欧先生の診察室

会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。

2020.09.08

高血圧、何に気をつければ?

  • 健康診断で高血圧を指摘された、Mさん(58歳、女性)。
    特に症状はなく、学生時代は低血圧だったので、寝耳に水という様子で相談にやってきました。片頭痛で長らく通っていましたが、閉経後は落ち着いており、しばらくぶりの来院となりました。

    高血圧、何に気をつければ?
  • 静かな殺し屋、高血圧

    高血圧は、サイレントキラー(静かな殺し屋)とも呼ばれます。めまいや頭痛などを伴うこともありますが、ほとんどの場合は無症状です。放置していると動脈の硬化を伴って徐々に進行し、やがて心筋梗塞や脳梗塞といった、脳心血管系の重大な病気を引き起こします。そうして気づいた時には動脈硬化が全身の血管にわたって進んでいます。硬くなった血管を元に戻すことはできませんので、地道な予防が大切です。
    高血圧の影響について、九州大学が福岡県の久山町で行った研究調査を紹介します。1961~1993年に検診を受けた住民で脳心血管系の疾患のない方を追跡して、未治療の血圧と脳卒中の発症との関係を調べました。図の通り、血圧が高いほど脳卒中の危険が高いことがわかります。

  • 脳卒中とは

    脳卒中を大別すると、脳梗塞といって脳血管が詰まるものと、くも膜下出血のように、動脈瘤が破裂するなどして脳出血するものとがあります。脳出血のほうが即死のリスクが高いのですが、脳梗塞も詰まる部位によって症状や深刻度が大きく異なり、処置が間に合わずに命を落とすこともあります。また、軽症で済んでも麻痺などの後遺症が残って生活状況が一変することも多く、とてもやっかいな病気です。

    グラフ
  • 塩分の摂りすぎが大部分

    日本の高血圧の患者さんは約4300万人と推計されており、国民の1/3を占める生活習慣病です。その大部分は本態性高血圧と呼ばれるもので、食生活や遺伝的体質などの複合的な要因で起こりますが、とりわけ塩分の摂とりすぎによることが多いです。近年、若年~中年の男性では肥満に伴った高血圧の方が増えています。女性の場合、閉経期に女性ホルモンの低下に伴って高血圧を発症する人も多いです。元々は低血圧で自分は無縁だと油断していて、健康診断を受けていないと見過ごされがちなので注意が必要です。

  • 隠れた原因のある、二次性高血圧

    二次性高血圧といって、食生活などとは別の特定の原因によって起こる高血圧もあります。甲状腺や副腎といった血圧の調節に関わるホルモンの異常や、睡眠時無呼吸症などに伴って引き起こされるものです。二次性高血圧には降圧薬が効きにくく、根本に隠れている病気に対する治療が必要です。

  • 見直された目標血圧

    従来のガイドラインでは、75歳未満で合併症のない一般成人の目標血圧を140/90mmHg 未満としていました。しかしながら、厳格な血圧コントロールを目指した方が、脳心血管系の病気の発症率が低いという報告が国内外から蓄積されてきたのを受けて、2019年に130/80mmHg未満へと引き下げられています。
    血圧は一日の中でも変動して、体が活動を始める起床後が最も高く、夕方から夜にかけて下がってくるのが一般的です。寒いと上がりやすくなるなどの季節性の変動もみられます。

  • 血圧は、徐々に下げる

    目標値へは、数カ月かけて徐々に到達することを目指します。高血圧の状況に体が適応してしまっているので、血圧を急に下げすぎると、めまいなどの副作用が出やすいためです。また、肝機能障害や腎機能障害といった副作用が出ていないか採血検査で確認しながら調節します。血圧が下がらず、すぐに効果がみえないと思っても、治療を続けることが大切です。また、お薬だけではなく、塩分を控えるなどの生活習慣の見直しが何より大切です。

  • 減塩と禁煙が大事

    高血圧の治療にはお薬だけではなく、減塩と禁煙がとても大切です。禁煙を数年続けると、脳心血管系疾患での死亡リスクが減少し始めるという報告があります。また、動脈硬化が進んでいない早期であれば、生活習慣の見直しで治療を減らしたり、卒業できる場合もあります。高血圧の方は塩分6g未満が推奨されていますが、2017年の日本人の平均塩分摂取量は9.9g/日で諸外国と比較しても多く、かなり減らす必要があります。

  • 溶け込んでいる塩分に要注意

    塩分は、液体に溶けていると気づかないうちにたくさん摂ってしまいます。味噌汁1杯には塩分が約1.2g含まれるので、1日1回までに留めましょう。ラーメンのスープを残すだけでも2~3gの減塩になります。醤油は直接かけないで、小皿にとって付けて食べると良いです。
    ソーセージやハムといった加工食品は塩分が多いので、摂りすぎないように注意が必要です。新鮮な食材を選んで素材そのものの味を生かして、薄い味付けでも楽しめるように、徐々に舌を慣らしてゆきましょう。醤油や塩を、酢や出汁といった別の調味料に置き換える工夫もお勧めです。

  • 管理栄養士ともチームを組んで

    高血圧をはじめとした生活習慣病の治療には、本来は薬の選択以前に、患者さんごとに日々の食事の全体像を把握して、それに基づいて食生活の行動変容を促すことが大切です。それには主治医だけではなく、担当の管理栄養士とも一緒にチームを組めるとより一層効果的です。
    私の勤務しているクリニックの外来では、管理栄養士さんと一緒に診療しています。診察室では聞き出せなかった食生活の様子が、管理栄養士さんを経由してわかることが多く、会話のチャンネルが違うのだなぁといつもありがたく思っています。
    現状では、管理栄養士の在籍しているクリニックはごく少数です。予防の観点からの取り組みがもっと普及して、多くの人に門戸が開かれることを願っています。

  • 閉経がきっかけだったんですねと納得した表情で話を聞いていたMさん。好きだったお漬物を減らすことから始めてみますと言いながら血圧手帳を受け取って、栄養指導の予約を入れて帰ってゆきました。

佐々木欧(ささき・おう)

医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。

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