年金コラム

2017.09.27

加給年金と振替加算について

こんにちは。社会保険労務士の土屋です。今回もみなさんにとって関心の高い年金についてお話しいたします。

今回は最近の相談事例から「加給年金と振替加算」について事例をとりあげて説明させていただきます。

相談事例Ⅰ(加給年金は配偶者の年齢または年金受給によって改定)

東京 花子さん(昭和28年7月2日生まれ)は定年再雇用後現在の会社でフルタイム(厚生年金加入、標準報酬月額200千円、賞与なし)で働いています。夫の東京 次郎さん(昭和24年8月2日生まれ、厚生年金20年以上加入)は年金生活者で65歳から老齢基礎年金&老齢厚生年金を受給しています。

次郎さんの老齢厚生年金には花子さんという配偶者がいることによる年金(加給年金)が加算されています。花子さんはそろそろ仕事をリタイアしたいと思い、来年の3月で退職したいと考えています。

そこで、年金事務所に夫と二人で相談にいったところ、花子さんが来年3月で会社を退職(社会保険喪失)すると夫に加算されている加給年金はなくなるといわれました。

みなさんどういう意味がおわかりでしょうか。
 

厚生年金に20年以上加入した夫の次郎さんの老齢厚生年金には加給年金(224,300円+165,500円(配偶者特別加算)=389,800円※平成29年度の金額)が加算されています。

つまり、次郎さんの年金には月額3万円ほどの加算がついています。ただし、この加算は配偶者(今回は妻)が厚生年金に20年以上加入した年金を受給できる場合には加算されません。

花子さんは60歳で年金を受給し、そのまま継続して厚生年金に加入をしていますので、次郎さんが65歳の時点で花子さんの厚生年金の加入月数は20年を超えています。ただし、60歳以降花子さんの年金は改定をされていません。そのため花子さんの厚生年金は20年とみなされないため、65歳から次郎さんの年金に加給年金が加算されました。

もし、花子さんが現在の会社に65歳まで継続勤務(社会保険加入)すれば、花子さんの年金は65歳まで改定をされないままですので、次郎さんに加算されている加給年金は花子さんが65歳に到達した月まで加算され、花子さんが65歳に到達した翌月からなくなります。(振替加算はなし)

ところが、花子さんが会社を65歳前に退職(社会保険喪失)した場合には、退職後1ケ月以内に再就職(社会保険に再加入)しない限り、花子さんの年金は退職改定されてしまいます。

そうなると花子さんは20年以上の厚生年金被保険者期間のある年金受給者となりますので、65歳を待たずに退職改定をされた翌月から次郎さんの加給年金が支給停止となってしまいます。

加給年金は厚生年金被保険者期間が240月以上ある年金受給者(今回のケースの場合夫)が老齢満了した時点で配偶者(今回のケースの場合妻)が65歳になるまで、年金受給者(夫)に加算されます。加給年金は配偶者(妻)の65歳到達月までで終了ですが、そのかわり65歳以降、配偶者(妻)の老齢基礎年金に振替加算(224,300円~15,028円)が終身加算されます。

妻と夫はケースによっては入れ替わります。例:妻が厚生年金加入、夫は自営業の場合
また、今回のケースのように配偶者(特別支給の老齢厚生年金受給者)の厚生年金の被保険者月数が240月に満たない場合や厚生年金の被保険者月数が240月を超えていても、受給年齢に到達していない場合は、受給権発生まで加算されますし、在職中で配偶者の特別支給の老齢厚生年金が全額支給になっている場合は加算されます。中高齢の特例に該当した場合は180月~228月で加給年金の要件を満たします。
 

事例Ⅱ(振替加算は夫が老齢満了後に加算)

平 和子さん(昭和24年9月2日生まれ)は結婚前に15年ほど厚生年金に加入しましたが、会社員の夫である平 凡太さん(昭和27年3月2日生まれ)と結婚後は専業主婦となり、その後、パートで働いたこともありましたが、年金加入は国民年金(第3号等)だけでした。

和子さんは60歳から特別支給の老齢厚生年金を受給し、65歳からは老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給しています。夫の凡太さんは40年以上勤続した会社を60歳で定年退職し、その後関連会社に再就職しましたが、65歳までの継続雇用終了に伴い3月末で退職しました。

技術者であった凡太さんは定年後多少減額にはなりましたが、65歳まではある程度の報酬もあったため、特別支給の老齢厚生年金は全額支給停止でした。

凡太さんは65歳の裁定請求手続き(はがき投函)を行い、今年の4月分から老齢基礎年金と老齢厚生年金を満額受給しています。

その後最近になって和子さんに日本年金機構から「加算年金(振替加算)の手続きをしてください」というはがきが送られてきました。はがきの意味がよくわからなかった和子さんは夫の凡太さんと二人で年金事務所に相談にいきました。
 

加給年金は厚生年金の年金受給者の配偶者が65歳に到達し、自分の老齢基礎年金を受給するまでの補てんという考え方による仕組みですので、配偶者が20年以上の厚生年金を受給できるのであれば、また、配偶者が一定程度の報酬(収入850万円以上、所得655.5万以上)があるのであれば、支給する必要はないということになっています。そのため、請求をするのであれば、必要な書類、いわゆる3点セット(戸籍謄本・住民票・対象となる配偶者の所得証明)の提出が求められます。

