年金コラム

2021.03.23

繰上げ請求と繰下げ請求について

こんにちは社会保険労務士の土屋です。今回も皆さんにとって関心の高い年金についてお話しさせていただきます。今回は年金の繰上げと繰下げ請求の手続きについてです。

繰上げ請求の手続きについて

年金保険料納付済期間10年以上の資格要件を満たした上で、1年以上の厚生年金加入期間がある方(昭和36年4月1日以前生まれの男性並びに昭和41年4月1日生まれの女性)は、65歳前から特別支給の老齢厚生年金が受給できます。受給できる年齢は下記の通り、生年月日に応じて支給開始年齢がそれぞれ違います。

図表①

上記の方が希望すれば60歳の誕生日の前日以降に年金を受給することができます。ただし、本来定められた受給開始年齢から繰上げての受給をしますので、下記のデメリットが発生します。

●本来の年金受給額が減額になります。

本来の受給開始年齢前に請求をしますので、請求年月日から本来の年金受給開始年月日までの間の月数×0.5%が減額になります。(☆令和4年4月~減額率は0.4%に改定予定。)

例:昭和34年4月2日生まれの男性の方が令和3年4月に繰上げ請求した場合

1.老齢厚生年金(報酬比例部分)×88%
本来の年金受給開始年齢64歳より2年(24月)前倒し受給の為12%(0.5%×24月)減額支給。

 

2.老齢厚生年金(差額加算)×70%(0.5×60)
本来の年金受給開始年齢65歳より3年(36月)前倒しの為18%(0.5%×36月)減額支給。

 

※差額加算とは20歳前や60歳以降の厚生年金加入期間の基礎年金部分にあたるものです。
国民年金の加入期間は20歳~60歳までの間の加入期間に応じて65歳から老齢基礎年金が計算されます。20歳前や60歳以降の厚生年金加入期間については老齢基礎年金の年金額には反映されない為、老齢厚生年金から支給になります。それが差額加算です。(480月の頭打ちあり)
したがって、基礎年金部分は65歳から支給ですので、差額加算は基礎年金部分として繰上げ請求した場合65歳からの減額計算になります。

3.老齢基礎年金×70%(0.5×60)
老齢基礎年金は本来の受給開始は65歳からですので、3年(36月)前倒しの為18%(0.5%×36月)減額支給。

●事後重症請求の障害厚生年金は請求できません。

持病があり、初診当時(はじめて医療機関に受診した日)は病状は重篤でなくても、年をかさね病状が悪化することがあります。就労できなくなったり日常生活に支障がでた場合、65歳になるまでであれば、事後重症の障害年金の請求ができます。しかし繰上げ請求をすると障害に該当するような重篤な状態になってもこの請求はできません。

●高齢任意加入や過去の免除期間・納付猶予期間の納付はできません。

国民年金は60歳まで加入義務がありますが、国民年金の加入月数が480月に満たない方は65歳になるまで480月を満たすまで任意で加入することができます。ただし、高齢任意加入は繰上げ請求した場合はできませんし、過去に国民年金を免除や猶予した期間の追納もできなくなります。
※免除期間や納付猶予した期間は手続き後10年経過した場合はできません。

●遺族厚生年金(65歳まで)や寡婦年金との併給はできません。

繰上げ請求した方は、65歳になる前に配偶者が亡くなって遺族厚生年金や寡婦年金を受給できるようになっても、併給はできません。繰上げ請求した年金か遺族年金(寡婦年金)か、どちらか選択することになります。なお、繰上げした老齢年金については、遺族年金の支給が終わった65歳から支給されますが、繰上げた時のままの年金額が支給されますので、結果として繰上げ損ということになります。

