年金コラム

2010.04.07

「未支給年金」について

こんにちは社会保険労務士の土屋です。今回は「未支給年金」ついてお話しさせていただきます。

「未支給年金」はかならず発生する

年金は支給すべき事由が生じた月の翌月分から支給が開始され、権利が消滅した月まで支給されます。また、年金は支給停止事由に該当した場合には、その支給を停止すべき事由が生じた月の翌月から、その事由が消滅した月までの間は、支給されません。
支給すべき事由とは、老齢年金でいえば「25年以上の資格期間のある人が60歳に達したとき」や「60歳以上の人が資格期間を満たしたとき」等が該当します。一方、権利が消滅した月とは、老齢年金でいえば「受給権者本人の死亡」等が該当します。年金の支給は2ケ月に1回偶数月(2月、4月、6月、8月、10月、12月)に支給されます。また、年金は後払いですから、4月に振り込まれる年金は、前2ケ月分(2月分と3月分)ということになります。

  • 事例A
    もし、ある受給権者が4月1日に死亡したとします。4月の年金の振込日は4月15日(もし振込日の15日が休日にあたる場合は翌日になります)です。受給権者が4月15日に生存していれば、そのまま受給権者本人の口座に前2ケ月分の年金が振り込まれるわけですが、15日の振り込み日には本人はもうこの世にはいませんので、受け取ることができません。では受給権者死亡後の年金はどうなるのかといえば、死亡時に死亡した受給権者と生計を同じくしていた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹がいれば、その方が受給権者に代わって受け取ることができます。
  • 事例B
    では受給権者が3月31日で死亡した場合はどうなるのかというと、支給される年金は2月・3月分が最後になります。3月で年金受給の権利が消滅しますので、事例Aと違い4月分の年金支給はありません。
    ただし、事例Aのケースと同様、4月15日の振込日には受給権者本人はこの世にはいませんので、本人が受け取ることはできません。4月の振込分は、先ほどの条件に該当する家族が「未支給年金」として受け取ることになります。
  • 事例C
    もし、受給権者の死亡が4月16日~30日の間なら、15日に振り込まれた年金は受給権者本人の年金として受け取れます。しかし、この場合であっても年金は後払いですから、4月に受給権が消滅しますが、消滅月である4月分の年金が残ることになりますので、4月分の年金が「未支給年金」になります。
    つまり年金は後払いで、偶数月の15日(休日にあたる場合は翌日)の支払いと決まっていますが、年金受給権の消滅は消滅事由が生じた月で、その月まで年金が支給されます。このずれがあるので、年金受給権者が死亡した場合には必ず「未支給年金」が発生するということになります。

※「未支給年金」の優先順位
「未支給年金」は、1:配偶者、2:子、3:父母、4:孫、5:祖父母、6:兄弟姉妹、の順に請求者になれます。配偶者が請求者になれば2以降の方は受け取れません。

生計を同じくとは

「未支給年金」を請求できるのは受給権者と死亡時に生計を同じくしていた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹だけです。生計を同じくしていたとは具体的にはなんですかというと、端的にはお財布が一緒であるかどうかということになります。具体的には世帯が一緒であること、つまりは住民票上一緒の世帯であるということです。住民票上一緒の世帯であれば無条件に生計を同じくしていたと認められます。ただし、様々な家庭の事情により、家族が離れて暮らしているということがあります。高齢の受給権者であれば受給権者が施設に入所していたとか、結婚し受給権者である親と離れて暮らしているが親の面倒をみているといった事情等です。こうした場合には生計を同じくしていたという第3者の証明をすることによって生計同一の関係が認められることになります。

最近では夫婦であっても別世帯にするケースや入籍をせずに事実婚を続けるケースもみられるようになっています。また、事実上の夫婦関係があるにも関わらず、配偶者の負債が及ばないように協議離婚をするケースもあります。住民票上同一世帯であれば、なにも問題がありませんが、兄弟が隣にすんでいても、また、同じマンションの隣であっても住民票上別世帯になっていれば、「未支給年金」を請求する場合には第3者の証明が必要になります。

昔であれば、町内会長さんや民生委員の方がこうした対応に応じてくれていましたが、隣近所同士の付き合い方も昔に比べれば希薄化しています。町内会長さんや民生委員だからといって、かならずしも隣近所のことを細かく知っているというわけではないので、依頼すること自体がためらわれるという状況もあるようです。また、受給権者の家族の方が、他人にそうした話しをできれば遠慮したいという世の中の雰囲気もあるのかもしれません。
年金手続きに関わると「遠い親戚より近くの他人」という言葉を肌で感じる思いがします。

