Vol.1 高知・南国の恵み満載、土佐田舎寿司


高知の朝市で出会った野菜のお寿司
城下町・高知。「南海の名城」高知城のお膝元では、毎週出店数300店にもおよぶ日曜市が開催されます。この日曜市、起源は江戸時代。1690(元禄3)年にお殿様が許可した「市立て(いちだて)」に始まり、なんと300年にわたって続いてきたそうです。
この日曜市には、近郊でとれた新鮮な野菜や果物、太平洋で揚がったシラスなどの海産物、手づくりのお菓子や雑貨など、高知の恵みが大集合。見て歩くだけで気分が盛り上がります。なかでも目をひいたのは、パックに入ったお弁当ならぬ、野菜のお寿司。ミョウガやシイタケ、こんにゃく、タケノコ、リュウキュウ(里芋やハスイモの一種で茎のみを食べる)などが載って彩り鮮やか。日曜市では何軒ものお店がこの田舎寿司を出していました。土佐(高知)ではハレの日の家庭料理のひとつとして、それぞれの家の味があるのだそうです。


愛情がつまったヘルシー寿司
見た目もかわいい田舎寿司、どうやってつくるのでしょうか。達人に教えてもらいに、高知市から車で1時間半ほど東にある北川村を訪ねました。公民館では、地元で生まれ育ったふたりの達人が待っていてくれました。
「お客さんが来るときや、家族が都会から帰省するときにはこのお寿司でもてなすんじゃき」と話すのは、達人のひとり中野さん。
まずはお米をたっぷり炊きます。炊きあがったごはんを酢飯に仕立てていくために、砂糖・塩に、米酢でなくゆず酢をたっぷりまぶします。さらに焼いたサバをほぐし、ごはんに混ぜていきます。
寿司のネタは自然ゆたかな高知の恵みがいっぱい。高知はミョウガの産地として有名ですが、そのミョウガを前日からゆず酢につけておいたもの。近くの山でつくっているというシイタケを甘く煮たもの。やはり甘く煮たこんにゃくと金時豆。5月にとれるハチクというタケノコを湯がいて保存していたもの。そして緑色がみずみずしいリュウキュウ。
「どれも山の村で身近にある地味なものだけど、それを美味しそうにきれいに盛り付けるのが大切よ」ともうひとりの達人、西岡さん。
出来上がったお寿司はびっくりするほど大きな皿に盛りつけます。高知は“おきゃく”とよばれる人の集まり、飲み会が多いので、どのお宅にも大きな皿があるそう。
さあ、いただきます!りゅうきゅうは歯ごたえがしゃくしゃく。シイタケの甘みと爽やかな酢飯がよく合います。ハチクは真ん中にご飯が詰められていて、タケノコの海苔巻きのよう。初めて食べました!さっぱりしていくつでも食べられそうです。


土佐料理の味の決め手は「酢みかん」
高知の特産といえば、ゆず、はなゆ、ぶしゅかんなどの酢みかんです。青いうちに収穫し、その果汁で酢をつくるのです。土佐高知で酢といえば、柑橘の酢。青ゆずを絞った果汁を瓶に詰め、発酵しないように塩を加えた「ゆの酢」は醤油の代わりとなるほど、食卓に常備された調味料です。
このゆの酢が、さまざまな料理の味の決め手となっています。土佐田舎寿司はまさにその代表で、酢飯にするとき、ミョウガを甘酢漬けにするとき、すべてゆの酢を使います。青ゆず独特の香りのよさ、爽やかさが、素朴な寿司をごちそうにしてくれるのです。また、皮の部分をすりおろし、薬味に使うこともあります。
はなゆはやなせたかしさんの故郷、香南市で栽培されている希少種。皮がやわらかめなので、輪切りしてそうめんや豆腐に載せたりします。また四万十川の流域で自生していたぶしゅかんは、さらに爽やかさと酸味が強く、最近は焼酎のソーダ割に入れると美味しいと評判だそうです。南国土佐ならではの恵みの調味料が酢みかんなのです。