年金コラム

2010.10.06

「特別支給の老齢厚生年金受給者の継続再雇用の取り扱いの変更」について

こんにちは社会保険労務士の土屋です。今回は「特別支給の老齢厚生年金受給者の継続再雇用の取り扱いの変更」についてお話しさせていただきます。

60歳からの年金支給について

現在、すべての企業には法律により65歳までの雇用が義務付けられています。以前このコラムでも書きましたが昭和28年4月1日以前生まれ(女子は昭和33年4月1日以前)までの人で、厚生年金に加入した期間が1年以上あれば60歳から年金が受けられます(ただし、資格期間である25年を満たしていることが条件)。ただ、これから年金を受ける人は報酬比例部分といって60歳までの間に働いた給与に比例した年金のみを受給し、満額の年金を受けるのはあくまで65歳以降になります(女子の方は65歳前から定額部分が受給できる場合があります)。その為、多くの方が60歳以降も年金を受給しながら、雇用を継続して働き続けたいと希望しています。

一方、企業側にとっては60歳以降の給与を定年前と同条件で雇用継続するということは労務コスト上大きな負担となります。したがって、多くの企業では60歳以降については、継続雇用はするが再雇用後の賃金については60歳定年前の賃金より80%~50%程度に低下した条件で雇用契約を締結するというケースが大半のようです。
年金は60歳に到達した月の翌月分から支給開始になります。ただし、年金事務所で手続きを行ってから年金が金融機関の自分の口座に振り込まれるまで、早くても約3ケ月程度はかかります(手続き後約2ケ月経過後に年金証書が送付され、それから約50日後の直近の振込月《原則偶数月、初回のみ奇数月もあり》に振り込み)。
また、再雇用後も継続雇用し社会保険加入を続ければ、社会保険料(健康保険・厚生年金)を負担し、年金は在職調整されることになります。


※年金の手続きは原則本人が請求します。仕事や家庭の事情や病気等で本人が年金事務所に行けない場合には本人の委任状があれば、家族や第三者(友人・金融機関・社会保険労務士等)が代わりに手続ききを行うことができます。

60歳定年後再雇用され社会保険に加入をした場合

以前は社会保険料(健康保険・厚生年金)や在職老齢年金の調整に関係する標準報酬月額の手続きについては、定年後退職し空白なく現在の会社に再雇用で勤務している場合には、勤務が継続しているものとみなされました。
つまり「同一の事業所において雇用契約上一旦退職した者が1日の空白もなく引き続き再雇用された場合は、退職金の支払いの有無又は身分関係若しくは職務内容の変更の有無にかかわらず、その者の事実上の使用関係は中断することなく存続しているものであるから、被保険者の資格も継続するものである」とされ、資格の手続きは行わないことになっていました。

したがって、定年後に雇用契約が変更になり、賃金が定年前の80%から50%に下がっても、雇用関係は継続しているものとみなされ、通常の月額変更(標準報酬月額が2等級以上低下した月が3ケ月続いた場合、低下した月から数えて4ケ月目から標準報酬月額を変更)の取り扱いとされ、3ケ月間は定年前の高い標準報酬月額で計算された社会保険料を負担しなければなりませんでした。また、当然ですが、在職老齢年金の計算も月額変更が適用されるまでは、変更前の標準報酬月額で調整が行われることになっていました。

ところが、これでは定年退職後再雇用される高齢者にとっては、はなはだ不公平ではないかとなり、平成8年に変更が行われました。「特別支給の老齢厚生年金の受給権者である被保険者(60歳から64歳)であって、"定年"による退職後継続して再雇用される者については、使用関係が一旦中断したものとみなし、事業主から被保険者資格喪失届及び被保険者資格取得届を提出させる取り扱いとして差し支えない」ということになり、定年の場合にのみ変更後の賃金で算定した標準報酬月額を翌月から適用することを認めました。この手続きの事を同日得喪(どうじつとくそう)の手続きとよびますが、この手続きを事業主が行えば、定年後再雇用され、賃金が低下(ただし標準報酬月額2等級以上)した場合、月額変更の取り扱いで3ケ月間高い社会保険料を労働者が負担する必要なく、翌月から変更された標準報酬月額で算定された保険料負担でかまわないとされたわけです。また、在職老齢年金の調整の計算も低下した標準報酬月額で計算が行われることになりました。

  • 標準報酬等級について
    9月分の給与500,000円は標準報酬等級表の第30等級(健康保険、厚生年金は第26等級)の485,000円~514,999円の範囲に入りますので、標準報酬は500,000円(健康保険第30等級、厚生年金26等級)に該当します。同様に10月分以降の250,000円は標準報酬等級表の第20等級(健康保険、厚生年金は16等級)の250,000円~269,999円の範囲に入りますので、標準報酬は260,000円(健康保険第20等級、厚生年金16等級)に該当します。
  • 同日得喪(どうじつとくそう)について
    定年後、1日の空白もなく、会社に継続雇用で再雇用されれば、有給休暇の取り扱い等については雇用は継続しているものとして取り扱われます。ただし、再雇用で賃金が低下した場合には、従来の月額変更を適用してしまうと、著しい不利益(高い社会保険料負担、高い報酬での在職調整)を再雇用者が受ける為、定年退職者については一旦、社会保険喪失届を提出させ高い標準報酬月額の資格を喪失させます。その上で、その日に同時に再雇用後の賃金で計算した標準報酬月額を記載した社会保険取得届を一緒に提出させます。
    そうして、再雇用後の新しい賃金で算定した標準報酬月額で社会保険料を計算する取り扱いにするわけです。
  • 算定基礎届(定時決定)、月額変更届(随時改定)について
    社会保険料は毎年4月・5月・6月に支払われた3ケ月間の総報酬の合計の平均をだして、その年の9月から翌年の8月までの社会保険料(健康保険・厚生年金)を決定しています。支払われる報酬は個々にばらつきが当然ですがありますので、保険料額計算表に定められた標準報酬等級表(健康保険:第1級58,000円~第47級1,210,000円、厚生年金保険:第1級98,000円~第30級620,000円)にそれぞれの平均額を当てはめています。この手続きの事を「算定基礎届(定時決定)」と呼んでいます。
    ただ、1年の間には昇給や減給、通勤費の変更という変動が考えられますので、翌年の9月までに報酬の大幅な変動があった場合には来年の「算定基礎届(定時決定)」を待たずに変更することがあります。この手続きの事を「月額変更届(随時改定)」と呼んでいます。月額変更は報酬が変更(固定給の変動がある事、残業代が増えた、減っただけというのはだめ)になり、その変更幅が保険料額計算表に定められた標準報酬等級表の2等級以上あり、その変動が3ケ月続いた場合に行います。もし、その3ケ月に被保険者が病気や怪我で欠勤し、1ケ月17日未満の月が1ケ月でもあれば、月額変更の手続きは行われません。

