年金コラム

2016.08.17

年金の離婚分割について

みなさんこんにちは、社会保険労務士の土屋です。今回もみなさんにとって関心の高い年金についてお話しいたします。

今回のテーマは「年金の離婚分割」です。

離婚分割とは「一方の年金記録を一方に分割する」という、平成19年4月から導入されたそれまでの制度になかった仕組みです。

【1】分割制度導入の背景

本来年金は一身専属のもので、「配偶者(被用者制度の被保険者)の記録の一部を、離婚により相手(扶養者配偶者等)の記録として付け替える」という仕組みは従来では考えられないことでした。ただ、被用者制度(厚生年金・共済組合)の被保険者の扶養者等である配偶者も被保険者の婚姻期間中の生活を支えてきたわけですから、婚姻期間中の被保険者の厚生年金の一部を配偶者のものとして考えることにさほど抵抗感が感じられなくなってきたからこそ、年金分割という制度が導入されたともいえます。

また、基礎年金制度導入前(昭和61年4月以前)は国民年金の第3号被保険者制度という仕組みはなく、被用者制度の被保険者の被扶養者が高齢になっても、自身の年金が少額であったり、無年金であるために離婚をためらったり、離婚後に無年金者となり、生活に困窮するケースもみられていました。

離婚後の配偶者がそうした不幸な状況におちいらないようにするためにも、年金分割という制度が導入されたわけです。

【2】年金分割の2つの制度

年金分割には「合意分割」と「強制分割(3号分割)」の二通りの分割方法があります。

 ・「合意分割」とは
強制分割に先立ち、平成19年4月から導入されました。合意分割は言葉の通り、お互いの合意による年金分割を行います。分割対象期間は婚姻から離婚までの期間です。離婚は平成19年4月以降の離婚が対象で、離婚後2年以内に分割請求しなければなりません。
 ・「強制分割(3号分割)」とは
強制分割(3号分割)は平成20年4月以降に導入された制度です。こちらは言葉の通り、お互いの合意は必要なく、被扶養配偶者(第3号被保険者)の請求があれば、強制的に分割されます。ただし、分割対象になる期間は平成20年4月以降の国民年金の第3号被保険者期間に限られます。請求は合意分割と同様、離婚成立から2年以内に請求しなければなりません
 ・それぞれの分割割合について
合意分割の場合は、婚姻期間中のお互いの被用者制度(厚生年金または共済組合)期間中の標準報酬の合計額の最大2分の1を限度に、お互いの合意に基づき分割割合を決定します。
もし、お互いで分割割合を合意することができない場合には、家庭裁判所での和解や調停を経て決定された分割割合に応じて分割されます。
一方、強制分割(3号分割)の場合は、お互いの合意の必要はなく、一方からの請求に基づいて、被用者制度の被保険者の婚姻期間中(平成20年4月以降の第3号被保険者期間中)の年金記録の5割が強制的に元被扶養者に分割されます。

ここからは、各制度の仕組みと分割方法(分割例)を解説します。

【3】合意分割の仕組み

合意分割の場合、分割する人を第1号改定者といい、分割を受ける人を第2号改定者といいます。

強制分割と異なり、分割対象は平成19年4月以前の期間も含みますし、分割を受ける側は第3号被保険者期間を有する者に限りません。

たとえば、婚姻期間中の第1号改定者の標準報酬の総額が8,000万円で、婚姻期間中の第2号改定者の標準報酬の総額が2,000万円のとき、第2号改定者の婚姻期間中に第3号被保険者期間がまったくないとすると、離婚分割(合意分割の場合)は下記の通り[最大でお互いの標準報酬総額2分の1(分割割合50%)~最低で第2号改定者の分割前の標準報酬の割合(分割割合0%)の間]に分割されることになります。
※例は50%の分割の場合です。

合意分割の例

標準報酬の合計額の2分1になるよう第1号改定者の3,000万の標準報酬の記録が第2号改定者の記録に付け替えられることになります。

合意分割後、第2号改定者は第1号改定者から分割された記録と本来の自分の記録とを合算して、将来厚生年金を受給することになりますが、分割された記録はみなし被保険者期間とされるだけで、25年の資格期間にはカウントされません。

