年金コラム

2019.09.24

年金と他制度との支給調整について

 こんにちは社会保険労務士の土屋です。今回もみなさんにとって関心の高い年金についてお話しいたします。
今回は年金と他制度との調整についてとりあげて説明させていただきます。

雇用保険と年金との調整

 65歳前に受ける特別支給の老齢厚生年金と雇用保険の基本手当は両方受けることはできません。会社を退職後、住所地のハローワークに行き、求職の申込をすれば、翌月分から年金は受給停止になります。
 会社の倒産や解雇等の会社都合で退職した場合は求職の申込後7日間の待機期間をへて、基本手当を受給でききますが、転職等の自己都合での退職の場合、7日の待機期間に加えて、3ケ月間の待機期間後に基本手当を受けることになります。3ケ月の待機期間中も年金は支給停止になります。ただ、3ケ月の待機期間中は年金がまったく受けられなくなるわけではなく、基本手当受給終了後に基本手当を1日ももらっていない月の分の年金について2~3ケ月後に清算され支給になります。
 障害者特例や長期特例※1に該当する方は年金額の方が有利なケースもありますが、大抵の方は特別支給の老齢厚生年金の月額より基本手当の月の合計額が多いかと思います。どちらがいいか判断に困った場合はハローワークの窓口で基本手当の額を確認し、受給している年金額と比べてどちらか選択をしてもらえればよろしいかと思います。

※1:特別支給の老齢厚生年金の受給者の方が障害等級3級程度の傷病に該当するか、厚生年金の加入期間が44年以上ある方には、本来受けられない定額部分が支給されます。(ただし厚生年金から喪失することが条件です。)

 厚生年金の加入期間が1年以上ある方は、65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金を受けることになりますが、65歳からの年金は雇用保険の基本手当との支給調整はありません。たとえば、65歳になる半年前に会社を自己都合で退職した場合、ハローワークに休職の申込をすると翌月分から年金は支給停止になりますが、65歳から受ける年金は支給調整されず、全額受け取ることができます。
 会社には法律上65歳までの雇用義務がありますので、65歳まで継続雇用を続け65歳で退職する方や65歳以降もそのまま継続して働き続ける方も多いのではないかと思いますが、65歳以降に退職した場合、雇用保険から高年齢求職者給付金を受けることができます。手続きは退職後に会社からもらう離職票(2種)を住所地のハローワークに提出するだけで受けられます。受けられる額は5年以上の雇用期間がある方は給付日額(退職以前6ケ月間の報酬÷180×80~50%)の50日分が、5年未満の雇用期間の方は給付日額の30日分を受けることができます。しかも、高年齢求職者給付金を受け取っても年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)の支給調整はかかりません。
 雇用保険の基本手当を受けることになるのか、高年齢求職者給付金を受けることになるのかは、離職日(最後に会社に在職した日)が65歳の到達日の前日の前か後かによって決まります。離職日が65歳到達日前(65歳の誕生日の前々日以前)なら基本手当を受給できますが、離職日が65歳到達日以降(65歳の誕生日の前日以降)ならば高年齢求職者給付金の受給になります。高年齢求職者給付金の場合は手続き後一回での支給になりますが、基本手当の場合は先に説明した通り、3ケ月の待機期間や待機期間後28日毎にハローワークに認定を受けないと基本手当を受け取れませんので、よく検討をされどちらを選択するかを考える必要があります。ただ、会社との契約の問題がそもそもありますから、会社とも相談され、自分にとっていい選択を検討してもらえればいいかと思います。

【雇用保険の基本手当の所定給付日数】

本人の都合による離職の場合の所定給付日数(離職から1年の間に下記日数の基本手当を受給)

  被保険者であった期間
全年齢 10年未満 10年以上20年未満 20年以上
90日 120日 150日

【解雇・倒産等により、再就職の余裕がなく離職した場合の所定給付日数(離職から1年の間に下記日数の基本手当を受給)

  被保険者であった期間
60歳以上65歳未満 1年未満 1年以上5年未満 5年以上10年未満 10年以上20年未満 20年以上
90日 150日 180日 210日 240日

就職困難者(障害者等)(離職から1年の間に下記日数の基本手当を受給)