平成22年9月1日から取り扱い変更について

同日得喪の手続きは定年による継続再雇用のみ認められ、定年による退職であることを証明する為に就業規則の写し等を添付することが必要でした。ただ、65歳までの雇用が企業に義務付けられた現在では、定年を65歳以上に引き上げたり、定年制そのものを廃止した企業もみられるようになりました。
そうした企業に勤務されていて、雇用契約の変更により賃金が低下し、標準報酬月額が2等級以上低下しても、定年ではありませんので、同日得喪の手続きは適用されず、月額変更の手続きの対象になります。つまり、低下した月から3ケ月間は高い社会保険料を負担し、在職老齢年金の調整も高いままの標準報酬月額で行われることになるわけです。また、大企業に勤務され定年前に管理職だった方が60歳定年後に賃金が低下し、その後雇用契約の変更により再度賃金が低下したり、役員を退任し、一般社員や嘱託等で再雇用され賃金が以前より低下した場合も月額変更の対象になりますので、しばらくは高い保険料を負担しなければならないわけです。 また28万円以上の標準報酬月額の方の場合、年金は50%減額支給から全額支給停止ということになり、それでは特別支給の老齢厚生年金受給者には甚だ不公平だということになります。
こうした不公平を改善する為に継続雇用された被保険者の標準報酬月額の決定方法が9月1日から見直されたわけです。
平成22年9月1日からは同日得喪の手続きの取り扱いについては、定年によるものに加えて、「定年制の」定めある事業所において定年退職以外の理由で退職後継続雇用された場合や、定年制の定めのない事業所において退職後継続雇用された場合も資格の同日得喪の手続きを行っても差し支えないこととされました。

実際の手続きは

実際の手続きについては、事業主が「被保険者喪失届」と「被保険者取得届」を同時に年金事務所に提出することになりますが、その際に「就業規則、退職辞令の写し等の退職したことがわかる書類及び継続して再雇用されたことがわかる雇用契約書」または「事業主の証明」の添付が必要です。
事業主の証明については、様式は特に定めはありませんが、退職した日と再雇用された日が記載され、事業主印が押印されていなければならないとされています。
また、厚生年金基金や健康保険組合にも同様の届出が必要になります。
退職後に継続雇用された人の被保険者資格の取り扱いは、正社員に限らず、法人の役員やパートタイマー、アルバイトなどでも、厚生年金保険の加入者であれば対象になります。
ただし、一旦退職し雇用契約が変更になるということが前提ですので、役員の身分のまま役員報酬が下がっただけとか(社長から平取締役へとか)、ただ単純な報酬の変更だけでは通常通りの月額変更の取り扱いになります。

最後に

男の方でこれから厚生年金をもらう方は、65歳になるまでの間は長期特例や障害者特例が適用されない限り報酬比例部分だけです。正直報酬比例部分の年金だけでは定年前の生活を維持することはほとんどの方が残念ながら不可能に近いといえます。当然年金受給後も働きつづけなければならなくなります。個人的な資産や個人年金をかけるなどして老後の生活設計をキチンとしているという方は少数の方でしょう。
65歳まで雇用継続し厚生年金に加入をして、65歳以降に受給する老齢年金にいくらか加算はされますが、残念ながら月数が短いですから「その程度」ですか、という額にしかならないのではないでしょうか。

在職老齢年金についてはいろいろ議論のあるところです。受給年齢に達しても生活の為に、そのまま雇用を継続しても、年金月額と総報酬相当月額(月次の報酬+前1年間の賞与額÷12)が28万円を超えれば、支給調整を受けることになります。個人的な意見を言えば、60歳~65歳になるまでの在職調整の支給基準である28万円(支給停止調整開始額)をできれば廃止か見直して欲しかったといのうが正直なところです。
今回の見直しは確かに対象となる再雇用者にとっては喜ばしいことではあります。ただ、それならば、高齢者の雇用意欲をある意味そぐような制度は早く見直すべきではないかと筆者は考えます。
支給調整や支給停止になった年金は受給者にとっては、制度上はどうであれ、その間の年金を捨てることになります。また、年金事務所で60歳を過ぎた方や60歳間近の方が相談される内容に、「働いて収入があると年金は貰えませんか」や「社会保険に加入するとどのくらい年金が減りますか」、「年金受給後に会社で働いて社会保険に加入したら、年金はいくらになるの」という話が多いのも事実です。

国や日本年金機構にはこうした点をぜひ検討していただきたいと切に感じます。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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