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欧先生の診察室

会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。

2020.06.09

白内障とはなあに?

  • 糖尿病と花粉症で通院中のN さん(60歳、男性)。健康診断で白内障を指摘されて眼科にも通い始めたことを、定期受診の際に話してくれました。眼のかすみがひどくなっていたのは老眼かと思っていたこと、悪化予防について何かできることがないか、相談を受けました。

    白内障とはなあに?イラスト
  • 白内障は、年齢を重ねるにつれて誰しも大なり小なり起こる老化現象です。早い人では40代から始まり、80代では大部分の人に見られることが知られています。進行速度には個人差がありますが、紫外線や放射線、目をこすることなどによる外傷、ぶどう膜炎といった眼に炎症を起こす病気や、糖尿病、薬の副作用などによっても進行が早まることが知られています。
    白内障は、黒眼の部分の奥にある水晶体が白~黄色く濁るために起こる病気です。作りが似ているので、眼をカメラになぞらえて説明します。白内障で問題となる水晶体は、カメラのレンズに相当する部分で、眼に入る有害な紫外線をカットするフィルター機能と、視覚映像のピントを合わせる機能を担っています。
    水晶体は凸レンズの形をしていて、中身は流動性のあるゼリー状のたんぱく質でできています。水晶体を収めた袋の外周をぐるりと囲むように、チン小帯という腱を介して毛様体筋がついています。この筋肉の伸縮によって水晶体の厚みが変化して、近くを見るときには厚く(下図の黒塗り)、遠くを見るときには薄いレンズ(下図の赤市松模様)となって、無意識のうちにピントを調節しています。これはカメラの望遠レンズが、ピントを合わせる際に伸縮するのと似ています。

  • 図
  • 白内障になると、水晶体のレンズ内部が白~黄色く濁ってくるために、曇りガラス越しにみる風景のように、物の輪郭がぼやけてかすんできます。近くだけがぼやける老眼とは違い、近くも遠くも同様に見えにくくなってゆく病気です。色調については、青や緑などの寒色系がわかりにくくなり、視界が赤や黄色といった暖色系に偏ってくるのですが、年の単位で徐々に進行するため、色合いの変化に気づかないこともあります。
    印象派を代表するフランスの画家クロード・モネも、晩年白内障に悩まされていたことが知られています。アトリエのある自宅に池を掘り、本格的な庭造りも嗜んでいたモネの代表作の中に、睡蓮の浮かぶ池と、そこに架けられた緑の太鼓橋を描いた絵画の連作があります。被写体となったモネの庭は、パリ郊外ノルマンディー地方のジヴェルニー村に今なお残っています。
    60歳頃に描かれた『睡蓮の池1900(シカゴ美術館所蔵)』では、明暗のコントラストが奥行きを深め、透明感のある水面に映る樹々の表情までゆたかに描かれているのに対して、同じ構図で80歳頃に描かれた『日本風太鼓橋1918~24年(アサヒビール大山崎山荘美術館所蔵)』では、輪郭が不鮮明で遠近感を失い、黄色や赤の暖色系を多用して描かれており、白内障による視覚の変化が反映されているといわれています。
    白内障で失明の危機に瀕したモネは、82歳で右眼の手術を受け、手術は成功しましたが、当時の技術では視覚は充分には回復しなかったようです。視覚の減衰という、画家にとっては致命的ともいえるハンディキャップを抱えても、生涯にわたって絵を描き続け、遂には抽象的な作風へと昇華したモネの生命力が、その力強い筆致にも刻まれているように思いました。

  • 白内障の予防と治療

    白内障は、点眼薬や飲み薬によって進行を遅らせることができる場合がありますが、一度濁ってしまった水晶体を元に戻すことはできません。花粉症での眼のかゆみや糖尿病など、白内障を悪化させる要因がある場合には、それぞれの治療をして進行を遅らせることが大切です。日差しの強い時期にはアスファルトの照り返しを帽子だけでは防げませんので、サングラスをして紫外線から目を守ることが大切です。白内障になっていない方でも若年からの予防が大切です。透明レンズのサングラスもありますので、ぜひとも使ってみてください。
    白内障の症状が進んで見えにくくなっている場合には、濁って硬くなった水晶体を手術によって取り除き、代わりに樹脂製の人工レンズを眼の中に留置することが一般的です。
    通常の手術の方法は、局所麻酔剤の目薬で麻酔を行ったのちに、黒眼と白眼の境目のあたりを3ミリほど切開してストロー状の器具を挿入し、濁った水晶体を超音波でこまかく粉砕しながら吸引して取り除きます。その後に同じ穴から、水晶体の入っていた袋の中へと、細長く筒状に折り畳まれた状態の人工レンズを挿入します。傘を広げるように人工レンズが広がって、眼の中で固定して完了します。手術時間は、15~30分程度で、外来の日帰り手術で行われることもあります。
    人工の眼内レンズにはフィルター機能も備わっており、有害な紫外線を除いてくれます。手術後は青などの寒色系の光を多く感じるようになるため、見え方に違和感を感じることがあります。そういった色合いの不自然さを調節した、着色された眼内レンズを選択することもできます。
    ピントを合わせる機能については、現時点で保険診療で使用できる眼内レンズは単焦点レンズといって、近くか遠くかのどちらか一点を選んで、見えやすい位置を設定する必要があります。保険適応外ではありますが、多焦点レンズといって、近くから遠くにかけて複数箇所に幅をもって見えやすい位置を設定する試みもされています。
    眼内レンズの種類による見え方の調節には一長一短ありますので、眼科の先生とよく相談しながら選択することが大切です。

  • 定年を迎えて飲み会の頻度が減り、糖尿病のコントロールがようやく改善してきたN さん。花粉症の眼のかゆみには慣れっこになっていて、抗アレルギー薬の目薬をさぼりがちだったと思い当たる節があり、来シーズンからは気をつけますと反省していました。度付きのサングラスもあると聞いて、早速メガネ屋さんを覗いてみますと言いながら、明るい表情で帰ってゆきました。

佐々木欧(ささき・おう)

医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。

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