また、すこし横道にそれますが、未支給年金の請求者になれる生計同一の家族とはそもそもなんなのかという問題もあるのではないかと筆者は思います。たとえば、老親の介護をしてきた子供の妻(お嫁さん、下記図参照)にはまったく権利がありません。下記のようなケースで、受給権者である老親の方に年金法で定める生計を同じくしていた家族がまったくいなければ、「未支給年金」は放棄することとなり、国庫に返納されることになります。すこし不合理な制度なのではないかと筆者が常々考える点です。

人が亡くなれば、当然ですが遺体を火葬し埋葬をしなければなりません。また、その方の家財道具の処分や住居の処理といった問題も残ります。まさに死ぬのにもお金がかかります。自分が最後に受け取るはずだった年金をそうした費用に使えるようにできれば、自分の最後をみとってくれた方の負担を軽減してあげられるのではないかと、亡くなった受給権者の方は思っているのではないかと思うのです。

「未支給年金」の手続きは

具体的な手続きについてすこし説明しましょう。受給権者が死亡した場合「未支給年金」(死亡届も兼用)の手続きには下記のような添付書類が必要です。

【添付書類】
・受給権者の年金証書
 紛失した場合には受給権者の基礎年金番号がわかるもの(年金手帳等)
 紛失等で添付できないときは事由を記載し、紛失の旨届け出る
・受給権者の死亡が明らかになる書類(除籍謄本、除票等)
・死亡した受給権者と請求者との身分関係を明らかにすることができる書類(戸籍謄本等)
・受給権者と請求者の住民票の写し
 住民票上、受給権者と請求者の住所が異なっているときは住民票の他に死亡当時、請求者が受給権者と生計を同じくしていたことを証明する、第3者の証明(署名・捺印)をした書類等を提出する
・請求者名義の預金通帳
 または金融機関の証明印を請求書の所定欄に受ける
・印鑑

※(お断り)必要な書類や具体的手続き内容の詳細については、実際に届け先の年金事務所でご確認ください。

上記添付書類等を用意した上で「未支給年金請求書」(死亡届兼用)を年金事務所に提出します。
※原則は死亡した受給権者の住所地を管轄する年金事務所に提出ですが、管轄以外の年金事務所でも提出できます。

死亡した受給権者と請求者の住民票上の住所が異なる場合には、それぞれの住民票の他に第3者の方の証明が必要になります。証明をする第3者の方は受給権者や請求者と血縁関係がない他人でなければなりません。先ほどお話しした町内会長さんや民生委員等であれば問題ありません。また、集合住宅等であれば隣人や受給権者が施設に入所している場合には施設の職員の方やケアマネジャー等家庭の事情をよく知る方が適切でしょう。友人であっても血縁関係がなく家族の事情をよく知っている方であればかまいません。

最近では一人暮らしの高齢者の方が多くなってきました。年金証書がみつからないとか、基礎年金番号がわからないといって、年金事務所に来訪する方もおられます。紛失した場合には紛失ということで処理できます。大切な家族を失ったわけですから、早めに手続きをするというのはなかなか難しい場合もあるでしょうが、あまり手続きが遅くなると面倒な場合があります。
たとえば、年金は2ケ月に1回振り込まれます。金融機関に死亡の届けをだせば、年金の入金があっても振込不能で処理されますからよいのですが、手続きが遅くなると次の年金の振込日がきてしまい、次の期の年金が振り込まれてしまいます。年金を払いすぎた分は国に返納しなければなりませんから、それだけ手続きが面倒になります。できるだけ、早めに手続きをするようにしましょう。
また、年金受給権者の方はいざというときに備えて、年金証書等の書類は家族の方にもわかるようにしておくことも必要でしょう。

「未支給年金」は手続き後、約3ケ月経過後に請求者へ通知があり請求者の口座に振り込まれることになります。また、請求者が死亡した受給権者の妻(年齢不問)、夫・父母・祖父母(ただし55歳以上であること)、18歳未満の未婚の子・孫(18歳到達後、最初の年度末まで含む)、20歳未満の未婚の子・孫(ただし障害者)であれば、未支給年金の請求の他に遺族年金も請求できる場合がありますので、こちらの手続きも当然必要になります。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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