税金・保険コラム

2025.09.16

社会保険の適用拡大(5)令和9年から令和17年までの短時間労働者の段階的拡大と5人以上雇用する個人事業所全業種への適用

皆さん、こんにちは。10月から都道府県別最低賃金が改定されますが、発表された金額に驚いた方も多いのではないでしょうか。一番低い県で1,015円、東京都は1,226円となりました。円安による原材料やエネルギー価格の高騰で物価が上がっており、お米の値段も上昇しています。最低賃金の引上げは不可欠ですが、随分上がったなという印象です。

多くの事業所では、パートやアルバイトの時給を最低賃金に合わせていることが多く、時給アップを喜ぶ声がある一方、「扶養から外れてしまうのでは」と心配する方もいらっしゃいます。しかし、今後は扶養にとどまらない働き方が制度的にも後押しされていきます。

今年は5年に1度の年金制度改正の年にあたり、令和7年6月13日に関連法案が可決・成立し、今後の制度改正の方向性が正式に決まりました。
その柱の一つが、社会保険(健康保険と厚生年金保険)の適用拡大です。週20時間以上働く「短時間労働者」の保険加入についても、おおよそ最終段階まで決定されています。

本コラムで改正内容をシリーズで取り上げていますが、今回は、今後の社会保険加入対象事業所の拡大スケジュールについて解説します。

1.短時間労働者が加入対象となる事業所規模の推移

現在は、社会保険の被保険者が51人以上いる事業所が「特定適用事業所」とされ、そこで週20時間以上働くパート・アルバイトなどの短時間労働者は社会保険に加入する義務があります。今後は、この対象となる事業所の規模が段階的に引き下げられ、最終的には勤務先の規模に関わらず、週20時間以上働く短時間労働者は社会保険に加入することになります。

2.短時間労働者の賃金要件は撤廃

現時点では、以下の5つの要件全てに当てはまる短時間労働者が加入対象です。

① 週の所定労働時間が雇用契約上20時間以上
② 雇用契約期間2か月超の見込み
③ 昼間学生ではない(休学中や夜間学生は対象)
④ 段階的に変更となる事業所規模による特定適用事業所で働いている
⑤ 賃金月額88,000円以上
  ※最低賃金に含まれない通勤手当、残業代、家族手当などはこれに算入しない。

⑤の賃金要件は、最低賃金の引上げに伴い撤廃される方針で、来年10月以降の改正でこの要件はなくなる見込みです。

3.令和11年10月からの個人事業所の社会保険適用

法人ではない個人事業所のうち、農林水産業・飲食店・クリーニング店・理美容業・銭湯・宿泊業・デザイン業・写真業・映画館・スポーツジム・カラオケ店などの娯楽業・警備業・宗教業など、元々家族経営が多い業種では、社会保険は強制適用ではなく、従業員の1/2以上の同意を得て適用事業所になれる任意適用となっています。

そのため、勤務先が適用事業所ではない個人事業所の場合、正社員であっても社会保険には加入できません。

今回の改正により、令和11年10月1日からは、業種を問わず従業員5人以上の全個人事業所が強制適用事業所となり、5人未満の個人事業所のみが任意適用となります。
ただし、経過措置として、令和11年9月30日までに開業した個人事業所は、5人以上でも任意適用のままとなります。

社会保険に加入したい場合は、適用事業所に就職するか、事業主に加入をお願いする必要があります。なお、個人事業主本人は社会保険の加入対象外のため、適用事業所になっても従業員のみ加入可能です。これが、適用事業所化が進みにくい一因となっています。

4.今年の年金制度改正で決まった事項一覧

2025年の年金制度改正で決まった主な内容をまとめます。

1.社会保険の適用拡大(短時間労働者と5人以上の全個人事業所)
2.在職老齢年金制度の見直し
3.遺族年金の見直し
4.厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ
5.将来の基礎年金の給付水準の底上げ
6.iDeCoの加入上限年齢の引上げや企業年金の運用情報の開示
7.年金受給者の子の加算等の見直し
8.外国人の脱退一時金制度の見直し
9.その他

戦後、日本では女性は専業主婦が当たり前でしたが、その後は結婚や子育てを機にパートで働く女性が増えました。第3号被保険者制度のメリットにより、夫の扶養の範囲内で働くことにお得感があるためです。

しかし近年は、女性も男性と同様に仕事を持ち、子育ての負担も夫婦で分担することが推奨され、育児休業制度の充実も進んでいます。

就職氷河期の影響や離婚の増加、あえて独身を選ぶ人の増加により、単身者も大幅に増え、ライフスタイルは多様化。加えて、高齢化や少子化も予測以上に進行しています。

こうした状況を背景に、各種制度が見直されています。社会保険は健康保険と厚生年金保険が基本的にセットとなっているため、年金制度改正についても触れさせていただきました。

おしまいに

これからの日本や社会がどう変わっていくのか、5年後の未来もなかなか想像しにくいですね。AIに仕事を奪われる可能性もある中で、上手く活用しながら、この急速に変化する時代を渡り歩くには、一人ひとりが自立し、学び直しやスキルアップを通じてキャリア形成を考えることが大切だと感じます。

今年の夏、アメリカ本土に住む中学時代の友人の家を訪れたのですが、英語がほとんど話せない自分にだいぶ呆れてしまいました。自分自身の学び直しとして、10月に帰国する友人の家族と自然に会話できるよう、いまどきのYouTube動画やAIを使って英語を勉強するつもりです。がんばらねば!。

そして、今回のコラムが最後となります。長い間、本当にありがとうございました。またいつか、どこかでお会いできることを楽しみにしています。

社会保険労務士
木村 晃子
さいたま総合研究所人事研究会 所属
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