したがって、分割された期間以外に本来の自分の加入期間だけで25年の受給資格期間を満たしていなければ、分割された記録だけでは厚生年金を受給することはできません。もちろん、みなし被保険者期間だけで25年あっても、それだけでは老齢年金の受給権は発生しません。

また、女性(第2号改定者)の場合、昭和33年4月1日以前生まれの方であれば、25年の資格期間を満たした上で自分の厚生年金が1年以上あれば、60歳から分割された厚生年金の記録を合算して60歳から特別支給の老齢厚生年金が受給できます。逆に自分の厚生年金が1年未満の場合(または厚生年金の加入が一切ない場合)は65歳から分割後の厚生年金のみで計算された老齢厚生年金を受給することになります。みなし被保険者期間だけでは受給権は発生しません。

分割対象となる年金は被用者年金の報酬比例部分(老齢厚生年金、退職共済年金、障害厚生年金、障害共済年金の他、旧制度の老齢年金、通算老齢年金、障害年金)が対象となります。共済年金の場合は、職域加算部分も対象になります。厚生年金基金の代行部分は分割対象ですが、プラスアルファ部分については分割対象外です。また、国民年金の給付(老齢基礎年金)や被用者年金の定額部分は合意分割も強制分割も分割の対象外です。

合意分割と強制分割(3号分割)の対象期間

【4】強制分割(3号分割)の仕組み

強制分割の場合、分割する人を特定被保険者といい、分割を受ける人を被扶養配偶者といいます。

合意分割と異なり、強制分割(3号分割)は、分割を受ける側は第3号被保険者に限られますし、分割できる期間は平成20年4月以降の婚姻期間(事実婚の場合は第3号被保険者期間)になります。強制分割(3号分割)は特定被保険者の合意は不要で、離婚後2年以内に被扶養配偶者からの請求があれば、強制的に分割されます。

強制分割(3号分割)の例

こちらも分割された記録は合意分割と同様みなし被保険者期間とみなされるだけですので、自身の加入期間が25年の資格期間を満たしていなければ、将来の年金受給につながりません。

【5】年金分割のための情報提供請求の手続き

離婚による標準報酬の分割請求は離婚後の請求になりますが、離婚前(または分割請求の前)に事前にどのくらいの標準報酬の記録が分割されるのかを確認するために必要な情報(対象期間の標準報酬総額、按分割合※の範囲、これらの算定の基礎となる期間、その他省令に定める情報)を請求することができます。請求手続きは住所地等の年金事務所で請求できます。また、50歳以上の方については分割後の記録で自分の年金見込み額がいくらになるのかも知ることができます。情報提供の請求のためには下記の書類が必要です。

  • 1.双方の婚姻期間がわかる戸籍謄本
    ※事実婚の期間がある場合には戸籍の付票等の事実婚の期間同居していた事実が確認できる書類等が必要になります。
  • 2.本人確認できる身分証明書(免許証、住基カード、パスポート等)
  • 3.印鑑(認印)
  • 4.年金手帳

※按分(あんぶん)割合とは

合意分割の場合、当時者双方の標準報酬総額のうち分割後の第2号改定者の持ち分のことをいいます。(上限は2分の1、下限は分割前の第2号改定者の持ち分)言い換えれば、分割は第2号改定者の分割前の自身の標準報酬総額を最低の按分割合(下限)として、第1号改定者の標準報酬総額と自身の標準報酬総額の合計の2分の1が按分割合の最大(上限)になるという意味です。

また、平成27年10月以降は共済年金も厚生年金に一元化されましたので、共済年金の期間のある方も年金事務所で請求手続きが可能になりました。

なお、本手続きは離婚前に行うこともありますが、請求者以外の相手側に対してむやみに情報提供されることは一切なく、情報提供の文書を住民票上の住所に送付して欲しくない場合には、別の住所(別居先・実家等)に送付してもらうことや請求先の年金事務所で受け取ることも可能です。

【ご注意】平成27年9月30日以前に共済組合で取得した情報提供書では、平成27年10月以降の分割請求はできません。平成27年10月~共済年金は厚生年金と一元化されましたので、平成27年10月からの離婚分割の請求の場合には改めて情報提供書を請求していただく必要があります。