  被保険者であった期間
45歳以上65歳未満 1年未満 1年以上
150日 360日

高年齢雇用継続給付金と特別支給の老齢厚生年金との調整

 60歳定年退職後再雇用で定年後も同じ会社(または関連会社等)で働く方の中には、定年時の給与より50~80%に減額された給与で働く方は多いかと思います。定年時の給与に比べて再雇用後の給与が75%以下に低下した場合には、雇用保険から高年齢雇用継続給付金を受けることができます。
 この請求手続きは再雇用後の給与や勤怠を確認するための賃金台帳等が必要なため、会社が請求手続きをすることが多いですが、65歳になるまで再雇用後の給与の低下率に応じて、再雇用後の給与が定年時に比べて60%以下に減額された場合、再雇用後の給与の15%の高年齢雇用継続給付金を受けられます。
※60%~75%の低下率に応じて15%~0%の割合に応じて給付金が支給されます。
 ただし、この給付金を受給する特別支給の老齢年金の受給者で在職(厚生年金に加入)している方については、給付金の受給割合に応じて、再雇用後の標準報酬月額(給与の総支給額)の最大6%が支給停止になります。
【令和2年4月1日から64歳以上の方も雇用保険の保険料徴収】
 雇用保険の受給資格(週20時間以上の労働時間で30日以上の雇用見込みがある方)がある方でも4月1日時点で満64歳以上に到達している方については、雇用保険料は徴収をされず、徴収免除になっていますが、令和2年4月1日~年齢要件は撤廃され、年齢にかかわらず雇用保険の受給資格を満たす方については、雇用保険の保険料が徴収されます。

退職後の傷病手当金と老齢年金・障害年金との調整

 会社を私傷病で休職をしていて、会社から給与(休職手当含む)の支給がない場合には、健康保険から傷病手当金(休職前半年間の給与の平均日額の3分の2)を最大1年6ケ月間受けられます。会社に籍がある場合には会社が協会健保(または健康保険組合)に手続きをしてくれますが、退職後は自身で請求手続きをすることによって1年6ケ月までは引き続き受けることができます。ただし、年金を受給している場合には両方の給付を受けることができません。傷病手当金の額が老齢年金より多ければ、差額分が傷病手当金として支給されますが、65歳以降に受け取る老齢基礎年金+老齢厚生年金も同様の調整が行われますので、年金の支給額が傷病手当金より多い場合には請求をしても受け取ることはできなくなります。
 また、障害年金の請求をして、遡及して年金を受給できた場合についても同様に調整されることになり、傷病手当金の額が障害年金より多い場合に差額分が傷病手当金として支給されることになります。
 年金受給者の方で会社の休職期間が満了し、退職をする場合は上記の点を踏まえて、退職後のことを考える必要があります。
 また、病状の程度が障害等級の3級以上に該当しない場合でも障害手当金を一時金として受け取ることができますが、障害手当金を受け取った場合、その支給額が傷病手当金の額に達するまで、傷病手当金が支給停止になります。上記に該当する方は必ず傷病手当金を受け取っている保険者である協会健保または健康保険組合(共済組合)にその旨を伝える必要がありますので、注意が必要です。
 また、会社を退職後、あくまでハローワークの判断になりますが、病状の程度が労働の意思並びに能力があると認定されれば、離職日が65歳の誕生日の前々日以前なら基本手当の受給ができますし、65歳の誕生日の前日以降なら高年齢求職者給付金を受け取ることができます。もし、退職後働くことができないという場合には給付延長(1年~3年)という手続きも可能ですので、該当する方はハローワークの窓口で相談いただければと思います。

年金と労災との調整

 労働者が就労中の業務が原因となって発生した災害や通勤中による事故で傷病を負った場合、労災保険から給付を受けることができますが、同一の傷病で障害年金を受けることとなった場合、労災保険側で調整が行われます。

図表①

※障害厚生年金・障害基礎年金の支給事由となっている傷病と、労災保険の支給事由となっている傷病と別傷病による障害の場合は併給調整の対象外で、労災保険は減額支給されず、満額支給されます。ただし、例外的に「20歳前障害基礎年金」だけは、労災保険の支給事由となった傷病と別傷病による障害(先天性など)であっても、労災給付を受給する期間は障害年金が支給停止されますし、同一傷病であれば、労災保険が優先支給され、障害基礎年金は全額支給停止されます。
 ※労災保険が減額される場合でも、それに付随して支給される特別支給金は労災保険ではなく、労働福祉事業として支給されるものである為、減額されず満額支給されます。

終わりに

 今回お話した以外にも年金と他制度の調整はあります。該当する方は年金事務所や市区長村の担当窓口や専門家である社会保険労務士にご相談いただければと思います。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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