年金コラム

2018.05.22

「れいこ先生のやさしい年金」(9)年金額の改定

特別支給の老齢厚生年金を受給しながら65歳まで厚生年金に加入して働くと、厚生年金の保険料を毎月納めることになります。その保険料はいつどのように、今受給している年金に反映するのでしょうか?

今回は、特別支給の老齢厚生年金を受給しながら厚生年金に加入して働く人からの質問です。

《 質 問 》

私は、昭和30年1月10日生まれの男性で現在63歳です。61歳から特別支給の老齢厚生年金を受給していますが、再雇用(フルタイム・厚生年金加入)で引き続き働いています。最近気付いたのですが、年金の受給開始から2年以上経っているのに年金額が少しも増えません。65歳まで厚生年金に加入して働くつもりですが、年金はいつから、いくら位増えるのでしょうか?

【61歳時点での加入月数】 厚生年金加入 432月(25歳~61歳)
【再雇用での給料・賞与の額】 給料20万円・賞与なし
【年金額】         特別支給の老齢厚生年金 報酬比例部分 120万円/年

《 回 答 》

1.年金額改定のタイミングはいつ?

特別支給の老齢厚生年金は、受給開始年齢に到達した月の前月までの厚生年金加入期間に基づいて計算されます。相談者は年間120万円の報酬比例部分を受け取っているとのことですが、相談者の受給開始年齢は61歳でしたので、この年金額は60歳11ヵ月までの間の厚生年金加入期間に基づいて計算された額となります。

さて、相談者は61歳以降も厚生年金に加入していますが、この期間はどのように年金額に反映するのでしょうか?
報酬比例部分の額は、平成15年4月以後の期間については、
「平均標準報酬額×5.481/1000×厚生年金被保険者月数」で計算されます。
この式を見ると、ひと月厚生年金に加入するごとに被保険者月数が伸びるので、年金額も毎月少しずつアップするように思われます。しかし、実際にはそのようにはなりません。
年金受給開始後に加入した期間は、毎月毎月増額されてゆくのではなく、一定の期間をまとめて年金額の増額が行われます。この年金額がまとめて増額改定または裁定される時期は決められており、次のようになります。(図1参照)

図1 年金額の改訂または裁定される時期

① 65歳裁定
特別支給の老齢厚生年金は受給権者が65歳に到達すると失権します。65歳到達以降は新たに本来支給の老齢厚生年金の受給権が発生します。これを「65歳裁定」といいます。65歳裁定時においては、特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生した月から、64歳11ヵ月までの間の厚生年金の加入期間をプラスしたすべての厚生年金被保険者期間で、本来支給の老齢厚生年金が裁定されます。

つまり、特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生した後、引き続き働いて厚生年金の被保険者期間を積み重ねても、働き続けている間は年金額の改定はおこなわれません。この場合は、65歳に到達して新たな年金の受給権が発生することを契機に、特別支給の老齢厚生年金の受給権発生から65歳到達までの加入期間分が年金額に反映して増額されます。

② 退職時改定
特別支給の老齢厚生年金の受給権発生月以降から65歳到達までの間に退職した場合や、65歳到達月以降70歳到達までの間に退職した場合は、資格喪失月の前月までの期間を基にして、「退職時改定」が行われます。

退職時改定の時期は、退職日から起算して1ヵ月を経過した日の属する月(=退職日の属する月の翌月)になります。ただし、退職日の翌日から起算して1ヵ月を経過する前に再就職して同じ種別(一般厚年・公務員厚年(国共済厚年・地共済厚年)・私学厚年(私学共済厚年))の厚生年金に再加入した場合、改定は行われません。

③ 70歳到達時の改定
厚生年金の被保険者資格は、70歳に到達した日(誕生日の前日)に喪失します。ここで最後の年金額の改定が行われます。65歳到達月以後も引き続き厚生年金に加入していた場合は、69歳11ヵ月までの保険料の納付実績と被保険者月数に応じて年金額が増額します。

◆ 相談者の場合は・・・
相談者の場合は、65歳まで引き続き厚生年金に加入するとのことですので、①65歳裁定により、年金額が増額します。

2.どの年金が増額するのですか?

相談者が65歳に到達すると、年金は(図2)のようになります。
65歳以後の老齢厚生年金は、報酬比例部分+経過的加算額(①+②)となり、新たに老齢基礎年金の受給権も発生します。

図2

3.増額される年金額はいくら位になりますか?