加給年金の対象となる配偶者の年齢が年金受給者より年下であれば、年金受給者が老齢満了した時点で加給年金が加算されていますので、その後に配偶者が65歳に到達すれば、加給年金は終了し、配偶者の老齢基礎年金に振替加算が加算されます。ただし、和子さんのケースのように配偶者(妻)が年上の場合、年金受給者(夫)が老齢満了した時点で、配偶者(妻)は65歳を超えていますので、年金受給者(夫)の老齢厚生年金に加給年金は加算されていません。

このようなケースの場合、振替加算の請求手続きが必要になります。3点セット(戸籍謄本・住民票・請求者の直近の所得証明)を添付して振替加算の請求書(222号)を年金事務所等に提出することが必要です。

加給年金や振替加算の請求は、本来であれば加算される時期に提出するべきなのですが、夫婦の生年月日は様々ですので、お互いの年金の請求時に該当する方々に3点セットの提出を求めるかたちで対応しています。
最近は60歳以降も再雇用で継続雇用する方も多くなり、在職停止や事例1の方のように年金受給権発生後に240月の被保険者記録に達するケースや共済年金との一元化もあり、様々なケースがでてくるため、請求もれや加給年金の過払い等が発生してしまうようです。

※老齢満了
厚生年金の被保険者期間が20年以上ある昭和24年4月1日生まれ以前(女性は昭和29年4月1日以前生まれ)の方は1年以上の厚生年金の加入期間があれば、60歳から特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分が支給され、60歳~64歳からは特別支給の老齢厚生年金(定額部分)が報酬比例部分に加えて支給されます。
この方に厚生年金被保険者期間が240月以上あり、定額部分支給時に65歳未満の配偶者がいれば、その時点(老齢満了という)から加給年金が支給されます。定額部分が支給されない昭和24年4月2日以降生まれ(女性は昭和29年4月2日以降生まれ)の方は65歳時点が老齢満了になります。

※中高齢の特例
昭和26年4月1日以前生まれの方で男性40歳以降(女性35歳以降)の場合、厚生年金単独(または共済年金単独)で15年~19年の加入期間があれば、年金受給資格を満たします。また、この中高齢の特例に該当する方は加給年金の支給要件も満たすことができます。

※振替加算額については文末の表をご覧ください。

《補足》

基礎年金ができる昭和61年4月以前は厚生年金被保険者に扶養されている被扶養者の方は国民年金には任意加入とされていました。そのため自身の年金が少額の方(または無年金)が多いという実態がありました。そのため、国はそうした方に対して様々な仕組み(経過措置)をとっています。振替加算もその一つです。

振替加算の年金額は生年月日によって受給額が異なります。若い方ほど年金受給額が段階的に少なくなっています。それはなぜかというと、昭和61年4月の基礎年金創設時に満60歳に到達している人が、仮に国民年金にひと月も加入していない場合、自身の年金がない(または少額の年金)というケースも少なくないため、加給年金額なみの振替加算が支給されます。一方昭和61年4月に20歳の方は国民年金には強制加入ですし、40年間加入することは可能なわけですから、振替加算は一切支給しないとなっているわけです。

 

相談事例Ⅲ(離婚分割後加算されていた振替加算がなくなる?)

夢 みる子さん(昭和24年9月2日生まれ)と夢 太さん(昭和22年10月2日生まれ)は協議離婚が成立し厚生年金の離婚分割(合意分割)の標準報酬の改定請求の手続きを行いました。

離婚後の分割割合は5割ということで合意しました。太さんは30年以上加入した厚生年金を受給していましたので、分割後の受給額は減額になり、みる子さんは厚生年金の加入歴が短く受給額も少額でしたので、分割後のみる子さんの年金は増額になりました。
ただ、分割前にみる子さんに支給されていた8万ほどの年金分が減額になっていました。

なぜでしょうか。
 

みる子さんは離婚分割後に太さんの厚生年金の記録(みなし被保険者期間という)をもらいました。このみなし被保険者期間は年金の受給資格には算入はしませんが、加給年金や振替加算の算定の計算には実期間と同様にみなされます。したがって分割前にみる子さんの老齢基礎年金に加算されていた振替加算(86,804円)がみる子さんの厚生年金の加入月数が太さんの記録を離婚分割でもらったことにより、240月以上の被保険者期間のある厚生年金受給者となり、振替加算の支給要件をみたさなくなったために支給終了となってしまったわけです。

(参考)振替加算額

◆終わりに

振替加算の問題については最近マスコミでも話題にあがっていますが、夫婦の生年月日の違いや仕事や親族の介護等で住所が異なる場合や国籍の問題等によって様々なケースがあります。必要な書類もその方のケースによって違ってきます。また、年金には時効という問題もあります。

ご自分ではわからない点は年金事務所等相談の窓口の他、下記のような都道府県会の社会保険労務士会が主催する相談窓口や、お近くの専門家である社会保険労務士にぜひご相談ください。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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