年金コラム

2020.09.23

厚生年金保険料の計算方法と在職老齢年金の調整の仕組みについて

社会保険労務士の土屋です。今回もみなさんにとって関心の高い年金についてお話しさせていただきます。今回は標準報酬制と厚生年金保険料の計算方法、並びに在職老齢年金の調整の仕組みについてです。

社会保険料と年金の計算は標準報酬で決定

老齢厚生年金と特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金支給額の計算基礎になるのが、毎月支給されている給与と賞与から控除される社会保険料です。給与支給額は会社や被保険者それぞれによって当然異なります。その為、毎月の社会保険料の計算には「標準報酬月額制」が、賞与には「標準賞与額制」が取り入れられています。厚生年金の場合は88,000円~620,000円まで6,000円~30,000円刻みの31の等級が設定され、社会保険に加入するすべての事業所は、被保険者の報酬額をそれぞれの等級表の該当する等級にあてはめて、毎年(または雇用時・契約変更時)届出を提出します。
この届出のことを「定時決定」といいます。事業所は、毎年7月初めに全被保険者の4月~6月の3ケ月間に支給した給与(交通費も含む)を算定基礎届に記入し提出します。4~6月の3ケ月の平均額で、その年の9月~翌年8月の社会保険料が決定されます。
また、平成15年4月からは「総報酬制」が施行され、賞与についても年金計算の対象となり、給与と同じ保険料率で算出された社会保険料が賞与から控除されるようになりました。賞与については支給された被保険者の総支給額から1,000円未満の金額を切り捨てて賞与届を提出し、社会保険料を決定します。(標準賞与額には上限があり、150万を超える場合は150万として計算されます。)

【厚生年金保険料の計算例】

4月~6月の平均給与の額が146,000円~155,000円未満の被保険者の場合、厚生年金保険料標準報酬月額は150千円となります。
厚生年金の保険料:150,000×183/1000=27,450 27,450÷2=13,725円(事業者と被保険者で2分1ずつ負担)。厚生年金の保険料率については、平成29年8月以前までは乗率引き上げが実施されていましたが、平成29年8月から乗率18.300%と固定の乗率とされました。

この全被保険者期間の標準報酬の記録に基づいて、65歳から支給される特別支給の老齢厚生年金の報酬比例部分と65歳から支給される老齢厚生年金の年金額が決まります。年金額は下記の算式で計算されます。

A)総報酬制実施前 平均標準報酬月額×7.125/1000×平成15年3月までの被保険者月数
B)総報酬制実施後 平均標準報酬額×5.481×平成15年4月以降の被保険者月数
A+B=年金額

総報酬制の導入により、賞与についても年金計算の対象とされました。その為、平成15年3月までは特別保険料として定額の保険料が徴収されていましたが、賞与についても給与と同額の保険料率の保険料が控除されることになり、年金の計算自体も平成15年3月までと平成15年4月以降は別々に計算し、合算して計算されることになります。
また、「平成12年改正による5%適正化」※前の従前額を補償する従前額補償も行われていますので、A+Bで計算した年金額より下記の算式で計算した年金額が高い場合には、そちらが適用されます。

C) 平均標準報酬月額×7.5/1000×平成15年3月までの被保険者月数
D) 平均標準報酬額×5.769×平成15年4月までの被保険者月数
C+D×従前改定率=年金額

※『平成12年改正による5%適正化』
平成12年に実施された財政検証の結果、厚生年金の将来の財政状況を考慮すると、厚生年金の支給額については一定額を適正化(減額)をする必要があり、厚生年金の報酬比例部分の計算に用いる保険料率について5%適正化(減額)することとなりました。
具体的には昭和21年4月1日以前生まれの方は生年月日別に下記の新支給乗率(生年月日別に段階的に乗率が設定)を用いて、老齢厚生年金の報酬比例部分(特別支給の老齢厚生年金含む)が段階的に計算され、昭和21年4月2日以降生まれの方は下記表の新支給乗率(定率)の保険料率で老齢厚生年金の報酬比例部分(特別支給の老齢厚生年金含む)が計算されることになりました。

図表①

ただし、旧支給乗率で計算した老齢厚生年金の支給額が新乗率で計算した額を上回る場合には、旧乗率で計算した年金を支給することとされました。(従前額補償)なお、従前額補償での補償は一定の従前改定率をかけて計算をします。

