年金コラム

2014.02.19

年金相談事例から

みなさんこんにちは、社会保険労務士の土屋です。今回もみなさんにとって関心の高い年金についてお話しします。
今回は相談事例をあげてお話ししたいと思います。最初は半田直樹さんの相談事例からです。

【半田直樹(仮名)さんの事例】

◆厚生年金基金の改正について

半田直樹さんは昭和28年5月5日生まれです。大学卒業後は技術者として中堅企業に32年間勤務してきましたが、55歳で会社を早期退職して起業しました。自営業ですから現在は国民健康保険と国民年金(60歳到達まで)に加入しています。
半田さんは数年前、年金事務所(当時は社会保険事務所)に自分の年金見込み額の計算をしてもらいました。半田さんの年齢の方の場合、61歳から特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給し、65歳から老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給することになると説明を受けました。ただし、半田さんの場合、厚生年金保険の一部については、国(日本年金機構)からではなく、厚生年金基金(以下基金という)から受給することになるので、基金への請求を忘れないようにしてくださいと年金事務所の相談員から説明を受けました。
基金は昭和41年に設立された企業年金制度ですが、本来、国に納めるべき厚生年金保険料の一部(免除保険料といいます。)を国に納めずに事業主負担分(事業主は上乗せ分の給付に充てる掛金を事業主から別途徴収します。)と合わせて基金で資産運用する仕組みです。したがって、基金に加入していた厚生年金保険の一部については将来基金で支給することになります。
半田さんは61歳から年金請求手続きを通常通り(61歳以降に支給開始年齢が引きあがる方であっても60歳以降に繰り上げ請求することは可能です。)する予定でしたが、数日前に加入していた基金から解散をすることになったので、あなたの基金から支給する厚生年金保険の一部(代行部分といます。)については、国から受け取ることになりますという文書が送付されてきました。さらに、基金で支給する上乗せ分については一切支給されなくなるとの説明がありました。
疑問に感じた半田さんは基金事務局に電話で確認したところ、下記のような事情によるものであることがわかりました。
半田さんの加入していた基金は平成26年4月以降に特例解散をすることになった。その為、基金が支給するべき厚生年金の代行部分についてはすべて国に返上され、解散以降は基金ではなく、国(日本年金機構)が支給することになること、また、事業主が独自に負担した掛金等をもとに支給する上乗せ分については一切支給されなくなるということがわかりました。つまり、半田さんの厚生年金については基金に加入していなかった方とまったく同じ給付内容になるということでした。

◆平成26年4月からの基金制度の改正について

基金は最盛期には2,000に迫る勢いで設立されましたが、社会環境の変化や経済環境の悪化等により、単独型(大企業を中心に単一企業で設立)の基金や連合型(関連会社を中心に複数企業で設立)の基金を中心に多くの基金が代行返上(厚生年金の一部を国に返上)をしていきました。代行返上後は上乗せ分のみで確定給付企業年金を設立するか、上乗せ分についても一時金で清算し基金を解散するという選択をすることになります。加入員や加入員だった方は、代行返上後の厚生年金については国から全額受給し、上乗せ分については一時金で清算するか、または企業年金連合会に資産を移管して将来企業年金連合会から年金を受けることになります。
現在、存続する基金の多くは総合型(タクシー業界や建設業界といった業界団体に加入する中小企業が合同して設立)と呼ばれる基金を中心に約500あまりが残っていますが、国の代行部分の給付に充てる資産(責任準備金といいます)が不足している状況(いわゆる代行割れ)にある基金が多数あります。
そうした状態をそのまま放置すれば、代行割れをしている基金の加入員や加入員であった方や年金受給者の厚生年金の給付についても維持できないという事態にもなりかねます。その為、国は代行割れをして最早存続する見込みの厳しい基金については、早期に解散を促していく為、通常解散に比べて様々な特例制度を設けることとしました。代行割れをしている基金が代行不足の状態で解散をする場合には特例解散という解散方法をとることになりますが、平成26年4月から5年間の間に特例解散をする場合に特例が適用されます。※
(※注)現在、代行割れをしていない基金であっても、平成26年4月~の5年間の間に一定の条件(基金の現在の資産が代行給付の1.5倍あるか。または、現在の資産が代行部分と上乗せ支給分も含めて不足額がないこと等)をクリアできなければ、原則5年経過後も存続することができません。

