゆき、肺炎を起こします。飲み込む力が落ちているとリスクがさらに高まり、明らかにむせている様子がなくても起こります。予防には、喉や舌の筋力維持も重要です。左右に振り向く動きでの首のストレッチや、ベーっと舌を出したり、会話したり歌うなど声を出すことで、舌や喉の筋肉の動きを保つことが有効です。また、筋肉の材料となる肉や魚、大豆製品などのタンパク質を食事で一緒にとるように心がけましょう。

  • Q.抗生物質で予防できますか?

    A.できません。抗生物質の効かない耐性菌を増やしてしまい、逆効果です。

    誤嚥性肺炎の治療に抗生物質を使いますが、予防には使いません。 口の中や腸には常在菌がいて、悪玉菌を増えにくくしたり、食物の消化を助けてビタミンを作るなど、私たちの体と平和的に共生しています。やみくもに抗生物質を使用すると均衡が崩れて下痢をしたり、抗生剤の効かない耐性菌が住み着いてしまうこともあります。耐性菌が肺炎や膀胱炎、腸炎などを起こして治療が必要になった場合には、効果のある抗生剤が限られているので治療に困ります。
    抗生剤は必要な時にしっかりと使うことが大切です。中途半端に切り上げると治りきらないばかりでなく、耐性菌を残して治療を台無しにしてしまいます。自己判断で中止せず、決められた用法・用量を守って飲みましょう。

  • Q.普通の肺炎についても教えてください。

    A.自宅での日常生活でかかる肺炎は市中肺炎と呼ばれます。

    肺炎は、2019 年の日本人の死因の第5位となっており、肺炎で亡くなる人のほとんどが65歳以上の高齢者です。肺炎の原因となる病原体には、ウイルスや細菌、真菌(カビ)、結核やその仲間の抗酸菌などがありますが、日常生活でかかる肺炎(市中肺炎)の大部分は、細菌による肺炎です。

  • Q.肺炎を予防するワクチンがあると聞きました。

    A.市中肺炎の主な原因、肺炎球菌を予防するワクチンがあります。

    市中肺炎の原因で最も多いのは肺炎球菌です。重症化を予防するワクチンがあり、 65歳以上で定期接種となっています(商品名: ニューモバックス)。未接種の場合には、65歳、70歳など5歳ごとのタイミングで市町村から費用を補助する案内の郵便が届くと思います。このワクチンの効力は5年間なので、5年ごとに打ち直す必要があります。現状、2回目以降は自費となり、案内も送られて来ないようです。いつ打ったかを忘れてしまいやすいので、注射の際に接種証明のシールをもらって、お薬手帳や保険証の裏などに貼っておきましょう。
    肺炎球菌のワクチンはもう一種類あります(商品名: プレベナー)。成人では自費ですが、効果は一生涯続きます。5年ごとに効果の切れるワクチンとは免疫への記憶のされ方が異なるため、両者を組み合わせて接種する事で更なる効果が期待できます。接種の順番や間隔についての注意事項がありますので、肺炎がご心配の方は主治医の先生に相談してみましょう。
    ワクチンの費用補助は市町村によって対応が異なる場合があるので、不明な点があればお住まいの地域の保健や福祉の窓口にご確認ください。

  • Q.日常生活の中で、肺炎の予防に気をつけることはありますか?

    A.肺炎の入り口となる風邪を予防することが大切です。

    インフルエンザなどのウイルス感染(風邪) をきっかけに、肺炎を発症する場合があります。風邪のウイルス自体が原因になることもあれば、風邪で体力を消耗し免疫の働きが弱まり、気道の粘膜が荒れていて別の病原体も侵入しやすくなるために起こる場合もあります。
    風邪の予防には、手洗い・うがいと、睡眠が大切です。冬だけでなく、空気が乾燥して昼夜の寒暖差が大きくなる春や秋にも風邪をひきやすくなるため、寝室の加温と加湿も重要です。室温は20度以上、湿度は40~60% を目安としましょう。肺炎予防も兼ねて、インフルエンザの予防接種もおすすめです。

  • 通常の肺炎のワクチンは、5年で効果が切れるのですねと念を押しながら聞いていたNさん。しばらく歯科検診を受けていなかったので私も受けに行きます、と言って処方箋を受け取って帰ってゆきました。

  • 歯周病予防が認知症や癌の予防にもつながる可能性

    口は様々な病原体が侵入する入り口となるため、口の中を健康に保つことは誤嚥性肺炎だけでなく、風邪の予防にも大切です。実際に、歯科で定期的に歯周病のケアを受けることでインフルエンザにかかりにくくなったという報告があります。
    更に、歯周病によって動脈硬化や糖尿病、認知症や様々な癌のリスクが増加することが報告されています。歯周病菌のもたらす慢性的な炎症が直接・間接的に全身に影響を与えて、多彩な病気に繋がってゆくことが解明されつつあります。
    歯周病の予防には、寝る前と朝食前の歯磨きが重要です。唾液の分泌が減る夜間に歯垢が育ち、起床時の歯のベタつきの原因となります。食後に磨いている人が多いと思いますが、朝については食事の前、起床時に磨くことが重要です。
    歯垢は軽くこするだけで簡単に取れますが、ブラシの届かない歯と歯茎の隙間に潜んでいるため、フロス(糸ようじ)や歯間ブラシを併用することが必要です。残った歯垢が歯石に変わると歯磨きでは取れなくなってしまいます。個人のケアだけでは限界があるので、自信のある方でも半年に一度を目安に歯科で衛生状態や噛み合わせを診てもらうなど、定期的にメンテナンスを受けましょう。

    ●肺炎の予防には、風邪や歯周病の予防と、喉や舌の運動が大切
    ●寝室の冷えと乾燥に注意。室温20度以上、湿度40~60%が目安
    ●肺炎球菌やインフルエンザのワクチンも忘れずに
    ●寝る前と朝食前の歯磨きと、歯科の定期受診を

佐々木欧(ささき・おう)

医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。

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