これから特別支給の老齢厚生年金を受給する方が繰上げ請求をする場合、65歳から受給する老齢基礎年金も一緒に繰上げ請求しなければなりません。老齢厚生年金の方だけを繰上げ請求をして、老齢基礎年金は65歳から受給するという選択はできません。老齢基礎年金は65歳からの受給ですから、60歳時に繰上げ請求すると30%の減額となり、65歳になっても増額になることはありません。
また、令和4年4月から繰上げ請求する減額率の割合が1月あたり0.4%(現行0.5%)に改定される予定です。繰上げ請求を検討される方は上記の点を考慮して検討していただく必要があります。
請求を希望される方は事務所に来所し、年金請求書(102号)と繰上げ請求書と繰上げ請求することの確認書を記載し、手続きをします。単身者の方であれば、預金通帳・雇用保険被保険者証(事業主や役員また自営業等で7年以上雇用保険に加入にない方は不要)等の必要書類を持参し、マイナンバーカード等で本人確認できれば、60歳の誕生日の前日以降からいつでも手続きが可能です。
※配偶者がいる方については戸籍謄本が必要になります。詳細は日本年金機構か社会保険労務士にご確認いただければと思います。

繰下げ請求手続きについて

65歳前から特別支給の老齢厚生年金を受給(在職中で全額支給停止の方も含む)をしている方については、65歳の誕生月のはじめに裁定葉書を提出して欲しい旨の通知が日本年金機構から送付されます。65歳から繰下げを希望しないで年金受給を希望する場合には、名前と住所を記載し誕生月の末日までに投函すれば、そのまま65歳からの老齢基礎年金&老齢厚生年金を受給できます。もし、65歳から繰下げを希望する場合には、繰下げを希望する年金の箇所の「〇」を付けて投函します。繰下げ請求は老齢基礎年金のみ、老齢厚生年金のみどちらか一方だけでも可能です。もし、両方の年金を繰下げする場合には葉書を投函しないでください。(両方「〇」をつけて投函しない。)そして66歳の誕生日以降、年金をもらいたいときに年金事務所に来所し、請求手続きを行えば、請求をした翌月から増額した年金(8.4%~42%増)が受給できます。なお、現在は70歳まで繰下げが可能ですが、令和4年4月からは75歳まで繰下げることにより受給額の増額(50.4~84%増)が可能になります。ただし、75歳までの繰下げができる方は、令和4年4月1日時点で70歳に到達していない方が対象です。

加給年金・振替加算は増額にならない

厚生年金加入期間が20年以上ある受給者が65歳に到達した時点で、その配偶者が厚生年金加入期間20年に満たない方の場合、配偶者が65歳に到達するまで受給者に加給年金が加算されます。65歳から老齢厚生年金を繰下げしてしまうと、加給年金は支給されませんし、66歳以降に繰下げ請求をしても加給年金は請求した翌月から支給されるだけで、増額はされません。
また、加給年金支給対象であった受給者の配偶者が65歳に到達すると、自身の老齢基礎年金(昭和41年4月1日生まれまでの方)に振替加算が加算されます。ただし、65歳からの老齢基礎年金を繰下げすると、66歳以降に繰下げ請求をした翌月から振替加算も支給されますが、振替加算も増額対象にはなりません。
繰下げを検討する方は配偶者の年金受給も考慮して検討をする必要があります。

遡及請求も可能

65歳時の請求手続きはあくまで請求行為自体を先延ばししているだけです。したがって、66歳~70歳時に遡及して年金受給をするという選択も可能です。年金の時効は5年ですので、70歳から1ケ月を超えると時効が適用されますが、70歳到達月までに請求をすれば5年分の年金が受給できます。老齢になって、自分や家族が癌や脳出血等で手術やその後治療が必要になった場合、健康保険から給付や加入している医療保険から給付を受けることができても、高度治療が必要になった場合、保険外診療や本人負担が多大になる可能性もあります。いざという時に使える現金があれば、そうした時に対応が可能です。繰下げ請求をした場合、2ケ月に増額した分の年金が受給できるだけで、遡及はできません。そうした点もよく考慮した上で検討していただければと思います。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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