Vol.5 唯一無二の喉越し、盛岡冷麺

職人のこだわりから生まれた歴史
岩手県盛岡市を代表するご当地グルメ「盛岡冷麺」。わんこそば、じゃじゃ麺と並ぶ「盛岡三大麺」の一つに数えられ、今や全国的な知名度を誇る名物料理です。透き通るような麺とコク深いスープ、そしてキムチの辛味が織りなす味わいは、他の地域の冷麺とは一線を画しています。
盛岡冷麺の歴史は、1954(昭和29)年にさかのぼります。発祥の店「食道園」の創業者・青木輝人氏が、朝鮮半島北部で親しまれていた冷麺をもとに、日本人の味覚に合う独自の味を考案したのが始まりです。青木氏は故郷の味である「咸興(ハムン)冷麺」と「平壌(ピョンヤン)冷麺」の双方の特徴を取り入れ、新たな麺料理として完成させました。
この新感覚の冷麺は、焼肉文化の浸透とともにまたたく間に人気を集めていきます。そして1986(昭和61)年、転機が訪れます。「ニッポンめんサミット」に出品された「ぴょんぴょん舎」の冷麺が高い評価を受け、これを機に「盛岡冷麺」の名は一気に全国へと広がっていきました。
強いコシと深みのあるスープ
盛岡冷麺の最大の特徴は、その独特な麺にあります。小麦粉とでん粉を主原料とした半透明の麺は、一般的な韓国冷麺とは異なる強いコシと弾力が魅力。噛むほどに力強い押し返しを感じる一方、つるりとした喉越しも兼ね備えており、一度食べたら忘れられない存在感があります。
また、スープも欠かせない要素です。牛骨や牛肉を中心に、店によっては鶏ガラなども加えて丁寧にだしを取り、すっきりと冷たく仕上げます。そこにキムチの辛味と酸味が加わることで、さっぱりとしながらも奥深い味わいが生まれるのです。辛さを調整できる店も多く、別添えのキムチ(別辛)を加えながら自分好みの味に調整するのも、盛岡冷麺ならではの楽しみ方です。
個性を競う、名店たちの味わい
また、店ごとに際立つ個性も魅力です。
老舗として地元で親しまれる大同苑は、牛の旨味をしっかり感じられる澄んだスープと、ほどよい弾力の麺が特徴です。辛味とのバランスにも優れ、飽きのこない味わいで多くのファンを魅了しています。
一方、ぴょんぴょん舎は、コシの強い自家製麺とまろやかなスープで全国的な知名度を誇ります。焼肉店ならではの肉の旨味を生かしたスープは、盛岡冷麺を初めて味わう人にも親しみやすいと評判です。
さらにヤマトの冷麺は、豊かなコクを持つスープと力強い麺の存在感が魅力です。キムチとの一体感も高く、焼肉との相性を意識した味づくりに定評があります。
同じ盛岡冷麺でありながら、店ごとに麺の食感やスープの風味、辛味の表現が異なり、食べ比べも大きな楽しみの一つとなっています。
