欧先生の診察室

会員誌『カラフル』にて連載のコラム。
日々の暮らしの中で気になる症状や、季節の変わり目のお悩みに
佐々木欧先生がやさしくアドバイスしてくれます。

2019.12.10

今年もインフルエンザにかかったみたいです

  • 毎年よくインフルエンザにかかってしまうというNさん(65歳、男性)。予防接種についての相談がありました。

    今年もインフルエンザにかかったみたいです
  • Q.ワクチンを打っても、インフルエンザにかかったことがあります。効果はあるのでしょうか?

    A.重症化をかなり抑えられます。

    インフルエンザワクチンは、発病を完全には予防できませんが、重症化を予防することができます。65歳以上を対象とした国内の研究では、34~55%の発病を予防し、82%の死亡を阻止する効果がありました(平成11年度、インフルエンザワクチンの効果に関する研究)。とくに重症化した場合の死亡のリスクの高い65歳以上のかたや、心臓、腎臓、呼吸器系の慢性疾患を治療中のかたなどは受けておくことがおすすめです。

  • Q.どうして毎年打たないといけないのですか?

    インフルエンザウイルスは、毎年少しずつ形を変えて流行るため、ワクチンも予想を立ててつくられています。近年の国内外の流行状況としては、A型2系統(2009年に流行した新型と従来型)、B型2系統のウイルスが混合して流行しています。これを受けて、ひとつのワクチンの中にA型2種類、B型2種類、合計4種類が含まれています(4価ワクチンといいます)。

  • Q.いつごろ受けるのがよいですか?

    A.11月中がおすすめ

    インフルエンザワクチンは、例年10月上旬から供給が始まります。ワクチンを打ってから効果が出るのに数週間必要で、3~5カ月間効果が持続するとされています。ワクチンは流行期(12~3月)に入る前に、遅くとも12月中旬までには受けましょう。回数については、健康な成人の場合、1回の接種で十分であると世界的にもいわれています(WHOの推奨より)。

  • Q.予防に加湿器はどうでしょうか?

    A.湯沸かし方式のものがおすすめです。

    インフルエンザウイルスは乾燥しているほど感染力が高まるため、加湿が予防に有効です。加湿器を使う場合、湯沸かしの原理でスチーム状に蒸気を放出するものが衛生的でおすすめです(電気代と、火傷に注意)。霧状に蒸気を放出する超音波方式の加湿器は、動作音が静かでデザイン性にも優れているものが多いのですが、内部でカビなどの雑菌が繁殖してしまい、呼吸器系の病気をひき起こすこともありますので、個人的にはあまりおすすめしません。手洗い・うがいでの予防もあわせて行いましょう。

  • Q.市から肺炎の予防接種の案内がきていますが、受けたほうがよいでしょうか?

    肺炎球菌ワクチンの予防接種のご案内ですね。65歳以上を対象として、2014年から定期予防接種に加わりました。お住まいの市町村から費用を補助するご案内が郵送されてくる場合があります(65歳、70歳など5歳ごと)。慢性疾患のある方は受けておくことがおすすめです。ワクチンの効果は5年間のため、5年ごとに打ち直す必 要があります。

  • Q.インフルエンザワクチンと、どちらが先がよいですか?

    流行時期が近づいている場合には、インフルエンザワクチンを先に受けるとよいです。1週間あけて順繰りに打つか、同じ日に限ってインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンとを、別々の場所に打つことも可能です。「日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方」によると、複数のワクチンを同じ日に受けても、各ワクチンの有効性には問題ないとされています(日本内科学会の「成人予防接種のガイダンス2016年改訂版」でも同様の見解)。ただし、ワクチンをクリニックに常備していないことも多いので、スケジュールも含めて主治医の先生とあらかじめ相談しておきましょう。

  • 風邪のひきはじめには十分に睡眠をとって体を休めて、早めに治せるように心がけましょうと追加のアドバイスをうけて、Nさんはワクチンの予約をして帰ってゆきました。
    次の患者さんは、高血圧で通院中のMさん(50歳女性)です。去年の冬にかかった、ひどい胃腸炎のことが話題になりました。

  • Q.ウイルス性胃腸炎はどんな病気ですか?

    冬場の嘔吐・下痢症状は、ウイルス性胃腸炎のことが多いです。特効薬はないので、胃腸を休めて対症療法で回復を待つ必要があります。代表的なものには、ノロウイルス、ロタウイルスなどがあります。嘔吐物や下痢の中にウイルスが含まれており感染源になります。家族内でうつらないように、胃腸炎症状がある時にはとくに、お互いにトイレ後の手洗いを心がけて、手拭きタオルや歯磨きのコップを共用しないようにしましょう。トイレが複数ある場合は、使用するトイレを分けることも有効です。嘔吐物などを片づける際には、使い捨てのマスクや手袋を装着しましょう。

  • Q.ノロウイルスの注意点はなんですか?

    ノロウイルスは、下水が流入する沿岸海域でとれた牡蠣貝などの二枚貝に多く含まれています。感染力が強く、少ないウイルス量でも感染してしまいます。冬季に流行しますが年間を通じて感染がおこりえます。ノロウイルスは、85~90度で90秒以上加熱すると死滅しますが、芯までその温度になっていなければいけません。天ぷらなどの場合も、中が半なまにならないように十分に加熱しましょう。また、肉を調理する時と同様に、調理中の手や、まな板などの調理器具を介して、他の食材へと病原体が広がらないようにも気をつけなければいけません。アルコール消毒は無効で、次亜塩素酸での消毒が必要です。

  • 去年は家族にもうつってしまってこりたので、しばらく牡蠣は避けますといってMさんは帰ってゆきました。

  • 冬は、心筋梗塞や脳梗塞といった、心臓血管系の病気が増えます。高血圧や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病のあるかたはとくに注意が必要です。朝の高血圧が危険信号ですので、朝寝床で血圧を測ってみましょう。寒冷刺激で血管が収縮すると血圧がさらに上がります。夜のトイレの際には足元が冷えないように室内履きを履いたり、一枚羽織ってトイレにゆきましょう。また、入浴前にも浴室や脱衣所をあたためておくなどの対策をして、冬を乗り切りましょう。

  • 今回のポイント:冬に増えるウイルス感染や、心筋梗塞・脳梗塞などの予防に

    ①  風邪はひきはじめの初動が大切。睡眠を十分にとりましょう。
    ② インフルエンザワクチンは、余裕をもって11月中に受けましょう。
    ③ ノロウイルスの予防に、牡蠣貝は中まで十分火を通しましょう。
    ④ 早朝高血圧は黄色信号。トイレや浴室の寒さに注意。

佐々木欧(ささき・おう)

医師。東大病院で長年アレルギーやリウマチ(膠原病)の診療に従事。
現在は秋葉原駅クリニックで内科全般の診療を手がけている。
生活のなかで実践できるセルフケアの開拓や患者さんの不安を軽くできる、やさしい医療を目指している。

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