年金コラム

2018.03.27

遺族厚生年金について

 こんにちは社会保険労務士の土屋です。今回もみなさんにとって関心の高い年金についてお話しいたします。今回は遺族年金について最近の相談事例から取り上げて説明させていただきます。

相談事例(遺族厚生年金と老齢年金の選択と併給の関係)

 山田華子さん60歳(昭和33年2月2日生まれ)は夫(在職中厚生年金加入)を10年前に病気で亡くされ、遺族厚生年金(夫の死亡時二人の子は成人していましたので、遺族基礎年金の受給はなし)を受給しながら、厚生年金に加入して働いていました。勤務する会社は満60歳で定年退職となりますが、65歳までは再雇用で継続雇用されます。給与は定年時の70%程度になりますが、雇用保険から高年齢雇用継続給付金も受給できます。
 今日は、昨年日本年金機構から送付された年金請求書を提出する為に、自宅近くの年金事務所に予約をとって相談にいきました。年金事務所の相談員からは、65歳までは老齢年金か遺族年金かの選択受給になること、結果として受給額の多い遺族年金を選択し、その間老齢年金(特別支給の老齢厚生年金)は支給停止になることを説明され、老齢年金の請求書と選択届を提出し受理されました。ただ、65歳になると遺族厚生年金の額が大幅に減額になること、また、65歳からは選択ではなく自分の老齢年金が優先的に支給される旨の説明を受けましたが、今一つよく理解できないまま年金事務所を後にしました。

解説
●遺族厚生年金を受けられる人とは

 年金は受給資格を満たしていないと受給できません。遺族厚生年金を請求できる方は、死亡した方に生計維持されていた①配偶者・②子・③孫・③父母・④祖父母にあたる方で、優先順位があります。(配偶者が請求者なら②以降の方は請求できません。配偶者がいなければ②の子が請求、②の子がいなければ③の孫が請求という順になります。)なお、妻には年齢制限はありませんが、配偶者が夫の場合や父母・祖父母が請求者の場合には55歳以上でないと請求する権利がない上に、請求後年金受給は60歳からになります。また、子・孫が請求者の場合には満18歳未満であることが条件になります。また請求者の収入要件も問われます。(年間収入850万未満(または年間所得655.5万円未満))。
 上記の資格を満たした上で、死亡した方が下記の要件を満たすことが必要です。

A ①受給資格期間が25年以上あって老齢厚生年金を受給している人、又は老齢厚生年金の受給資格のある人が死亡したとき(Aを長期要件といいます。)
 ※平成29年8月施行の10年以上25年未満の加入期間で受給している方が死亡した場合は遺族厚生年金の支給対象にはなりません。

B ①厚生年金加入中に死亡したとき(在職中の死亡)
 ②厚生年金加入中に初診日があり、退職後、その病状が悪化して初診日から5年以内に死亡したとき
 ③障害厚生年金1、2級を受給している人が死亡したとき(Bを短期要件といいます。)

 長期要件と短期要件のどちらにも該当する場合には原則長期要件での支給となりますが、短期要件の方が有利な場合(後で説明する中高齢寡婦加算が加算されるような場合等)には短期要件での支給も可能となっています。

●65歳からは老齢厚生年金が優先支給

 さて、それでは華子さんの例を見てみましょう。華子さんの生年月日の方(昭和33年4月1日生まれまでの女性)は厚生年金の加入期間が1年以上あれば、60歳から特別支給の老齢厚生年金を受給することができますが、老齢年金の受給権発生時に他の年金(障害年金や遺族年金)を受給している場合は、65歳までは一つの年金を選択受給していただくことになります。

※昭和33年4月2日生まれ以降の女性の方から厚生年金の加入期間が1年以上あっても年金支給は61歳からと段階的に支給開始年齢が引き上げられます。

 そして、65歳になると老齢年金(特別支給の老齢厚生年金)は老齢基礎年金と老齢厚生年金に年金が切り替わることになりますが、遺族年金と老齢年金の受給権を持つ方の場合は、ご自身の選択ではなく、下記の図(65歳~)の通りその方にとって一番有利な受給の仕方が自動選択される仕組みになっています。
 平成19年からはご自身の老齢厚生年金を優先して支給するいわゆる「先あて」という仕組みになっています。平成19年以前は65歳以降についても①老齢厚生年金、②遺族厚生年金、③老齢厚生年金の2分の1+遺族厚生年金の3分の2の中で一番自分にとって有利な年金額を選択する方式でした。その為、若くして遺族年金を受給する女性の方の中には「遺族年金を一生受給することになるなら、自分が厚生年金に加入をしても自分の老齢厚生年金を受給できないことになるから、厚生年金保険料は結果的に掛け捨てになるのではないか」という声もあり、65歳以降は先に説明した①②③の受給額のなかで、その方にとって一番有利な受給方法を国が選択して受給する仕組みに改正されました。
 65歳時の請求手続きは、年金事務所等にいかなくても、送付された65歳の誕生月に送付される「65歳裁定葉書」に自分の名前・住所等を記入・捺印し、日本年金機構宛に発送するだけで終了です。