また、平均標準報酬額(平成15年3月までは平均標準報酬月額)は全被保険者期間の給与(平成15年3月~は賞与も対象)の平均額ですが、当時の報酬額の金額のまま計算しては、低額な年金となってしまいますので、それぞれの期間に応じた再評価率を報酬額に乗じて、現在の価値に合わせた報酬額に修正をしてから年金計算をする仕組みになっています。
再評価率は日本年金機構のHPで確認ができます。自分の標準報酬の記録を年金事務所でもらい
(またはねんきんネット等やねんきん定期便で確認)下記の再評価率にあてはめて、自分の年金計算をすることもできます。

https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/sonota/20150401-01.html

在職老齢年金の調整の仕組み

65歳前に支給される特別支給の老齢厚生年金は総報酬月額(標準報酬月額+標準賞与額(過去1年間に支給された賞与÷12))と年金月額の合計額が基準額(28万)を超えた場合、超えた分の2分の1が減額調整されます。(低在老といいます。)また、65歳から支給される老齢厚生年金も総報酬月額(標準報酬月額+標準賞与額(過去1年間に支給された賞与÷12))と老齢厚生年金の報酬比例部分(老齢基礎年金と差額加算は対象外)との合計額が基準額(47万)を超えた場合、超えた分の2分の1が減額調整されます。(高在老といいます。)
在職老齢年金の調整については、昨年改正され令和4年以降、65歳前の特別支給の老齢厚生年金についても高在老の基準額に統一される予定ですが、賞与についても対象になります。これは転職をして会社を代わっても賞与については前職の支給分についても対象になります。
在職老齢年金受給者の方で、最近残業が多く給与の支給が増額になったので、年金受給額が減額されるのではと心配される方がいます。固定給の変動がなくただ単に時間外労働分が増額になっただけでは、標準報酬月額が改定されることはありません。賞与の支給額による変動はありますが、調整後の支給額が大幅に変わることはありません。ただし、固定給の増減があり、大幅に給与支給額が変動し、その変動幅が2等級以上に及び、かつ、その状態が3ケ月継続した場合には、4ケ月目に月額変更届を提出しなければなりません。社会保険料は改定後の標準報酬月額に応じて増減改定されますし、改定後の標準報酬月額を加えた総報酬月額で調整されることになります。
ただし、年金受給者の方については、上記の月額変更を適用してしまうと、給与が減額になったのに従前の高い社会保険料を負担し、また在職調整も従前の標準報酬月額が適用され、著しく不利益になるため特例が設定されています。在職老齢年金の受給については、雇用契約の変更等で、給与の改定があった場合には改定があった翌月から、改定後の標準報酬月額で社会保険料の計算がされますし、在職老齢年金の調整についても翌月から改定後の標準報酬月額を加えた総報酬月額で調整されます。この手続きを「同日得喪」と呼んでいます。なお、対象になるのは雇用者のみですので、事業主や役員は原則対象外です。

最高等級が令和2年9月~改定

年金の見込み額については年金事務所で試算をしてもらえますので(要予約)、興味のある方は相談していただければと思います。また、9月から定時改定により健康保険料と厚生年金保険料の改定がありますが、冒頭に説明しました等級表について改定があります。
毎年全被保険者の標準報酬の平均額に変動があった場合には、等級の見直しが実施されますが、今年の9月から厚生年金の最高等級が改定されます。
標準報酬等級は毎年見直しが実施されます。厚生年金保険法では、毎年3月31日時点で全被保険者の平均標準報酬月額の2倍の額が標準報酬月額の最高等級(現在620千円)を超え、その状態が継続すると見込まれる場合には最高等級を改定することができると定められており、令和2年9月1日から最高等級が650千円に追加改定されました。したがって、従業員や事業主・役員の方で最高等級に該当している方で、報酬が605,000~635,000円未満の場合は620千円に、635,000円以上の方は650千円で令和2年の9月分から厚生年金保険料を計算しなければなりません。

令和4年から、在職調整の仕組みや厚生年金の加入年齢や繰り下げの上限年齢の引き上げ等様々な改定が施行される予定です。改正情報を確認され、必要に応じて、年金事務所や社会保険労務士へ相談していただければと存じます。

社会保険労務士
土屋 広和
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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