◆特例解散について

代行割れをしている基金が特例解散を行う場合、代行部分は国に返上され、加入員や加入員であった方の厚生年金の代行部分についても国から受けることになります。なお、代行部分の不足額(代行割れ部分)は、通常解散であれば、解散時に一括で支払うことになりますが、平成26年4月以降に一定要件を満たし特例解散をする場合には、解散時の事業主が10年~30年の間に返済することになります。
一方、特例解散した基金の加入員や加入員であった方が国の老齢年金を受給できるとき、特例解散以降は基金の代行部分についても国(日本年金機構)に請求手続きしていただくことになります。なお、特例解散の場合には、上乗せ分の支給は一切なくなることになります。
なお、特例解散前に基金に加入した期間が10年(または15年)未満で基金加入時の会社(事業所)を退職した方(中途脱退者)については、脱退時点でその方の資産が企業年金連合会に移管されていますので、その後の給付には影響はありません。
また、平成26年4月以降、基金が通常解散をしても企業年金連合会は代行部分の資産移管の受け取りをしません。代行部分についてはすべて国から受け取ることになります。上乗せ分については一時金で清算になるか、または別の年金制度(確定給付年金制度、確定拠出年金制度、中退共等)に移行する基金の対応によって違ってくることになります。
なお、企業年金連合会については基金の存続に一定の目途がついた段階で、新しい組織に移行される予定です。

◆まとめ

実際の対応がどうなるかは加入している基金や加入していた基金の財政状況や対応によって違ってきます。5年後も存続する基金は現在の約1割程度ともいわれています。解散の場合には事前に通知等があるはずですので、該当する方は基金からの通知はかならず確認するようにしてください。

【黒田勘兵(仮名)さん】の事例

◆65歳からの併給について

黒田勘兵さんは昭和24年3月2日生まれですので、60歳から特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)の請求手続きをして、60歳以降も現在の会社で定年後も再雇用で働いています。
また、5年前に持病の糖尿病が悪化し、人工透析を受けることになった為、請求手続きをしたところ、障害等級の2級(事後重症)に該当したので、現在障害基礎年金(年額778,500円)と障害厚生年金(約500,000円)を受給しています。
60歳から65歳の間は二つの年金の受給権が発生した場合、どちらか一方の年金を選択受給しなければならないので、黒田さんは基礎年金のある障害年金を選択受給しています。黒田さんは65歳になるのを機に会社を退職してゆっくりしたいと考え、65歳以降の年金受給がどうなるのか知り合いの社労士に相談したところ、下記のような説明を受けました。

◆障害基礎年金はオールマィティ

60歳から65歳到達まで支給する特別支給の老齢厚生年金は、65歳になると報酬比例部分が老齢厚生年金に定額部分(昭和24年4月2日生まれの男性の場合、定額部分の支給はなし)が老齢基礎年金に切り替わります。(老齢基礎年金には、第1号被保険者として保険料を負担した期間や免除期間も加算されます。)切り替わりの手続きは、日本年金機構から誕生月(1日生まれの人は誕生月の前月)の初めに送付される葉書(裁定請求書)に必要事項を記入し投函するだけです。
65歳までは障害と老齢についてはどちらか一方を選択受給しなければなりませんでしたが、65歳以降は障害基礎年金については障害厚生年金でも老齢厚生年金のどちらでも組み合わせて選択受給することができます。つまり、有利選択(年金額の多い方を選択)することができるわけです。
黒田さんの場合、65歳になると老齢基礎年金(729,800円)が受給できることになりますが、老齢基礎年金の計算基礎になる20歳から60歳までの加入期間が上限の480月に達しておらず、障害基礎年金(定額778,500円)の方が多いことになるので、老齢厚生年金と加給年金(配偶者が65歳まで支給)と障害厚生年金との比較がありますが、有利な組み合わせを選択することができるというわけです。

【齊藤花子(仮名)さん】の事例

◆振替加算がなくなる

齊藤花子さんは昭和23年8月1日生まれです。37歳まで厚生年金に加入(被保険者期間19年)し、その後は夫(昭和22年7月1日生まれ、40年間厚生年金加入)の扶養になり、現在老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給しています。花子さんが65歳になるまでは夫の厚生年金に加給年金が加算されていましたが、花子さんが65歳に到達した翌月から夫の年金に加算されていた加給年金はなくなり、花子さんの老齢基礎年金に振替加算が加算されています。
夫は退職後は自宅で家業(自営)をいとなんでいますが、いわゆる年金受給者です。花子さんも同様年金受給者として夫の家業を手伝っていましたが、昨年から知り合いに頼まれ、フルタイムで働くことになりました。雇用契約期間は1年ですが、フルタイムになるので会社の健康保険と厚生年金保険に加入することになるといわれました。健康保険料は会社が半分負担してくれることになるので喜んでいましたが、年金相談会でその話をしたところ、花子さんが退職した時点から年金が減額になるといわれました。 花子さんの年金はなぜ減額になるのでしょうか。

花子さんの場合、自分の厚生年金の被保険者期間が19年(20年未満)で、夫の厚生年金の加入期間が20年以上あることにより、老齢基礎年金に振替加算が加算されています。しかしながら、再就職し厚生年金の加入期間が20年以上になると、自身が20年以上の被保険者期間を有する厚生年金を受給することになりますので、厚生年金の加入期間が20年到達後再就職先を退職すると、退職した日の属する月の翌月から老齢基礎年金に加算されている振替加算がなくなることになります。当然ですが再就職から退職までの被保険者期間の標準報酬に応じて老齢厚生年金は増額加算されます。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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