2007.12.06
遺言・相続(6)「相続放棄」について
皆さん、こんにちは。今までこの遺言・相続シリーズでは、相続をすることが前提で、キーワードを記述して参りましたが、今回は「相続放棄」とその関連事項についてふれてみたいと存じます。
1.「単純承認」
通常、被相続人が亡くなってから3ヶ月間、相続人がそのままにしておきますと、自動的に被相続人の財産を相続することになります。これを相続の「単純承認」といいます。
単純承認した場合、土地、建物、預貯金、株式など、被相続人が残していったプラスの財産のほかに、借金などのマイナスの財産があれば、それも相続することになります。
もし、被相続人が生前に借金をしていた場合、相続人はその負債も相続し、返済していかなければなりません。借金がはなはだ多額であった場合、たいへんなことになります。
その借金は、相続人が自分ひとりの場合は単独で、相続人が複数いれば共同して、返済しなければなりません。相続した財産より負債のほうが多ければ、まさに地獄を見る方もおられます。
したがって、相続をする場合、この点に注意する必要があります。
もっとも、後述する「相続放棄」をせず、親の借金は子供の自分が全部返して、親の恩に報いるというような殊勝な方もおられるかも知れません。
2.「相続放棄」
前述のような場合や、たとえば自分は親の面倒を見なかったので、自分は相続をせず、親の面倒をみた他の相続人に取り分を多くしてやりたいといった場合は、「相続の放棄」をして、すべて相続しないことができます。
「相続放棄」は、被相続人が死亡したことを知ったときから3ヶ月以内に被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に手続きをする必要があります。そのままにしておきますと、「単純承認」をしたことになってしまいます。
自分の相続分を全部放棄する場合は、他の相続人の意向にかかわらず単独でできます。
しかしながら、他の相続人にはその旨ひとこと伝えておかないと、支障がでる場合がありますのでご注意ください。
3.「限定承認」
相続はするが、被相続人が残していった借金は、自分が相続した財産の範囲内で返済するという「限定承認」という方法もあります。
限定承認も同じく3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てを行います。プラスの財産を相続し、マイナスの財産があれば、自分が相続した財産の範囲内で、返済することになります。
その結果、プラスの財産が多い場合は、借金を返してもおつりが残りますが、マイナスの財産の方が多い場合は、せっかく相続した財産もなくなってしまうことになります。
この「限定承認」は、単独ではできず、相続人全員でしなければなりません。ひとりの相続人だけに「限定承認」を認めると、他の相続人への影響が大きくなり不都合が生じるからだと存じます。
留意点
ときに、相続をする際に気をつけるべき事項としては、「相続放棄」や「限定承認」をする場合には、前述のように家庭裁判所に申し立てをする期限があることのほか、以下のことが挙げられます。
- 相続財産を全部あるいは1部でも処分してしまったり、消費したり、隠したりしますと、それはもう単純承認をしたことになり、「相続放棄」や「限定承認」ができなくなってしまいます。
- また、これは被相続人の問題ですが、借金を抱えていたり、他人の借金の連帯保証人になっている場合は、隠さず相続人の全員に対して生前に伝えておくか、遺言に明記する必要があります。それをしておかないと、相続人が「単純承認」するのか、「相続放棄」をする必要があるのか、「限定承認」をするのかの選択肢を与えないことになってしまいます。
- 「相続放棄」をすると、すべての請求ができなくなるわけではありません。たとえば、被相続人が勤めていた会社から支払われる弔慰金や、公的年金給付の遺族年金がよい例です。退職金のように、本来、被相続人に支払われるものであれば、「相続放棄」した人は権利がなくなりますが、もともと制度的に遺族に支払われる遺族固有の権利があるものは、「相続放棄」に関係なく請求が可能です。
皆さんにとって相続は、一生に何度もない大きなことです。大事なポイントを押さえながら、手抜かりなく粛々と進めて頂きたいと存じます。
次回は「遺産分割協議」についてふれさせて頂く予定です。
小柴 正晴