旅・レジャー

2010.07.08
夏が来れば思い出す――冷たい清流のような喉ごしの素麺。天草四郎で有名な長崎県島原市には、素麺に関するちょっとした名物があるのをご存知でしょうか。それは「そうめん流し」。竹の樋(とい)に素麺を流すのではなく、流れるプールのような円形装置の中で素麺を周回させるが島原流。木々に囲まれた開放的な空間で提供される「そうめん流し」は、島原の夏の風物詩です。
水の中をさらさらと流れていく素麺は、見た目に涼しいだけでなく、共に食事する人との楽しく賑やかな時間も約束してくれます。仲間や家族と円卓を囲み、童心に戻って流れる素麺を追えば、忘れられない夏の思い出になるかもしれません。
もともと島原は素麺の名産地。生産量は全国2位を誇り、その歴史は約350年前、島原の乱のころにまでさかのぼるとか。昔ながらの伝統的な手法で作られた素麺は、コシが強くなめらか。モチモチ・シコシコとした食感、風味豊かな味わいで、"島原ブランド"を確立しています。煮崩れしにくいため調理しやすく、味もことのほか良いということで、毎年リピートするファンも少なくありません。
素麺を作るための理想的な場所は、美しい水のある土地、それも温かく乾いた気候の土地とされています。雲仙岳の肥沃な土で育まれた良質な小麦と清らかな水、そして温暖な気候...島原は、まさに素麺づくりにうってつけの地。島原への旅は、そんな風光明媚な土地を訪ねる旅でもあるのです。
中でも特筆すべきは、水。島原は、古くから湧き水に恵まれた「水の都」でもあります。市内には、澄んだ水が流れる水路がいくつも引かれ、水辺散策路や洗い場など、水に恵まれた土地ならではの美しい風景に出会うことができます。昔ながらの水路に鯉が放流されている「鯉の泳ぐまち」や、藩政時代の面影を今に伝える「武家屋敷跡水路」など、風情あふれる景観が旅人を楽しませてくれます。名物の「流しそうめん」を味わった後は、市中を巡る湧き水の水路をたどり、涼の在りかを追いかけてみるというのも素敵です。
「とにかく暑い!」として知られる京都の夏。うだるような熱気に包まれた市街地を抜け、京の奥座敷「鞍馬・貴船」まで足を伸ばしてみてはいかがでしょう。車もいいですが、せっかくならば電車でのんびりと。どこかノスタルジックな印象の比叡電車に乗り込んで、心地よく揺られるうちに、いつの間にか車窓の外は滴るような緑。始発駅の出町柳駅から30分ほどで、目的地の鞍馬駅に到着です。そこには、静謐なオーラが漂う神聖な空間が待ち受けています。
かつて牛若丸(源義経の幼名)が鞍馬天狗に剣術を教わったという「鞍馬寺」。源義経ゆかりの建造物も数多く残されています。「仁王門」をくぐれば、そこはもう俗界ではなく浄域です。山道を静かに登っていくと、鞍馬寺の鎮守社であり"鞍馬の火祭り"でも有名な「由岐神社」が。石段を踏みしめて歩みを進めるうちに、清少納言が『枕草子』で「近うて遠きもの」と称した九十九折の参道が現れます。幾重にも折り重なるように石段が続く難所ですが、平安の昔に思いを馳せれば、それも一興。いにしえの旅人の気分が味わえます。やがて見えてくるのが、堂々とした佇まいの「本殿金堂」。ここには毘沙門天王、千手観世音菩薩、護法魔王尊の三身を一体とするご本尊が祀られています。秘仏ではありますが、それぞれが太陽と月と地球、光と慈愛と力を象徴しているというだけあり、その空間に触れただけで偉大なエネルギーに身が清められるような感覚を覚えます。長い山道を登り辿りついた者だけが味わえる、貴重な経験なのではないでしょうか。
続いては、「貴船神社」の方面へ。鞍馬の「西門」を抜け、木々の連なる山道を歩くうちに徐々に聞こえてくるのは、涼やかなせせらぎの音。それもそのはず、水神「高おかみの神」を祀った貴船神社は、古くから鴨川の水源を守る神として崇められてきた由緒ある神社なのです。
朱塗りの灯篭がずらりと並ぶ参道をたどれば、まるで異空間にまぎれこんだよう。社殿は本宮、結社、奥宮に分かれており、幽玄なムード漂う本宮では、霊験あらたかな水占いを体験することができます。本宮をお参りした後は、奥宮へ、そして最後に結社へ御参りするのが古くからの習わし。結社は、平安時代の女流歌人・和泉式部が不和となった夫との復縁を叶えたことから縁結びの神としても信仰されており、いまでは多くの恋に悩む女性たちの拠り所にもなっています。
心静かに、想いを込めて貴船参りを済ませた後は、川のせせらぎの上で涼みながら食事ができる「川床(かわどこ)」で、京都ならではの情緒を楽みましょう。
蒸し暑かった下界のことがまるで嘘のように思える、涼やかな風が吹きぬける貴船。五感を研ぎ澄ませ、ひと味違う贅沢な避暑を堪能してみてください。