【6】標準報酬の改定請求手続きと改定方法

標準報酬の改定請求手続き

離婚が成立した場合、標準報酬の改定請求を行うことができます。請求のために必要な書類は以下の通りです。

  • 1.当事者の婚姻と離婚の事実関係がわかる戸籍謄本(請求前1ヶ月以内に発行のもの)
  • 2.離婚後除籍された者の当事者の生存がわかる書類(戸籍謄本・戸籍抄本・住民票)
    ※請求前1ヶ月以内に発行のもの
    ※第1号改定者(元夫)が従前の戸籍の筆頭者の場合、第2号改定者(元妻)は離婚により、除籍されるため離婚後の生存確認ができません。そのため離婚日以降の第2号改定者(元妻)の戸籍抄本・住民票が必要になります。第2号改定者が筆頭者(元妻)の場合は第1号改定者(元夫)の生存確認の書類が必要です。
  • 3.当事者の年金手帳
  • 4.来所者の本人確認できる身分証明書(免許証、住基カード、パスパート等)
  • 5.按分割合を定めた書類

按分割合を定めた書類については、「当事者が事前に分割割合を合意し、当事者二人で年金事務所に来所する(または一方、または双方の代理人が来所)場合」と、「双方では合意することができずに家庭裁判所の審判手続きや調停手続きにより、分割割合を決定した場合」によって異なります。

前者の場合には前項の1~4までの必要書類を持参した上で分割割合の合意書にお互いが署名・捺印すれば、改定請求が可能です。当事者の一方または双方の代理人が年金事務所に来所する場合は、代理人の本人確認の書類(免許証等)や当事者の印鑑を合意書に捺印し、その印鑑の印鑑証明書が必要になります。

後者の場合には、決定した分割割合が記載された謄本または抄本の現物を1~4までの必要書類と一緒に提出すれば、分割請求ができます。なお、その場合には当事者二人で来所する必要はなく、一方のみの来所(または代理人)で請求手続きが可能です。

また、事前に分割割合を当事者で合意し、公正証書役場で分割協議書を作成して請求することも可能です。この場合も公正証書を1~4まで必要書類と一緒に提出すれば、当事者二人で来所する必要はありません。

強制分割(3号分割)の改定請求

強制分割(3号分割)の場合にはお互いの合意は必要ありませんので、当時者の二人(または代理人)で来所し合意文書に署名・捺印する必要はありませんし、分割割合を定めた文書も必要ありません。
離婚後2年以内に当時者の一方(または代理人)が1~4の書類を持参することによって標準報酬の改定請求ができます。ただし、改定できるのはあくまで平成20年4月以降の第3号被保険者期間のみです。

離婚日から2年が経過しても離婚分割ができる場合(請求期限の特例)

離婚後に裁判が長引く場合、按分割合の確定または成立が請求期限の2年を過ぎてしまうこともあります。ただ、そうした場合でも下記の場合には確定・成立した日の翌日から1ヵ月以内に標準報酬の改定請求をすればよいことになっています。

・請求期限を経過する前に按分割合に関する審理・調停または按分処分に関する付帯処分を求める申し立てを行った場合。

なお、上記の請求手続きについては弁護士等の専門家にお願いする方がよいかと思います。

標準報酬の改定方法

分割改定の請求に基づき、標準報酬の改定は行われます。

1.下記計算式で改定の割合を計算

標準報酬の改定割合

2.下記計算式で標準報酬の改定を計算

第1号改定者の標準報酬の計算式

第2号改定者の標準報酬の計算式

具体的なケースにあてはめると、下記の計算になります。

標準報酬の改定計算の例

終わりに

離婚分割はただ単純に年金が半分に分割されるわけではありません。分割された方が受給前に不幸にして死亡してしまえば、分割された記録による年金は支給されないことになります。また、分割された記録は資格期間には含まれません。加給年金や振替加算、遺族年金を考慮すると、二人で長生きをした方が年金の受給額だけを考えれば得ということになります。

夫婦の関係も社会状況により変化しています。一緒に暮らさず、個々の事情やお互いの意思によって別々に生活をするという夫婦関係も珍しいことでなくなってきました。

年金の世界でも、戸籍上の問題や「生計維持されている=同居」という考え方だけで(まったくないわけではありませんが)はなく、もっと広く、もっと柔軟に判断すべきではないかとも筆者は思います。

お互いの関係が壊れてしまい、婚姻関係を継続できないということであれば、離婚分割も当然の権利として請求するべきですが、結論をだす前には十分にお考えになった上で判断していただければと勝手ながら思う次第です。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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