① 報酬比例部分相当額

増加される年金額は次の計算式で概算額が計算できます。

受給権発生月以降の増加額=平均月収(賞与含む)×0.00518*×受給権発生月以降の厚生年金被保険者月数
*0.00518=0.945(再評価率)×5.841÷1000

(注) 再評価率とは、平均月収を算出する際に時代によって大きく異なる貨幣価値を調整するための率です。例えば、大卒の初任給の平均額は2012年では約20万円前後ですが、30年前は11~12万円でした。そのままの給与額で年金額を算定すると世代によって年金額が少なくなってしまいます。このような不合理をなくすために再評価率は設定されています。

◆ 相談者の場合は・・・
相談者は61歳で特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生したので、65歳での増加額は20万円×0.00518×48月=49,728円となります。
65歳からの支給額は、1,200,000円+49,728円=1,249,728円です。

② 経過的加算額

● 経過的加算額とは
かつて特別支給の老齢厚生年金には、報酬比例部分と定額部分がありました。65歳に到達すると報酬比例部分相当額は老齢厚生年金として、定額部分は老齢基礎年金として新たな年金が裁定されました。

ところが、 定額部分>老齢基礎年金 となるケースがあるため、このままでは65歳を境に年金額が下がってしまうケースが発生するので、65歳以後の老齢厚生年金には「経過的加算額」の加算により年金額の調整を行っています。

差額が生じる主な原因としては、老齢基礎年金の年金額の計算に算入されない厚生年金の期間があることがあげられます。具体的には、20歳前および60歳以後の厚生年金の加入期間で、この期間は老齢基礎年金においては保険料納付済期間ではなく、合算対象期間として取り扱われます。合算対象期間は老齢基礎年金の受給資格期間には算入できますが、老齢基礎年金の額には反映しません。ただし、厚生年金の被保険者月数が480月までを上限として、老齢厚生年金の経過的加算額として反映します。

事例で説明してみましょう。厚生年金に18歳から58歳まで加入したAさんは、国民年金の第2号被保険者として40年加入したことになります。老齢基礎年金の額は40年の加入で満額になるはずですが、この場合は満額になりません。その理由は、20歳未満の期間は国民年金の加入期間ではありますが、保険料納付済期間にはならないからです。

もしAさんが、60歳以後2年間厚生年金に加入したとすればどうでしょう?やはり満額にはなりません。60歳以上65歳未満の厚生年金加入期間は国民年金の第2号被保険者になりますが、老齢基礎年金においては保険料納付済期間とはならず合算対象期間になるからです。(図3参照)

図3

生年月日により定額部分が支給されない人もいますが、計算上差額が生じる場合は、65歳から経過的加算額が加算されます。

● 経過的加算額の計算
経過的加算額
=定額部分相当額(1625円×厚生年金被保険者月数)-779,300円×昭和36年4月以降で20歳以上60歳未満の厚生年金被保険者月数/480月

受給権発生月以降の増加額=1,625円×受給権発生月以降の厚生年金被保険者月数
(注)厚生年金被保険者月数は、厚生年金の種別(一般厚年・公務員厚年(国共厚年・地共厚年)・私学厚年)ごとに480月が上限。

定額部分相当額の計算に使用する厚生年金被保険者月数には480月の上限があります。そのため、厚生年金被保険者月数が480月を超えている場合は、受給権発生月以後に厚生年金の加入期間があっても経過的加算額は増額しません。厚生年金被保険者月数が480月に満たない場合は、480月に達するまでの期間について経過的加算額は増加します。

◆ 相談者の場合は・・・
65歳から98,113円(20,113円+78,000円)の経過的加算額が支給されます。

61歳時点での額:1,625円×432月-779,300円×420月(25歳~60歳)/480月=20,113円
61歳以後の増加額:1,625円×48月(61歳~65歳)=78,000円

③ 老齢基礎年金

厚生年金被保険者期間のうち、20歳未満の期間と60歳から65歳未満の期間は、国民年金の第2号被保険者期間ですが、合算対象期間となるため、老齢基礎年金の額には反映しない期間となります。

その理由は、国民年金の第1号被保険者や第3号被保険者には20歳以上60歳未満という年齢要件があり、40年間しか保険料を納付することができません。国民年金では、すべての被保険者が等しく国民年金の保険料納付済期間を40年とすることで、制度の公平を図っています。そのため、厚生年金の加入期間も20歳以上60歳未満の間のみを保険料納付済期間としています。

◆ 相談者の場合は・・・
相談者の場合も老齢基礎年金の額については、60歳までの厚生年金の加入期間に基づいて計算しますので、779,300円×420/480月=681,887円となります。

社会保険労務士
原令子
株式会社JEサポート代表取締役
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