●中高齢寡婦加算は65歳で終了

 また、華子さんの遺族厚生年金には中高齢寡婦加算という年金(請求者が妻の場合のみ対象)が65歳になるまで加算されています。中高齢寡婦加算は、長期要件での受給の場合は死亡した方の厚生年金が20年以上ある場合に加算されます。死亡した方の厚生年金が20年未満であっても短期要件の場合には加算されます。短期要件の場合、死亡した方の厚生年金の加入期間が25年に満たない場合には25年あったものとして計算され、さらに中高齢寡婦加算も加算されますので、ケースによっては短期要件の方が受給額が多いということがありえます。
 また、中高齢寡婦加算は死亡時に妻が40歳を超えているか、または遺族基礎年金受給終了時(遺族基礎年金受給対象となっている子がすべて満18歳に到達する年度末終了時)に40歳を超えていれば、その時点から65歳になるまで加算されます。
 中高齢寡婦加算(584,500円)は遺族厚生年金の受給者が65歳になり、自身の老齢基礎年金が受給できるまでのいわゆる「つなぎの年金」といえる制度です。年金額は老齢基礎年金の満額(779,300円)の75%の額です。遺族年金は死亡した配偶者のもらうはずだった老齢年金の75%を支給する仕組みになっていますので、中高齢寡婦加算も同様の考えに基づき支給されているようです。
 華子さんの場合、夫の死亡時に40歳を超えていましたので遺族厚生年金に584,500円の中高齢寡婦加算が加算されていますが、華子さんは65歳以降は老齢基礎年金が受給できるようになり、中高齢寡婦加算は支給停止になりますので、その分遺族厚生年金の受給額が減額になります。老齢基礎年金(満額779,300円)は国民年金保険料の納付月数(第3号被保険者期間含む)に応じた年金額ですので、30年以上の加入期間(第1号・第3号被保険者期間)があれば、65歳以降も中高齢寡婦加算とほぼ同程度の受給額となるわけです。

●昭和31年4月1日以前生まれの方は65歳から経過的寡婦加算を受給

 昭和31年4月1日以前生まれの遺族厚生年金の受給者の場合も65歳で中高齢寡婦加算は支給停止となりますが、65歳以降には経過的寡婦加算(584,500円~19,507円)が支給されます。
 昭和31年4月1日以前生まれの方は、基礎年金ができた昭和61年4月1日時点で既に満30歳に到達しています。したがって、昭和61年4月1日以降は年金制度への加入は強制になりましたが、厚生年金の被保険者の被扶養者は昭和61年3月までは国民年金への加入は任意加入でしたので、専業主婦の方の場合昭和61年4月~60歳になるまで30年間の加入をすることができないケースがでてきます。その為に中高齢寡婦加算を受給していた遺族厚生年金の受給者(昭和31年4月1日以前生まれ)については、65歳で中高齢寡婦加算を終了するかわりに経過的寡婦加算という加算制度が用意されています。
 逆に昭和31年4月2日生まれ以降の遺族厚生年金の受給者の方は、基礎年金制度ができた昭和61年4月1日以降に満30歳となり、昭和61年4月~60歳到達までは30年以上の期間がありますので、最大で30年間年金への加入期間は確保できます。そのような方に65歳以降も経過的寡婦加算のような補填は必要ないという考えに基づいているのです。

昭和31年4月1日以前生まれの方は65歳から経過的寡婦加算を受給

●最後に

 未納期間や免除期間がある為に老齢基礎年金の受給額が満額(平成29年度:779,300円)に満たない方は、60歳~65歳の間高齢任意加入という手続きをして、最大65歳まで国民年金の保険料を納付すれば、老齢基礎年金の額を増額することができます。また、過去に国民年金の保険料を免除した免除期間についても、手続きをしてから10年経過するまでの間であれば追納(遡及して免除された期間の保険料を納付)することも可能ですし、5年前の未納期間についても、平成30年9月までの時限措置ですが、納付することもできます。思い当たる方は年金事務所や市区町村の国民年金課でご相談ください。

※年金の受給可否・金額については、個々の年金加入歴・時期等による条件によって異なります。
詳細は年金事務所や市区町村の国民年金課にてご確認ください。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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